聖女の力を奪ったと婚約破棄されましたが、奪われたのは私のほうです。

西楓

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「レティシア・プルースト公爵令嬢、貴様から次期聖女の地位を剥奪し、婚約を破棄する。
新たな聖女としてマリアンナ・ナリーヤ伯爵令嬢を任命し、私の婚約者とする」
正式な婚約者となるはずのパーティの席で、私の婚約者第二王子ノアが力強い声で宣言する。
青い瞳には私への嫌悪感が滲み、醜い虫けらでも見るような目をしている。
王子の言動に会場はざわめき立つ。

―レティシア様、聖女の地位剥奪なんてよっぽどのことをされたのかしら
―いいえ、そうではありませんわ。むしろ何もされていないことが問題なのよ
―そうそう。教会での奉仕活動もされていませんし、最近では聖女の力なくなったのではないかと噂になってますわ
―ここ数年お力を披露されていませんものね

聖女の力は受け継がれるもので、現在はナリーヤ伯爵夫人が有している。
次期聖女の誕生は前聖女のみが知り得るもので、聖女の誕生とともに力の一部が遠隔で譲渡され、成長とともに少しずつ受け渡されていく。
そして、次期聖女の神託が下りた時に残るすべての力が次期聖女に完全に引き継がれる。

レティシアも誕生とともに夫人より聖女の力を貰い受けた。
聖女の力は、病気やけがを治療する治癒能力、嘘や感情を見抜く察知能力、記憶を映像とする再現能力がある。
聖女の力は権力にも対抗し得る力といわれており、厳密に管理されている。
聖女として神託を受けるまでは、聖女となることを知るのは現聖女と次期聖女のみであり、身内にも秘匿する。
力の弱い聖女には脅迫に対抗する術がない。
聖女の力を悪いことに利用されることのないよう、完全に力を得るまでにはその事実を隠さなくてはいけない。

8年ほど前に現在の聖女である夫人が謎の病で倒れ昏睡状態となってしまった。
夫人の聖女の力は彼女の意思がなければ使用することも引き継ぐこともできない。
聖女が力を有したまま昏睡となるこの異常事態に、神殿は不完全な状態の次の聖女の神託をうけることとした。

神託により選ばれたレティシアは聖女の治療にあたるが、譲り受けたレティシアの力は夫人と比べてはあまりにも小さく、どんなに手をかざしても夫人の病気は治ることがなかった。
強制的に聖女の力を奪い取ると夫人は命を失ってしまう。
意識のない状態の夫人からレティシアへ力の譲渡は不可能であり、莫大な夫人の聖女の力は眠ったままとなった。
そのためレティシアは若干8歳にして聖女代理の任命を受け、微小な力で奉仕活動をこなしていた。

「レティシア、貴様が聖女の娘であるマリアンナに母親の殺害を仄めかし、力を譲るよう脅迫していたことは知っている。
メイドとして従事する弱き立場のマリアンナに対し母親を盾に取るなど卑怯極まりない。
勇気を振り絞ってマリアンナが告白しなければ、いつまでも奪取しつづけていただろう。
誤った神託の理由はわからぬが、どうせ金にものをいわせて偽証でもさせたのであろう。
マリアンナが聖女としての力を有していることは教会にてすでに確認済みである。
次期聖女はマリアンナであり、マリアンナを虐げ次期聖女と偽る貴様のようなものは婚約者としてふさわしくない。
貴様など視界にいれるもおぞましいが、申し開きがあるなら言うがよい」

眉間に皺をよせ口元を歪め蔑んだ表情を浮かべている。
王子の腕にはふわふわの蜂蜜色の髪に透き通るような白い肌にピンク色の頬、庇護欲をそそる妖精のような可憐な少女がしがみついており目には涙を浮かべている。
華奢な彼女を私の視線から守るように、彼女の周りには側近候補の騎士と宰相の息子が立ち塞がり鋭い眼光をとばしてくる。

マリアンナ。
現聖女のナリーヤ伯爵夫人は分家筋であり、幼少期よりその娘のマリアンナとも家族ぐるみの交流があった。
同年代の私に懐いたマリアンナの強い熱意により、彼女は7歳にして私付きのメイドとして仕えることとなった。
メイドとしてではなく一人娘の親しき友として父親の公爵はマリアンナを温かく受け入れた。
それが地獄のはじまりだった。


私を睨む王子にきつくしがみついてプルプル震えるマリアンナの口は、歪んでおり勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

(ここまで時間がかかってしまったけど、もうマリアンナの思う通りにはさせない。どうせ聖女でなくなるのなら力を使い果たしてしまってもよいだろう)

私は小さく深呼吸をすると、身体中の魔力を循環させ自分の中の力を確認する。

「ノア殿下、殿下がおっしゃられたことはすべて誤りでございます。これから証拠をお見せいたしますがよろしいでしょうか」
殿下の許可がなければ反証ができない。

「証拠?提示できるものなら提示してみるがよい」
悪あがきでもするのかと、顎に手をあて鼻を鳴らして嘲笑する。

「それでは―」
と身体中のすべての聖女の力を振り絞って指から白い光が放たれる。
ただっぴろい舞踏会の会場の空間の中に突如映像が映し出された。
突然浮き出てきた光景に会場がざわつく。

―えっ、これはレティシア様?
―ええ…これは数年前の映像かしら。レティシア様とマリアンナ様だわ

「レティシア様、本来聖女の力は母の娘である私が受け継ぐものなのよ。あんたは私から奪い取った悪人なの。私に聖女の力を返しなさいよ」
 映像には醜い表情をして口汚く罵るマリアンナの姿が映っている。
  
「渡せないわ。聖女の力は決して人には渡してはいけないと聖女様がおっしゃておられたわ。この力は巨大すぎるから悪しき者がもつと大変なことになると」

「あら、私は悪しきものではないわ。正当な後継者ですもの。早く渡しなさい。渡さなければ母…聖女を殺害するわよ。私知っているのよ。
昏睡のまま聖女が死んだら聖女の力は失われてしまうのでしょう。どうせあんたの手には入らない聖女の力なんだから手放しなさい」

「いやよ。渡せないわ」

「そう?抵抗するならこの場であんたを殺してしまいましょうか。そうしたらこの国から聖女の力はなくなるわ。
教会で治療を待つ人達は落胆するでしょうね。聖女がいたなら助かったのに、と。
でも、私に渡してくれたら、私があんたの代わりに治療をしてあげるわ」

「私が死んでも、聖女様が目覚めたら…」

「ふふ…あの女がどうして昏睡しているかわからないの?あの女は自分の力で昏睡したのよ。病気でもなんでもないから治療もできないし、目を覚ますことはないわ」

「どうして聖女様はそのような…」

「あの女とあんたの様子からあんたが次期聖女だとピンときたわ。あんたが次期聖女だとばらされたくなければ私にも力を渡せと少し脅しただけなのに…あの女…全く忌々しい。自分の血を引く娘より他人の娘を優先するなんて…」

「あの女だなんて…聖女様はマリアンナのことを大切に思われているのに」

「大切に思っていても、大事なものをくれなければ同じじゃない。あんたなんてたまたま本家に生まれたからといって優遇され、その上私から聖女の力まで取り上げたのよ。さぁ無駄話はおしまい。すぐに寄こしなさい」

「聖女の力は選ばれた者以外が手にすると、身体に負荷がかかり命を縮めてしまうのよ」

「けっ。私はまだ13歳よ。寿命なんて少しくらい減ってもどうってことないわ。聖女の力が手に入るなら10年でも20年でも差し出すわ」

そこでぷつりと映像が途切れ目の前から画面が消え、ばたりと人が倒れる音がしんとした会場に響き渡る。

映写に力を使い果たしてしまったのだろうか。
血の気がなく青白い顔でレティシアが床に崩れ落ちていた。


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