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第五章「生命燃えて」 後編
第23話
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「こ、これは失礼いたしました。いや、あの……、私が知っている男に瓜二つでしたから」
「ほう、それほど似ておりますか?」
「いや、似ているというか……、本人では?」
聞師は、覗き込むように男を見る。
僧侶のように頭を丸めているが、きりりとした眉といい、幾分憂いを帯びたような瞳、頑固そうな薄い唇………………
「弟成?」
と声をかけてみるが、反応はない。
じっと目の前の床を見つめている。
いや、見つめているのかも怪しい。
目の焦点が合ってないような………………
「覚居様、このものは?」
「覚知と申して、わしの弟子です。といっても、弟子になったのはここ数年の話で、その前のことは、わしも知らぬ」
覚居の話では、彼と出会ったのは白村江の畔で、幾重にも折り重なった兵士の遺体の中に、彼が呆然と立ち尽くしていたという。
「それは悲惨な状況でした」
唐・新羅連合軍と百済・倭国連合軍が衝突した白村江の戦は、百済・倭国連合軍が完全敗北、幾多の船とともに百済・倭国の兵士が水底へと沈んだ。
その翌朝から、両岸には兵士たちの遺体が流れ着き、誰も埋葬することなくそのまま放置されたので、腐敗した遺体の山に見るも悲惨な状況だったらしい。
あまりの惨たらしい光景に、覚居たちが遺体を埋葬したらしい。
それでも追い付かないぐらい、遺体は次々と流れ着いたらしい。
「そんなある日のことです、夕刻でしたかな、その日も同じように遺体を埋葬し、お経をあげていると……」
弟子が、川縁に佇む男を見つけた。
その男は、何もすることなく、ただ立ち尽くしていたらしい。
「何を聞いても答えず、まるで傀儡のように呆然としているので、仕方なく寺へと連れ帰ったのですよ」
着ている服から倭のものだろうとは分かった。
だが、それ以外何か手がかりになるものはと、男の身体を調べていると、
「これが出てきましてな」
覚居は、懐から布を取り出し、それを開けた ―― 古びた鑿が出てきた。
「柄に、小さく『法隆寺』と書かれておりました」
「それは、間違いない。私が弟成に渡したものです」
ほんの手慰みにと渡したものだが、後生大事に持っていたのか。
「倭国で『法隆寺』といえば、彼の地に厩戸皇子と称される方が、確か斑鳩の地にそのような名の寺を建立されたと思い出しましてな。では、そこのものであろうと」
遠路遥々海を渡って三国まで来て、我々に出会ったのも何かの縁だと、ゆくゆくは法隆寺に送り届けてやろうと、得度させて保護することにしたとか。
「それは有難いご配慮、痛み入ります」
と、入師が頭を下げた。
「いえいえ」と、覚居は相貌を崩した、「では、弟成とかいう男に相違ないのですな」
「まさしく」
聞師は断言した。
「うむ、それは良かった、帰るべきところに、帰れて。ところで、この男、このお寺の仏師か何かで?」
「いえ、奴婢です」
それを聞いて、覚居は驚いた顔をした。
「ほう、わしはまた、仏師かと。いえなにね、こんなものを持っていたので、試しにやらせてみたのだが……」
見事な仏像を造ったらしい。
「記憶をなくしても、そういうことは覚えておるのですな」
入師と覚居は、人とは不思議なものですなと、話していた。
「ともかく、古里に戻ることもできたのだし、これで覚知の記憶も徐々に戻ることであろう」
覚知こと弟成は、記憶が戻るまで寺で預かることになった。
「それで、覚居殿は今後?」
「しばらく御厄介になったあと、また半島に戻ろうかと。百済は今やない、だが寺はまだある。国がなくなっても、人は何とか生きていけますからな、わしも死ぬときは古里の土に戻りますわい」
と、かっかっかっと大笑いしていた。
聞師は、弟子たちに覚居と覚知の部屋を準備させた。
「ほう、それほど似ておりますか?」
「いや、似ているというか……、本人では?」
聞師は、覗き込むように男を見る。
僧侶のように頭を丸めているが、きりりとした眉といい、幾分憂いを帯びたような瞳、頑固そうな薄い唇………………
「弟成?」
と声をかけてみるが、反応はない。
じっと目の前の床を見つめている。
いや、見つめているのかも怪しい。
目の焦点が合ってないような………………
「覚居様、このものは?」
「覚知と申して、わしの弟子です。といっても、弟子になったのはここ数年の話で、その前のことは、わしも知らぬ」
覚居の話では、彼と出会ったのは白村江の畔で、幾重にも折り重なった兵士の遺体の中に、彼が呆然と立ち尽くしていたという。
「それは悲惨な状況でした」
唐・新羅連合軍と百済・倭国連合軍が衝突した白村江の戦は、百済・倭国連合軍が完全敗北、幾多の船とともに百済・倭国の兵士が水底へと沈んだ。
その翌朝から、両岸には兵士たちの遺体が流れ着き、誰も埋葬することなくそのまま放置されたので、腐敗した遺体の山に見るも悲惨な状況だったらしい。
あまりの惨たらしい光景に、覚居たちが遺体を埋葬したらしい。
それでも追い付かないぐらい、遺体は次々と流れ着いたらしい。
「そんなある日のことです、夕刻でしたかな、その日も同じように遺体を埋葬し、お経をあげていると……」
弟子が、川縁に佇む男を見つけた。
その男は、何もすることなく、ただ立ち尽くしていたらしい。
「何を聞いても答えず、まるで傀儡のように呆然としているので、仕方なく寺へと連れ帰ったのですよ」
着ている服から倭のものだろうとは分かった。
だが、それ以外何か手がかりになるものはと、男の身体を調べていると、
「これが出てきましてな」
覚居は、懐から布を取り出し、それを開けた ―― 古びた鑿が出てきた。
「柄に、小さく『法隆寺』と書かれておりました」
「それは、間違いない。私が弟成に渡したものです」
ほんの手慰みにと渡したものだが、後生大事に持っていたのか。
「倭国で『法隆寺』といえば、彼の地に厩戸皇子と称される方が、確か斑鳩の地にそのような名の寺を建立されたと思い出しましてな。では、そこのものであろうと」
遠路遥々海を渡って三国まで来て、我々に出会ったのも何かの縁だと、ゆくゆくは法隆寺に送り届けてやろうと、得度させて保護することにしたとか。
「それは有難いご配慮、痛み入ります」
と、入師が頭を下げた。
「いえいえ」と、覚居は相貌を崩した、「では、弟成とかいう男に相違ないのですな」
「まさしく」
聞師は断言した。
「うむ、それは良かった、帰るべきところに、帰れて。ところで、この男、このお寺の仏師か何かで?」
「いえ、奴婢です」
それを聞いて、覚居は驚いた顔をした。
「ほう、わしはまた、仏師かと。いえなにね、こんなものを持っていたので、試しにやらせてみたのだが……」
見事な仏像を造ったらしい。
「記憶をなくしても、そういうことは覚えておるのですな」
入師と覚居は、人とは不思議なものですなと、話していた。
「ともかく、古里に戻ることもできたのだし、これで覚知の記憶も徐々に戻ることであろう」
覚知こと弟成は、記憶が戻るまで寺で預かることになった。
「それで、覚居殿は今後?」
「しばらく御厄介になったあと、また半島に戻ろうかと。百済は今やない、だが寺はまだある。国がなくなっても、人は何とか生きていけますからな、わしも死ぬときは古里の土に戻りますわい」
と、かっかっかっと大笑いしていた。
聞師は、弟子たちに覚居と覚知の部屋を準備させた。
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