法隆寺燃ゆ

hiro75

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第四章「白村江は朱に染まる」 後編

第4話

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 船溜りでは、一際大きな歓声が上がった。

 弟成は空を仰ぐ。

「おい、弟成!」

 黒万呂は、弟成の顔を覗き込むと右手を差し出した。

 その掌は皮が剥け、ぼこぼこである。

 弟成は体を起こすと、彼の手を取って固く握手を交わした。

 結果は、櫂一掻き分、弟成たちの舟が速かった。

 応援していた男たちは、勝者に賛辞の言葉を送り、二艘の舟の健闘を讃えた。

 女たちは、精悍な男たちに熱い視線を送った。

 舟の中の男たちは疲れ切って、誰も動こうとしない ―― 大声を出し続けた船長も同じだった。

わに! りゅう! 双方とも良くやった、鼻が高いぞ」

 二艘の舟の船長、秦部鰐はたべのわに秦部龍はたべのりゅうに声を掛けたのは、田来津であった。

 後ろには、大国の姿がある。

「はい、勿体ないお言葉で。おい、お前たち、将軍様の御成りだ、起きろ!」

 二人の船長は、夫々の漕ぎ手を起こして回った。

 しかし、顔を上げるだけで、誰も起き上がれない。

 弟成も田来津に顔を向けたが、体が言うことを利かなかった。

「お前たち二人、それから漕ぎ手には、後で褒美を取らそう」

 鰐と龍は、田来津に深々と頭を下げた。

「それから、今日の勝利を讃え、秦軍の兵士総員に酒を振舞おう!」

 兵士の間から、歓声が起こる。

「それと、もう一つ。百済への派遣は、当分の間、延期となった」

 今度は、兵士の間から動揺が起こった。

「延期とは、いつまでですか?」

 龍が訊いた。

「期日は決まっていない。しかし、あくまで延期だ。いつ派遣命令が下っても対処できるよう、鍛錬を怠るな、良いな!」

「おお!」

 光り輝く長津の海に、男たちの声が木霊する。
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