夢で会ったインキュバスが忘れられないんだが

Sui

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夢と現実の狭間

09

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 一軒家は二階建てになっていて3人家族にはちょうどいい大きさ。幸せな家族が住んでいると見て分かるような雰囲気だった。
 ソフィアが先に入り、大きな声で帰ったことを知らせていた。

「帰ってきたのね。おかえりな……さ……」
「私がお招きしたんだ。すまないがお茶でも用意してくれないかな?」
「いいけれど……大丈夫なの?」

 その人は二階から降りて俺を見るとすぐ戸惑い、慌ててフードの人にアイコンタクトしていた。上品の佇まいが抜けきれないかのような仕草で可愛らしい人だった。おそらくエリカかもしれない……と考えながら会釈した。
 フードの人は大丈夫と軽く横を振り、安心させるように笑顔を見せた。

「そういえば名前を訊いてなかったな。私はリュトという。そこの椅子にかけてくれ」
「リトです。どうもおじゃまします……」

 リュトに促されて指していた椅子にかけた。3人で食事に囲まれているだろうテーブルに、一輪挿しの花瓶が真ん中に置いてある。

「ねぇねぇ、かびん、とって!」

 ソフィアが俺の服を引っ張って、花瓶を指さしていた。花瓶を手渡すと、ふわっと笑っておじぎしてくれた。

「そこでつんだおはなをかざるのー。きれいでしょ?」

 少し大きめなポケットから、そこで摘んだであろう小さい花を何本か取り出して花瓶に挿し、俺を見せくれた。
 どう答えたらいいのか分からず、とりあえずうなずいたらソフィアはさらに笑って、俺に花瓶を渡してきた。
 そこにリュトがやってきて、ソフィアの頭を撫でながら向こうで遊んでなさいと優しくたしなめていた。

「ソフィアがすまなかったね。人が好きでおもてなししたがるんだ。君は特にいい匂いするから、いつもよりテンションが上がっててね」
「あの……いい匂いっていうのは?」
「──もう察してるんだろう? 私がインキュバスっていうことは」

 思わず口つぐんだ。まさかそこまで気づくとは。

「インキュバスやサキュバスは空想の存在であることを人間にはそう思わせるようにしている。そうでないと狩られちゃうからね……」

 そんな重大なことを俺に話していいものだろうかと思いながらも、あえて何も言わずに聞き続けた。

「だから、ここには誰にも来れないように魔法がかけてある。領主でさえもここまでは来たことがないんだ」
「リュト、お茶持ってきたわ」

 先ほどの人が二つのカップを載せたお盆を持って入ってきた。

「ありがとう。この人と2人だけで話したいから、君はソフィアと一緒にいてくれないか」
「ええ……」

 不安そうな顔をしながら会釈し、ソフィアのところへ向かっていた。
 おそらく初めてここに人間が入ってきたのだろう、それぐらい戸惑っていたのが分かる。
 加害はしないということを伝えればいいのだが……いまのところその機会はなさそうだ。

「──私はこの人に一目惚れしてね。迂闊にも空想の存在ではないことを伝えてしまった。夢だけで会うのが耐えられなくなってね」
「あの……そこまで話しても大丈夫なんでしょうか?」
「おや? 私のこと知りたいんじゃなかったのか?」
「そ、それは知りたいが……、空想の存在であれば隠したいのが通常なのでは?」

 リュトは突然楽しそうに笑い、目を細めて俺を見てきた。

「私はインキュバスであることは捨てていない。つまり能力はそのままだ──分かるな?」

 リトはハッとした。そういえば初めてルイスと会った時、俺のセックス事情を把握出来ていた。それは夢のなかでもカウントされているのかと驚きはしたが、相手がインキュバスやサキュバスであれば同類なら分かるのかもしれない。

 ともあれ、セックス事情が全て見透かされるのはなんとも気分が悪いものだな。

 顔をしかめた俺にリュトは小さく笑って、お詫びを述べた。

「人間がインキュバスやサキュバスに惚れるのは至極当たり前で、普通なら放置するんだが……今回はちょっとお節介をしたくなってね。君は気付いていないが、同類の匂いがまとわりついてる」
「同類の……匂い?」
「マーキングと思っていい。契約してるなら、常にその匂いがまとわりついてるんだが、契約してないときた──そのインキュバスだかサキュバスだか知らないが、かなり勇気のある行いだな」

 ルイスが俺をマーキングしていると知り、浮かれそうになってしまう。
 駄目だ。もう少し詳しく訊かなければ。

「リトと言ったか、君は極上の精気がある。まだ子どものソフィアでさえもいい匂いと言うのだからな。とうに契約してると思ってた」
「契約というのはどんな——」
「それは言えないな。自分の身のためにも……エリカと契約している以上は」

 やはり先ほどの人はエリカだったのだ。
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