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素直になれないのなんとかしてほしい 〜ケンタ〜
01
しおりを挟むワタルが誰かと一緒に楽しそうに歩いているのを見かけてしまった。
ケンタは働いている食堂の食材買い出しのために市場へ出かけていた。
その途中で、たまたま護衛の服装を身につけたワタルを見かけて、声かけようとすると誰かと一緒にいたのを気付いてつい隠れて見てしまった。
見た感じ、僕より若い青年でかわいらしくて、目はくりくりしていた。触ったらさぞかし気持ちいいであろうふわふわした髪がとても似合う。身だしなみがよく、上質の生地が使われているであろう服装からして、どこかの貴族だろうか。そんな人が何故ワタルと一緒にいるのだ?
今すぐその人は誰なのか問いただしたいところだが、いまは買い出しの途中でそうもいかない。
こっそり様子を見ていたが、なにやらベタベタしている気がする。
二人の楽しそうな様子が、やけにムカついて…。
なんだかこれ以上見ると苛々が増しそうで、さっさと買い出しに切り替えたのだが、食堂へ戻るまでの間ずっと、二人の様子を何度も思い浮かんでは打ち消す羽目になり、よけい苛々が増してしまったのだった。
◇
「…おまえ、怖い顔してるぞ」
同僚から注意されて、ハッとする。今は昼時で、厨房内は多数の注文を元にこなすのに忙しい。
「普段そんな顔したことないのに、どうしたんだよ。怖い顔してちゃ料理がまずくなっちまう」
「すみません。ちょっとムカムカすることがありまして…」
すると同僚がニタァと笑う。
「もしかして、首にベタベタ付けた人と何かあったの~?」
「ちっ、ち、ちちがいますっ!!」
真っ赤になり慌てて否定する。
そういえば、この人見られていたんだった。ワタルがつけた痕を。
「んまぁ、誰であれムカつくことあれど、仕事はちゃんとしとかないと料理長にどやされるぞ」
「言われなくても貴方よりちゃんとしてますよっ!」
出来上がった料理をホーム担当の人に渡しておき、その隙にホーム内の様子を見やった。
いつもだったら、すぐ見えるところにワタルが座っていたのだが……今日は座っていなかった。
もしかして、あの人とどこか食べにいってるのか?
そう思うと心の奥でズキンとなり、少しだけ息苦しくなった。
実を言うと、イベント用の食材を採りに行った時、性欲スイッチが入り、性処理をお願いしたあの時に本当はちゃんと聞いていたのだ。
僕を抱きしめながら小さい声で「好きだ」と。
あの後何事もなくいつも通りだったから、無意識に言ったのを気付いていないんだろうと思いつつ、少しだけ嬉しかったのだ。
ケンタはもう、ワタルに惹かれていた。
初めてワタルのことを意識し始めた時から、目が合うと動悸が止まらなくなってしまうため、性欲スイッチが入った時以外は出来るだけ顔を合わせないように避けていた。
ただ性欲スイッチが入った時は、呪いのせいにして我を忘れ身を任したけど、済ませたあとはやはり治まらない動悸と気恥ずかしさに、すぐシャワーに逃げ込んでしまった。
それがまさか、森の中でワタルから嫌になってきたのか?と訊ねられたのは焦ってしまった。違う、と言いたかったのに性欲スイッチに邪魔され…。
そんなときに「好きだ」って呟けられちゃ、嬉しくならないわけがない。
…だけど、もしかしたらそれは僕じゃないかもしれない。
先ほど見かけた、とても仲良さげの二人を思い出して、無性に不安と焦りが出てきた。
いつも座る席ではなく、別のところに座っているのだろうかと探してみたが、綺麗な顔をして茶髪で束ねている人は見かけなかった。
「どこで何してんだよ…っ」
つい、心で思っていたのを声に出してしまい、 同僚からおもしろそうなのを見つけたような顔して「まずは仕事な~」と肩を叩かれた。これは絶対あとで面倒くさい事が待ってる。
…仕事終わったらさっさと逃げよう。
あの後しばらく待ってみても、ワタルは昼食を食べにくることはなかった。
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