法隆寺燃ゆ

hiro75

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第五章「生命燃えて」 後編

第4話

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 大伴安麻呂連が大広間に入ったとき、すでに話し合いは佳境に差し掛かっており、安麻呂は見つからないように小さくなりながら、隅の席へと腰を下ろした。

 安麻呂のいうご歴々が、八重女の思う鬼連中が、まさに鬼のような顔をして座っている。

 上座には、安麻呂の叔父である大伴馬来田おおとものまぐた吹負ふけいが席を占めている。

 馬来田は腕を組み、馬飼うまかいの長兄である杜屋もりやの話をじっと聞いている。

 吹負には、安麻呂が入ってくると、ぎっと睨みつけられてしまった。

 その左右には、馬飼の息子たちで、安麻呂の兄である杜屋、国麻呂くにまろ子君こきみ御行みゆきたちが並び、さらに安麻呂の祖父にあたるくいの弟たち(安麻呂からみれば大叔父たち)のいわ狭手彦さてひこ糠手子ぬかでこの息子や孫たちも集まっていた。

 やれやれ大仰な……と思いながら、安麻呂は兄の御行に尋ねた。

「で、如何様に?」

「ん? うむ、今度の……」

 と、話し出したところで、吹負の咳払いが飛んだ。

 御行は慌てて口を噤み、安麻呂も目立たぬようにさらに小さくなった。

 場が静まり返ったところで、

「続きを話せ、杜屋」

 と、吹負が促した。

「はっ……、それで大海人様の舎人となっております弟の友国ともくにの話によりますと、今回の蒲生野での狩猟は、葛城大王かつらぎのおおきみ(天智天皇)による大規模な軍事訓練ではないかとのことです」

「大王などとつけずに、葛城でよい! ワシらは、やつを大王と認めておらん!」

 吹負の怒声が飛ぶ。

「はっ、申し訳ございません」

 杜屋は、素直に頭を下げた。

「よい、先を続けよ」

 と、馬来田が顎で指示する。

「あい……、葛城大……」といいかけて、「葛城は、今回の狩猟を通じて、大王としての真正、近江への宮遷しの正当性、そして軍事力を見せつけることによる内外の敵に対する牽制を誇示したいのではないかと、大海人様はご覧になっているようです」

「小賢しいことを」

 吹負は、吐き捨てるように言う。

 よっぽど葛城大王が嫌いなのだなと、安麻呂は逆に可笑しくてしょうがなかった。
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