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じれったいのなんとかしてほしい 〜ワタル〜
05
しおりを挟むあれから無事早めに戻ることができ、俺はオータムフェスティバルが終わるまで休暇をいただいた。返却した武器や防具のとんでもない状態からして、大変気遣ってくれたのだ。
俺もこんなになるとは思わなかったよ…。回復薬もいつもより減っていたし。
ケンタはイベントが始まるまでは忙しいそうで、家の中でもなかなか顔合わすことが出来なかったが、避けることは無くなった。
森の中で「俺のことが嫌になったか?」の問いは、まだ答えもらっていない。避けることがなくなったということは嫌じゃなかったと思っていいんだろうか。
答えが知りたいと思いつつ、ここんとこ忙しいケンタには聞けずモヤモヤしていた。
そしてイベント当日、パイは無事焼き上がり今年も大好評に終わったらしい…と、近所の話から聞いた。
俺も行けばよかったなぁ。パイを一片持ってきてくれるそうだが、振る舞っている様子のケンタを見てみたかったと今更ながら思う。
すると、玄関のドアが開けられる音が聞こえた。帰ってきたようだ。
「…あれ? 終わったあと打ち上げするから遅くなると言ってなかったっけ?」
リビングに入ったケンタを見やると何やら怒っていた。手にはパイが入っているであろう箱を持っている。
「おまえ……、あの時に痕を残しやがったな…!?」
はて、あの時の痕とは?
「首のうしろだよっ! 同僚からお盛んなんだなって言われたんだぞ!」
どうやら戻った日に、うなじあたりに鬱血痕がベタベタついてたのを同僚がすぐ気付いたそうだが、忙しくてそれどころじゃなかったらしく、今日思い出したように言われたそうだ。
しまった。あの時は興奮してて甘噛みしてたつもりが、うっかりいくつか痕を残してしまっていたのを思い出した。
「あー……そういえば…」
気まずさにケンタから目をそらす。告白してしまったことがずっと気にかかってて、そこまで気が回っていなかった。
「えっと…その…。あ、パイもってきてくれたんだ♪」
話をそらそうとパイの話を持ち出す。
それが火に油だったそうで、俺の胸ぐらをつかみ、そのまま強く引き寄せられたかと思うと、首に思いっきり噛みつかれた。
「いってててて! 痛い! 痛いから!」
完全に歯形が付いているだろう。それぐらい強くて思わず引き剥がしたが、ケンタは真っ赤な顔になって叫んだ。
「おまえも仕事先でからかわれろっ!!」
手に持っていた箱を俺に投げつけられ、自分の部屋に入っていった。
えっと…これはどういう状況で……?
手元にはパイ入っている箱。怒ってはいても、持ってきてくれたんだな。
ヒリヒリする首を手でさすり、パイを食べようと机の上に置く。
箱を開けると思いの外崩れておらず、ほのかに甘い香りが広がる。
「フォーク……手でいいか」
一口食べてみると、アルコールがふんわりと感じ、スライスされた果実の酸味がちょうどいい。果実はシロップ漬けだろうか。そんなに甘くなく、パイ生地はもっちりしていて、ぺろりと食べてしまった。
ふとあの森で、嬉しそうな顔をして採っていたケンタの顔を思い出し、胸がうずく。
「パイ…どうだった?」
「うっひょおうっ!?」
いつの間にか部屋着に着替えていたケンタが後ろにいた。うずいていた胸がバクバクになってしまった。
パイの感想を知りたかったのだろうか。
「あーびっくりしたー…。うまかったよ。そんなに甘くなくて、パイ生地も俺好みだった」
「そっか。今回のパイ、実は採りに行った人がレシピを作ることになっていて。だからそれ僕が考えたやつ。まぁ料理長の案も一部入ってるけれどな」
「へぇ。すごいじゃん。もっと食べたいと思ったよ」
ケンタが考えたのならもっとゆっくり味わって食べてみたかったな。
「レシピ…ワタルの好みそうなのを考えながら作ったから……っ。これであの時の答えだと察してくれ! あと、首っ! やりすぎたすまんっ!」
そう言って、逃げるように部屋に戻っていった。
あの時の答え…?俺が嫌かどうかの?つまり嫌じゃなかったってこと?
じゃあ避けていたのはなんでだ?いや、避けていたのはもうどうでもいい。
レシピを作る時に、俺のことを考えてた?
噛まれた首のところがうずいて、さする。
それって、俺のことが気になってるってことなのか?嫌じゃないってことは、そういうことなのか?
あぁ、もっと明確な答えがほしい。
今すぐケンタの部屋に行って真意を確かめたい。
ケンタからじれったい答えをもらってしまい、頭を抱えてしまうワタルであった。
…そのころケンタは、レシピのことを話してしまった恥ずかしさに、赤くなりながらベッドの上で暴れ回っていたのだった。
【第四部 終】
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