法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 中編

第10話

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 間人大王は木簡から目を離し、目頭を押さえた。

 流石に、朝から文字を追い続けていると、目が翳んでくる。

 ―― 少し休憩しようかしら?

 彼女がそう考え、腰を上げた時、采女うねめが部屋に入って来た。

「皆様方が、お揃いになりました」

「皆様方?」

「はい、本日午後から、百済の増援について話し合われるのではなかったのですか?」

 書籍に夢中で、すっかり忘れていた。

「そうだったわ、すっかり忘れていた、ごめんなさいね」

 間人大王はその采女を連れ、大殿に向かった。

「最近、どうも忘れっぽくて……、もう年かしら?」

 年と言っても、間人大王はまだ三十代前半である。

「年だなんて、まだお若いですわ」

「そうかしら? 肌に張りもなくなってきたみたいだし、目尻に皺も、ほら」

 間人大王は振り返り、采女に目尻を指差して見せた。

「大王様、お部屋に籠もりっきりだからですよ。たまには外に出て、花を見るといいですわよ」

「花ね……、あっ、そう言えば子どもの頃、花を見たら美しくなると母が話してくれたけれど、本当かしら? 母は、その時、素敵な鳥も捕まえたらしいけど」

「あら、素敵! 大王様も如何ですか、外に出られたら? 可愛い小鳥が迷い込むかもしれませんわ」

「それは良いかもね!」

 二人は、顔を見合わせて笑った。

 その笑い声に、前事奏官の中臣国足連なかおみのくにたりのむらじが視線をやった。

 二人はその視線に気付き、互いに人指し指を口元にあてた。

 その姿にまた可笑しさが込み上げ、女二人は笑いを堪えるのに必死だった。

「いいわ!」

 御簾の前まで来た間人大王は、笑いを堪えながら国足に合図した。

 国足は頭を下げ、大殿の群臣に大王の御出座を告げた。

 間人大王の前で話し合われたのは、百済が要請してきた増援のことである。
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