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ケンタのピュアさをなんとかしてほしい 〜ワタル〜

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 ケンタが用意してくれた食事を食べながら、ケンタを見やる。

「…なぁ。ケンタ、キスはもう済ませたか?」
「は?」

 何か飲みたかったらしく、飲み物はないか探していたケンタに突然キスは済ませているか訊ねてみた。

「いや、まだ。何しろこの体質だしな。恋愛したい気持ちすら起きないよ」
「好きな人とか気になる人もいない?」
「そうだな」

 飲みたい物を見つけ、それをコップに注ぎながら俺のほうに振り向いた。
 好きな人や気になる人がいないって知れただけでもよかった。少なくとも今は、俺のものだ。

「そういうワタルだって、いるのかよ?」
「俺もいない」
「ふーん……」

 それはいったい何のふーんなんだろうか。
 どうでもいいのか、気になるのか、どっちだ。

「あ、ワタル。今日は休みだったからさ、じっくりをリクエストはしたんだけどさ、もし仕事があったらどうしてた?」
「そりゃ、口と手だけですぐ済ませておきますよ」

 舌を出しながら、手も擦る仕草をしてみせた。

「…あっそ。聞いた僕が馬鹿だった」
「おめぇ、いつも俺のことおっさんくさいって言ってるだろうが。よーく知ってんだろ」
「そうだな。一瞬忘れてしまった自分を恨むよ」

 掛け合ううちにいつのまにか食事を平らげていた。

「今日もおいしかった。いつもありがとうな」
「どういたしまして」

 食器を流し台へ持って行き、皿洗いして片づけるうちにやはり先ほどは真面目に答えたほうがいいだろうと思い、ケンタに声かけた。

「…さっきの真面目に言うとだ、ケンタがどうしたいかで俺は応えるつもりだ。早く終わらしたかったらそうするし、どうしてほしいかも。どんなのでもケンタに合わせてやる」

 真剣な眼差しで本当に思っていることを伝え、ケンタは黙って聞いていた。
 少し間が空いたな? と思った矢先、ケンタが口を開いた。
 
「そっか。こんないかれた体質に付き合ってくれるの、ワタルしかいないしな!」
「そうだぞ。俺以外お願いするとか考えるなよー」
「考えねぇよっ」

 その一言で安心する。頼むから他の人にお願いするとか考えるなよ。

「…なぁ、ワタル。性処理や記録とか、いつも任せていたけど僕も何か出来ないかな…?」
「なんで突然……? 自分で済ませたいとかだったら、もう無理だろう?」
「分かってるよっ! だから! 今日みたいなのもう一度やってもいいと思ってるし!」
「は…? 空イキを……?」

 つい、息を大きく飲んでしまった。
 目の前にはやたら赤くなっているケンタがいる。羞恥心からどうにもなれと開き直ってるのか、この後まくし立ててきた。

「今回激しかったのは、いつもより高ぶっていたんだろっ! オトコっていうのはそういうもんなんだろ! 僕は分からないけどさ! でもワタルはそうしたいんだろ!」
「え? え? しんどかったんじゃなかったか?」
「それでもイったら、あのしんどさは消えてるっ!」

 待ってくれ、ケンタは何を言ってるんだ?
 空イキをもう一度やってもいい?

 まさか好きな人からそんな言葉を言われるとは思わなかった。やられた。
 ケンタにとっては本当にただ何か出来たらと思っての言葉なんだろう。そしてオトコとして当然のことを俺にさせてやりたいという。
 ピュアっておそろしい……あれ、ケンタの場合は当てはまるのか。いや、恋愛面だとピュアといってもいい。

「どうなんだよ! するのか! しないのか!」
「待て待て待て、それは空イキのことを言ってるんだよな?」
「そうだよっ!」

 そもそもこの会話自体がおかしい。あぁもう、これもそれもケンタの体質のせいだ。だんだんこじれていく。
 俺がケンタを好きという気持ちは全然伝わってないのに、据え膳は食いまくってる状況をどうしたらいい。混乱して頭を抱えてしまいたくなる。

「…わかった。次の性欲スイッチのときは、空イキも頭に入れておいてやるから…」
「よしっ! 頼んだからな!」

 ケンタは自分なりに何か出来るのを見つかったかのような嬉しさを顔に出し、はればれと自分の部屋に戻っていった。

 残った一人は、ただただ呆然と立っていた。

 ケンタのピュアさをなんとかしてほしい——。
 そう思ったワタルだった。


【第二部 終】
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