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夢と現実の狭間
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領主の言った通りに道を辿ると、山頂へ向かう入り口らしきのが見つかったが、本当に入り口なのか疑わしいほど先にはうっそうとした森林になっていて薄暗かった。しかしとても人が良かった領主が嘘を言うわけがないと信じ、思い切って踏み出した。
先が見えない道のりをしばらく登り続けていると、微かに子どもらしき声が向こうから聞こえてくる。なんか遊んでるかのような楽しい感じだ。
声が聞こえてきた方に向かって登り続けると、ベリーのような甘酸っぱい香りがふわっと漂ってきたが、それらしき物は見当たらない。
ただただうっそうとした森林が続くばかりだ。
まるで目的地にいつまでもたどり着けないループに入ったかのように感じ、不安に駆られて思わず早足になってしまう。そのせいで息苦しくなり、少し休憩しようと立ち止まり旅袋から水筒を取り出して飲もうと思った矢先、足元に何かがまとわりつくような感触に、咄嗟に水筒を振り下ろそうとした。
だが、まとわりつく正体が何かわかった瞬間思わず叫んだ。
「……うおぉっ! あぶねぇ!!」
「おーいしそなっ、におい。いーいにおいっ」
4~5歳ぐらいの女の子が抱きついていたのだ。おいしそうなにおいっていうのは、領主からいただいた果実のことだろうか?
しかし、こんなうっそうな森林からどうやって出てきたのだと、周囲を見回すとフードを深く被った人が現れた。おそらくこの子の親だろう。
「ソフィア、早くその人から離れなさい。困ってるだろう」
「やーだーっ。いーにおいしてるもんっ」
ますます強く抱きしめられ、戸惑ってそのまま動かずにいる。
とりあえず旅袋から果実を取り出して、その子に見せてやった。
「この果実が食べたいのか? いただいたものだからあげるよ」
ソフィアと呼ばれた女の子は、果実を見てキョトンとして首をかしげた。
「ううん、そ……」
「良かったじゃないか! ソフィアの好きな果物だね。ありがとうございます」
ソフィアが言い終える前にフードを被った人が言いかぶせてきた。
そのことに疑問を持ちつつ、果実をソフィアの小さな手に手渡した。全部受け止めることが出来ず、腕に回して抱える仕草が可愛らしい。
「そこの人、すまないが山頂にある家に用があって、この道で合っているのだろうか」
「山頂にある家……? 君は何の用で来たんだ?」
フードを深く被ってるためあまり見えないが、おそらく訝しげな顔してるだろう。そんな声だった。
「ぱぱー。このひと、ぱぱとおなじにおいもするー」
「ほう? それはそれは」
ソフィアがパパと言われた人はフードを外し、やおらに俺を見て神妙な顔をされてしまった。
インキュバスやサキュバスは美形というイメージだったが、その人はごくごく普通な平凡の顔をしていた。アテが外れたかと心の中で残念がった。
それよりも、俺から何か臭うのだろうか。ここまでずっと登っていたし、もしかしたら汗臭いのかもしれないと自分の腕を少し嗅いでみた。
「──契約してるはずだろう? 知らないのか?」
「……契約? なんのことだ?」
「おや、おどろいた」
本当に驚いてると分かるぐらい目を開いて、そして大きなため息をした。
「まさか私と同類のやつがいたとはね……。とりあえず私についてきたらいい。一人で登るといつまでもたどり着けないからね。ソフィア、おいで」
その人はソフィアから果実を受け取り、手を繋いでから俺に目配せをした。
その時に確信した。この人はインキュバスだと──。
二人についていくと、うっそうとした森林が突然開いた。
なるほど、たどり着けないように魔法をかけられていたのか。もしソフィアが来なかったら俺はどうなっていたのだろうと思わず身震いした。
「そんなに震えなくても、諦めて降りたら入り口のところに戻れるようにしてあるから」
俺を見てすぐ悟ったらしくそう答えた。
「ここに人が入るのは絶対にありえないけれど、君はどうやら訳アリのようだし、ソフィアが君のことを気に入ってるし、今回は特別におもてなししてやろう」
しばらく歩くとベリーの段々畑が現れ、甘酸っぱい香りの正体が判明した。そしてその先にポツンと一軒家があった。
先が見えない道のりをしばらく登り続けていると、微かに子どもらしき声が向こうから聞こえてくる。なんか遊んでるかのような楽しい感じだ。
声が聞こえてきた方に向かって登り続けると、ベリーのような甘酸っぱい香りがふわっと漂ってきたが、それらしき物は見当たらない。
ただただうっそうとした森林が続くばかりだ。
まるで目的地にいつまでもたどり着けないループに入ったかのように感じ、不安に駆られて思わず早足になってしまう。そのせいで息苦しくなり、少し休憩しようと立ち止まり旅袋から水筒を取り出して飲もうと思った矢先、足元に何かがまとわりつくような感触に、咄嗟に水筒を振り下ろそうとした。
だが、まとわりつく正体が何かわかった瞬間思わず叫んだ。
「……うおぉっ! あぶねぇ!!」
「おーいしそなっ、におい。いーいにおいっ」
4~5歳ぐらいの女の子が抱きついていたのだ。おいしそうなにおいっていうのは、領主からいただいた果実のことだろうか?
しかし、こんなうっそうな森林からどうやって出てきたのだと、周囲を見回すとフードを深く被った人が現れた。おそらくこの子の親だろう。
「ソフィア、早くその人から離れなさい。困ってるだろう」
「やーだーっ。いーにおいしてるもんっ」
ますます強く抱きしめられ、戸惑ってそのまま動かずにいる。
とりあえず旅袋から果実を取り出して、その子に見せてやった。
「この果実が食べたいのか? いただいたものだからあげるよ」
ソフィアと呼ばれた女の子は、果実を見てキョトンとして首をかしげた。
「ううん、そ……」
「良かったじゃないか! ソフィアの好きな果物だね。ありがとうございます」
ソフィアが言い終える前にフードを被った人が言いかぶせてきた。
そのことに疑問を持ちつつ、果実をソフィアの小さな手に手渡した。全部受け止めることが出来ず、腕に回して抱える仕草が可愛らしい。
「そこの人、すまないが山頂にある家に用があって、この道で合っているのだろうか」
「山頂にある家……? 君は何の用で来たんだ?」
フードを深く被ってるためあまり見えないが、おそらく訝しげな顔してるだろう。そんな声だった。
「ぱぱー。このひと、ぱぱとおなじにおいもするー」
「ほう? それはそれは」
ソフィアがパパと言われた人はフードを外し、やおらに俺を見て神妙な顔をされてしまった。
インキュバスやサキュバスは美形というイメージだったが、その人はごくごく普通な平凡の顔をしていた。アテが外れたかと心の中で残念がった。
それよりも、俺から何か臭うのだろうか。ここまでずっと登っていたし、もしかしたら汗臭いのかもしれないと自分の腕を少し嗅いでみた。
「──契約してるはずだろう? 知らないのか?」
「……契約? なんのことだ?」
「おや、おどろいた」
本当に驚いてると分かるぐらい目を開いて、そして大きなため息をした。
「まさか私と同類のやつがいたとはね……。とりあえず私についてきたらいい。一人で登るといつまでもたどり着けないからね。ソフィア、おいで」
その人はソフィアから果実を受け取り、手を繋いでから俺に目配せをした。
その時に確信した。この人はインキュバスだと──。
二人についていくと、うっそうとした森林が突然開いた。
なるほど、たどり着けないように魔法をかけられていたのか。もしソフィアが来なかったら俺はどうなっていたのだろうと思わず身震いした。
「そんなに震えなくても、諦めて降りたら入り口のところに戻れるようにしてあるから」
俺を見てすぐ悟ったらしくそう答えた。
「ここに人が入るのは絶対にありえないけれど、君はどうやら訳アリのようだし、ソフィアが君のことを気に入ってるし、今回は特別におもてなししてやろう」
しばらく歩くとベリーの段々畑が現れ、甘酸っぱい香りの正体が判明した。そしてその先にポツンと一軒家があった。
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