前触れなく感じてしまう体質をなんとかしてほしい

Sui

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番外編

秋を楽しもうじゃないか 前編

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 昨日は冬かと思うほど寒かったのに、今日は何やら陽気でポカポカしている。

「今日は暖かいなぁ。どこかへ出掛けたくなるよなぁ」

 ケンタの同僚——カイがそう言いながら冷たい風を入れようと窓を開けられ、火照っていた頬がひんやりとするのを感じていた。

「んー、風は冷たいんだけどこれがまた気持ちいいんだよなぁ。まさに秋だわぁ」
「カイさん! 気持ちはよく分かりますが! さっさと! 仕事してください‼︎ まだピークタイムなんですよ⁉︎」
「ケンタぁ、もう少し余裕をだなぁ」
「あんたが仕事してくれればね⁉︎」

 それでものんびりと風に当たるカイには殴りたくなるが、一応先輩である以上我慢するしかない。

「はいはい。ピークタイムのせいで愛しの方とゆっくり喋れないからってカンカンするなよ~」
「はぁ⁉︎」

 流石にお玉を投げようかと思った矢先、後ろから料理長の低い声が響いた。

「いい加減にしろ、カイ。さっさと仕事に戻れ」
「はいはい。仰せのままに」

 さすが料理長。料理にはこだわりが強く、厳しくてとっつきにくい人だ。ちゃらけているカイでも料理長には尊敬しており従順するほど。

 でも確かに今日は朝から気持ちいい気候だなとは思った。ふと山の方に向けると、葉っぱが色付いていて、なんとも心が落ち着くような気持ちにさせてくれる。
 こんな時こそ、山を眺めながら飯を食いたいよなぁ。

「ねーねー料理長ー。ピークタイム過ぎたらすぐ閉めて、巷で噂の娯楽専用の山へ行きましょーよー。きっと木々が色付いて綺麗だし、一食分の食糧を携帯して山頂で眺めながら食べれば美味しいと思いますよー」
「うるさい。手うごけ。コレやれ」

 ……料理長でもそんな口調なカイが恐ろしい。料理長は慣れているのか無視してるし。
 しかしカイの言った内容になるほどと思った。確かに娯楽専用の山なら日帰りで一食分を携帯しておけば、景色を眺めながら食べれるなぁ。

 明日は定休日だし、確かワタルも休みだ。
 よし、家に帰ったら提案してみよう。

 明日のことを考えると楽しくなり、どんどん来る注文をちゃっちゃとこなしていくケンタであった。





「山頂ってこんなに気持ちいいとこなんだな。ケンタの提案、最高じゃん」

 翌日、僕たちは娯楽専用の山頂にいた。

「山といえば魔物を倒すために行くとこしか考えてなかったからな~。武器も防具もアイテムも持たずに登るってなんだか変な感じだな」

 ワタルは護衛の時よりも身軽で、リュックを背負ってるだけだ。リュックの中にはもちろん僕の手製食糧携帯二人分と水ボトルが入っている。

「娯楽専用っていつから出来たんだ?」
「なんかごく最近らしいよ。元々は国王様が住んでたんだけど別のところで新しい城建てたからそこに移ると。でも魔物避けのバリア効果はしばらく効いてるから、その間は娯楽として使えばいいって。まぁ期間限定なんだけど」
「あぁ、だからあそこに廃城があるのか」

 山頂から見える谷間のところに廃城がポツンと建っていた。
 バリアが解けた暁には魔物や動物達の住まいになっていることだろう。

「というか護衛んとこにはその情報は入ってこないのか?」
「んー、たぶん俺が知らないだけかもしれん」

 ワタルは博識な方なのに興味ないものは完全シャットアウトしてるからか、案外世間の情報には疎いのよな。

「ケンタこそ、どうやって知ったんだ?」
「あぁ、同僚がこの話してて知った。流行モノにはすぐ飛びつく人だから店にとっては助かってるんだよなー」
「確かに流行モノを取り入れると客が入りやすいもんな」

 ワタルは座り心地よさそうな大きな岩を見つけ、そこで飯にしようぜと誘われた。
 少しよじ登らなきゃいけないが、ワタルは軽々と登っていく。そして僕をすぐに上がらそうと手を差し出してくれた。
 ワタルの手を掴むとすぐ引っ張られ、気付いたら胸の中にいて唇にチュッとキスされた。

「ワタル‼︎」
「誰もいないんだし、いいじゃん~。開放感開放感」

 すぐにでも突き放したいが、ここは岩の上。落ちたら下手すると怪我どころじゃ済まなくなる。

「やっぱり良い眺めだ。遮るものがない」

 ワタルはすぐ身体を離してくれ、景色を眺めてみろと促した。
 確かに遠くまで見渡せて、鳥が大きな翼を広げて自由に飛んでいる。空も見上げるだけだったのが、遠くまで見えているのが不思議な気分だ。
 これは気分がいい。ここで飯食ったら最高に決まってる。

「ワタル、早くリュックから食糧が入った木箱を出せ」
「はいはい」

 ワタルはリュックの中から、一食分の食糧が入った浅い木箱を出し、手渡してくれた。店で出すような凝ったものではなく持ち運びできるようなものを作ったのだが、なにぶん初めてのことだ。おそるおそる木箱の蓋を開けると形は崩れておらず、いくつかの惣菜が二人分彩りよく並べていた。

「おぉー。食材探しに行った時と全然違う」
「そりゃ魔物がいるとこにこんなの持っていくかよ。匂いで即襲われるわ」
「俺がいる以上そんなのさせてやらないんだがな?」

 後ろから抱きしめられ、肩に顔を乗せられる。

「重いんだが?」
「俺の愛は重いんだからしょうがない」
「そういう意味じゃねぇ」

 このままでは満足に食べることも出来ないし、良い眺めを満喫することも出来ない。
 ペチンとワタルの頭を叩き、側に座らせた。というか、側に座らせるぐらいの広さしかない。
 木箱をリュックの上に置き、お互い好きなように惣菜を取り出しては食べる。

「うん、さすがケンタ。美味いわ」
「ここまで登った達成感と景色でより美味く感じるんだろうなぁ。うーん最高」

 気持ちいい風が吹いてきて、鳥の鳴き声も所々聞こえる。
 食べ終わったらちょっとだけ風を感じながら寝てみたいな。きっと気持ちよさそうだ…と考えているとワタルが口角を上げて僕を見ている。

「なんだよ?」
「いや、俺が支えてやるから少しは寝ていいぞ?」
「……なんで分かった?」
「そりゃ、ケンタに関しては変態レベルに好きなんで」

 僕の考えてることは殆どお見通しなワタルにせめてものの反抗にワタルの分も食べてやった。

「あー! ちょっと! それ食べたかったのに!」

 悪ふざけ程度にお互い肩を押し合った。そういえば子どものころこういうことやってたな。
 少年の気分に戻れるのもたまにいいな。

 木箱の中身が空になったころには、満腹感で少し眠気が襲ってきた。

「本当に少しだけ寝ていいぞ。俺はもう少しここを満喫したい」
「んにゃ……よろしくぅ」

 ワタルの肩に頭を乗せて瞼を閉じた。
 なんか額にキスされたような気がしたが、怒るよりも寝ていたくてそのまま眠りに落ちた。





「ん……っ、んんっ」

 結構心地よく眠ったなと覚醒しようすると、小さくこもったような声がふと聞こえた。
 ワタルの声だろうか?
 側にいるはずの顔を見ようとすると、ワタルの人差し指が僕の唇を触れていた。静かにという合図だ。
 ワタルじゃなければさっきの声は誰なんだ?
 僕の言いたいことが伝わったのか、ジェスチャーで下に誰かがいると教えてくれた。

 下に誰かがいる。こもったような声。もしかして暴行とか何かが起きているのだろうかと思い、焦っているとワタルは首を振っていた。良かった、違うのか。
 じゃあ、一体どういう状況なのだろうか?

 ちょっとだけ見てみる? と誘導され、怖いもの見たさでそぉっと覗いてみると思わず声出してしまいそうになり、ワタルが口を塞いでくれた。

 だって、そこにいたのはカイと料理長だったのだ。しかもアツい情事のさなか。
 あんな厳しくてとっつきにくい料理長がカイの太いのを後孔に挿れられていてよがっているし、カイはその料理長の様子がたまらないのか突き上げるのに夢中になっている。

 えぇー? なんでこの二人が? というかなんでここでヤるんだよぉ⁉︎
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