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じれったいのなんとかしてほしい 〜ワタル〜
02
しおりを挟むケンタも準備を済ませ、山へ向かった。
オータムフェスティバルは1週間後、それまでに戻らなければならないのだが、森に入り目的エリアに着くまで出来るだけ今日中には済ませておきたい。
移動中に頭の中でプランを考えていると、何やらケンタからの視線を感じる。
「なんだ? 何か不安でもあるのか?」
「いや、武器や防具を身につけてるの初めて見たなと思って」
そういえば見せたことなかったな。防具には貫通しづらいと評判のドラゴン皮で出来た上衣に、あらゆる魔法を無効化にするマント、そして武器は長剣を装備していた。
「思ったより身軽なんだな」
「そりゃ森の中に入るし、あの森の状況や魔物は把握している。ある程度身軽でないとむしろやられてしまう」
「ちゃんと考えてるんだな…」
「当然。でなきゃ護衛の仕事してない。環境に合ったのを装備してるよ。回復薬や解毒薬もきちんとあるから、何かあれば俺に言ってくれよな」
護衛している以上傷一つすら付けないように守ってやる——と思ったのに、森に入ってからずんずんと向こう見ずに進んでいくケンタに、気が気でない。
「待て! そこは魔物がいるかもしれなっ……」
「うわー! ワタルー!!」
「だから言っただろうが!」
目的先に着くのに先が思いやられるほどケンタが大雑把すぎて、魔物と遭遇したのは今までの中で一番多かったんではないかと思うほどだった。
◇
「あー……とりあえず目的エリアに入っただけ良かったな…」
無事、目的エリアに着いたころにはもう真っ暗だった。
そこらへんに落ちていた乾いた木をいくつか拾い、焚き火にして周囲を灯る。そのなかに、いつもより動きまくったからかぐっすり寝ているケンタがいる。
ぐっすり寝ているのも、おそらく何が起きても守ってくれる安心感からだろう。
その様子を見て、こちらも安心する。
魔物が入らないように一時的にバリアが張れる道具を使ってはいるが、万が一のことを考えて夜が明けるまで寝ないつもりでいた。
「本日は性欲スイッチなし…っと」
忘れずに持参した【ケンタ性欲スイッチノート】に記録を残す。
順調にいけば性欲スイッチが入る前に戻れるかもしれないが、今回はいつもの日常とは違うだけに用心しておきたいな…と色々考えていると、ケンタがモゾモゾ動いて起きてきた。
「まだ夜は明けてない。寝ていいぞ?」
「いや、なんか目が覚めたから起きるわ。それよりワタル寝てないだろう。仮眠ぐらいとったらどうだ?」
「もう少し明るくなってからにするよ。ありがとうな」
焚き火を間に、向かい合わせで座ると、ケンタが申し訳なさそうに話しかけた。
「いや、こちらこそ色々と助けてもらって……まさかあんなに魔物が出るとは思わなかった」
「あぁ、そこは想定内だから問題はない。ただ突っ走るのはもう少し抑えてもらうと助かるぞ」
「……分かった。気をつける…」
昨日まで顔合わせず話すこともなかったのが嘘のように会話が出来ていた。今なら聞けるかな……このごろ避けていた理由を。
「なぁ、ケンタ。今こんなことを聞くべきじゃないかもしれないけど、聞いておきたい。ここしばらく俺から避けていただろう?やはり嫌になってきたか…?」
ビクンと肩が震えたのが見えた。やはり嫌だったかもしれないな。
「嫌になってきたのなら、申し訳ない。早いこと呪いが解けるように調べとくから、性欲スイッチが入ったときだけは頼ってくれよな。それ以外は無理しなくていい」
ケンタはずっと黙っていた。焚き火の明るさで顔がオレンジ色に染まっていて、ゆらめく影で見え隠れする左目の下にあるホクロがより色っぽくて、つい見とれてしまう。
どのくらい時間がたったのだろうと、しばらくはお互い沈黙だったが、ケンタが先に口を開いた。
きっと「そうだ。嫌だったんだ」って返ってくるだろうと覚悟を決めて、ケンタのほうを見ると——。
「性欲スイッチ……入っちまった…」
まさかの性欲スイッチ、発動。
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