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第一章「宿命の子どもたち」 前編
第16話
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「あの子は、そのようなことをするような子ではないと思いますが………………」
文屋が言った。
「三輪殿の知った子ですか?」
「はい……」
「なぜ、奴婢が屋敷の中にいるのですか?」
「それは……」
「三輪殿が許されたのですか?」
「はあ、まあ……」
「では、今回のことは三輪殿の責任でもありますね?」
弟成を突き飛ばした女は、文屋に食って掛かる。
「菟田、もう良い。三嶋に何もなかったのであろう?」
凛とした声の持ち主は、なお落ち着き払っている。
「良くはありません。もう少しで、三嶋様が……」
「もう良い。お前の声は頭に響く」
女は、煩そうに顳顬に右手を押し当てた。
菟田と呼ばれた女は押し黙った。
「三輪」、偉そうな女は物憂げに言った。
「はっ!」、文屋は畏まる。
「お前がどのような者と付き合おうと、私には興味ありません。しかし、屋敷内に奴婢がいるというのは感心しません」
「申し訳ございません」
「山背様が、大王になられるかどうかの大切な時期です。そのような折に、上宮王家の者が、あのような輩と親しくしているとの噂が立てば、大后や林臣たちに何を言われるか分かりません」
女はそう言うと、蔑むような目で弟成を見た。
「ご尤もです」
文屋は、ただただ謝るしかなかった。
「お前たち、三嶋を奥へ連れって行きなさい」
命令された女たちは、女の子の手を引いて行った。
女の子は、振り返って弟成を見た。
弟成は、目に涙を溜めてじっと下を見つめていた。
それを見た女の子も、いまにも泣き出しそうな顔になった。
「三輪、以後、気を付けておくれ」
女は、最後まで落ち着き払った様子で言うと、裾を翻し、屋敷の奥へと入って行った。
菟田と呼ばれた女も、あと一言、二言、言いたそうであったが、これも裾を翻すと、女の後に続いた。
女たちがいなくなると、辺りは急に静かになった。
佐倉刀自は、弟成の背中やお尻についた砂を掃ってやった。
弟成は、零れそうな涙をぐっと堪えていた。
文屋は、そんな弟成を黙って見つめていた。
文屋は、妻に弟成を送らせた。
佐倉刀自は、弟成の手を引いてやった。
東門を潜った時、弟成は堪えていたものに耐え切れず、佐倉刀自の手を振り切ると、椿井の里へと駆け出した。
「弟成!」
佐倉刀自は呼び掛けたが、彼は振り返りもせず走り続けた。
涙が零れてゆく。
黄金色の稲に、雫が落ちた。
文屋が言った。
「三輪殿の知った子ですか?」
「はい……」
「なぜ、奴婢が屋敷の中にいるのですか?」
「それは……」
「三輪殿が許されたのですか?」
「はあ、まあ……」
「では、今回のことは三輪殿の責任でもありますね?」
弟成を突き飛ばした女は、文屋に食って掛かる。
「菟田、もう良い。三嶋に何もなかったのであろう?」
凛とした声の持ち主は、なお落ち着き払っている。
「良くはありません。もう少しで、三嶋様が……」
「もう良い。お前の声は頭に響く」
女は、煩そうに顳顬に右手を押し当てた。
菟田と呼ばれた女は押し黙った。
「三輪」、偉そうな女は物憂げに言った。
「はっ!」、文屋は畏まる。
「お前がどのような者と付き合おうと、私には興味ありません。しかし、屋敷内に奴婢がいるというのは感心しません」
「申し訳ございません」
「山背様が、大王になられるかどうかの大切な時期です。そのような折に、上宮王家の者が、あのような輩と親しくしているとの噂が立てば、大后や林臣たちに何を言われるか分かりません」
女はそう言うと、蔑むような目で弟成を見た。
「ご尤もです」
文屋は、ただただ謝るしかなかった。
「お前たち、三嶋を奥へ連れって行きなさい」
命令された女たちは、女の子の手を引いて行った。
女の子は、振り返って弟成を見た。
弟成は、目に涙を溜めてじっと下を見つめていた。
それを見た女の子も、いまにも泣き出しそうな顔になった。
「三輪、以後、気を付けておくれ」
女は、最後まで落ち着き払った様子で言うと、裾を翻し、屋敷の奥へと入って行った。
菟田と呼ばれた女も、あと一言、二言、言いたそうであったが、これも裾を翻すと、女の後に続いた。
女たちがいなくなると、辺りは急に静かになった。
佐倉刀自は、弟成の背中やお尻についた砂を掃ってやった。
弟成は、零れそうな涙をぐっと堪えていた。
文屋は、そんな弟成を黙って見つめていた。
文屋は、妻に弟成を送らせた。
佐倉刀自は、弟成の手を引いてやった。
東門を潜った時、弟成は堪えていたものに耐え切れず、佐倉刀自の手を振り切ると、椿井の里へと駆け出した。
「弟成!」
佐倉刀自は呼び掛けたが、彼は振り返りもせず走り続けた。
涙が零れてゆく。
黄金色の稲に、雫が落ちた。
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