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第二章「槻の木の下で」 後編
第2話
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この日、集められた元上宮王家の家人と奴婢たちは、千人を優に超えていた。
このため、斑鳩寺の寺法頭下氷雑物君の、
「これでは、余に多すぎて養えませんな」
の一言により、半数近くは蘇我本家の所有となった。
それでも、五百人近い家人・奴婢が残り、
「奴婢の方は、いずれ何人か売りましょう」
という運びになった。
廣成と文万呂家族は、ともに斑鳩寺の奴婢として残ることになり、黒万呂は弟成の手を取って喜んだ。
弟成も、斑鳩という彼にとっては鬼門の場所で生活する苦痛を味合わされるだけでなく、黒万呂という無二の友達まで奪われてはという心配もあったのだが、それもなくなったので、久しぶりに愉快な気持ちになった。
それでも椿井の仲間のうち、半数は蘇我本家の所領に移ることなり、その日の夕刻、斑鳩寺の前では涙の別れが繰り広げられた。
「犬万呂、元気でな」
「石立、体に気を付けいよ」
「大名女、丈夫な子を産むんよ」
「東女、無理したらあかんで」
そんな声が、あちらこちらで聞こえてくる。
雪女の親友である絹女の家族も、蘇我本家の所領に移って行くことになった。
「泣かんといて、雪女、蘇我様の屋敷なんてすぐそこなんやし、いつでも会えるわ」
「うん、そやけど……」
「あかん、あなたが確りせんと。三成兄さんも、もうおらんのやから」
「うん」
雪女の目は真赤である。
それは、夕焼けのせいだけではなかった。
「ほな、行くね」
「必ず会おうね、必ずやで」
雪女は、大きく手を振った。
腕が千切れてしまうほど振り続けた。
弟成と黒万呂も、仲間との別れを惜しんだ。
夕闇に、ひとり、ひとりと仲間が消えていく。
人の一生とは、分からないものである。
昨日までともに生活をし、ともに仕事をし、ともに遊んだ仲間が、いまは夕暮れの向うに消えていくのである。
最後のひとりが見えなくなって、弟成と黒万呂は、斑鳩寺の奴婢長屋に帰ろうと振り返った。
松の木の下に佇むひとりの少女を見た。
彼女も友達との別れを惜しんだのか、両頬に一筋の涙の跡が光っていた。
弟成と黒万呂は、彼女の顔をしげしげと見た。
彼女もそれに気付き、弟成と目を合わせた。
その目は大きく、吸い込まれそうだ。
お屋敷の子に似ていると、弟成は思った。
少女は、長く見つめられているのに慣れていないのか、すぐに目を逸らすと、奴婢長屋へ駆け込んで行った。
「可愛い子やな」
弟成には、黒万呂の言葉は聞こえていなかった。
もしかしたら、あの子かもしれない………………
彼も、奴婢長屋に駆け込んだ。
中を見回す。
長屋の中は、新しく入って来た人でごった返していた。
―― どこだろう?
あの子はどこに?
辺りを見回したが、見当たらない。
「どないした、お前、あの子と知り合いか?」
後を追って入って来た黒万呂は、弟成に訊いた。
「あの子だ!」
「あの子って?」
「お屋敷の子!」
「あの門の前にいた子か?」
弟成は、まだ探している。
「弟成、なに遊んでんねん、はよ手伝え! ほら、黒万呂も父ちゃんの手伝いせんと」
その日は、黒女の一言で荷解きをさせられ、少女を探し出すことはできなかった。
このため、斑鳩寺の寺法頭下氷雑物君の、
「これでは、余に多すぎて養えませんな」
の一言により、半数近くは蘇我本家の所有となった。
それでも、五百人近い家人・奴婢が残り、
「奴婢の方は、いずれ何人か売りましょう」
という運びになった。
廣成と文万呂家族は、ともに斑鳩寺の奴婢として残ることになり、黒万呂は弟成の手を取って喜んだ。
弟成も、斑鳩という彼にとっては鬼門の場所で生活する苦痛を味合わされるだけでなく、黒万呂という無二の友達まで奪われてはという心配もあったのだが、それもなくなったので、久しぶりに愉快な気持ちになった。
それでも椿井の仲間のうち、半数は蘇我本家の所領に移ることなり、その日の夕刻、斑鳩寺の前では涙の別れが繰り広げられた。
「犬万呂、元気でな」
「石立、体に気を付けいよ」
「大名女、丈夫な子を産むんよ」
「東女、無理したらあかんで」
そんな声が、あちらこちらで聞こえてくる。
雪女の親友である絹女の家族も、蘇我本家の所領に移って行くことになった。
「泣かんといて、雪女、蘇我様の屋敷なんてすぐそこなんやし、いつでも会えるわ」
「うん、そやけど……」
「あかん、あなたが確りせんと。三成兄さんも、もうおらんのやから」
「うん」
雪女の目は真赤である。
それは、夕焼けのせいだけではなかった。
「ほな、行くね」
「必ず会おうね、必ずやで」
雪女は、大きく手を振った。
腕が千切れてしまうほど振り続けた。
弟成と黒万呂も、仲間との別れを惜しんだ。
夕闇に、ひとり、ひとりと仲間が消えていく。
人の一生とは、分からないものである。
昨日までともに生活をし、ともに仕事をし、ともに遊んだ仲間が、いまは夕暮れの向うに消えていくのである。
最後のひとりが見えなくなって、弟成と黒万呂は、斑鳩寺の奴婢長屋に帰ろうと振り返った。
松の木の下に佇むひとりの少女を見た。
彼女も友達との別れを惜しんだのか、両頬に一筋の涙の跡が光っていた。
弟成と黒万呂は、彼女の顔をしげしげと見た。
彼女もそれに気付き、弟成と目を合わせた。
その目は大きく、吸い込まれそうだ。
お屋敷の子に似ていると、弟成は思った。
少女は、長く見つめられているのに慣れていないのか、すぐに目を逸らすと、奴婢長屋へ駆け込んで行った。
「可愛い子やな」
弟成には、黒万呂の言葉は聞こえていなかった。
もしかしたら、あの子かもしれない………………
彼も、奴婢長屋に駆け込んだ。
中を見回す。
長屋の中は、新しく入って来た人でごった返していた。
―― どこだろう?
あの子はどこに?
辺りを見回したが、見当たらない。
「どないした、お前、あの子と知り合いか?」
後を追って入って来た黒万呂は、弟成に訊いた。
「あの子だ!」
「あの子って?」
「お屋敷の子!」
「あの門の前にいた子か?」
弟成は、まだ探している。
「弟成、なに遊んでんねん、はよ手伝え! ほら、黒万呂も父ちゃんの手伝いせんと」
その日は、黒女の一言で荷解きをさせられ、少女を探し出すことはできなかった。
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