聖女の力を奪ったと婚約破棄されましたが、奪われたのは私のほうです。

西楓

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マリアンナと母

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「レティシア、ナリーヤ伯爵夫人とその娘のマリアンナがいらしているからご挨拶なさい」
母に促されサロンへ向かうと、艶やかな金色の髪で柔らかい雰囲気の女性と蜂蜜色の髪をした可憐な少女がいた。

(あっ、この方が聖女様だわ)

一目見た瞬間にこの柔らかいオーラの女性が聖女様だとわかった。
私は生まれたときからこのオーラに触れていたのだ。片足をひいて挨拶をするとナリーヤ伯爵夫人はにこやかに笑い軽く頷いた。

「レティシア様、仲良くしてくださいね」

私の目線を遮るようにマリアンナが私とナリーヤ伯爵夫人の間に立ち塞がった。
私のまっすぐな黒髪にアメジストのような紫の瞳は時によってきつい印象を与えるが、マリアンナは自分とは全く違うふわふわの蜂蜜色の髪に明るいブルーの瞳をしていた。

(守ってあげたくなるような存在って彼女のことを言うのね)

人とは距離を置いて接することの多い私とは逆に、フレンドリーな彼女はぐいぐいと私の世界に踏み込んできた。




「ブルースト公爵夫人は優しくてもう一人のお母さまみたいだわ。おばさまとおよびしてもよいでしょうか」

怖いもの知らずな彼女は公爵夫人である母に対しても距離を詰めてきた。
外見のふわりとした容貌のせいでおっとりとしておしとやかな性格のようにみえるが、マリアンナは決して物静かな少女ではなかった。

明るく朗らかな彼女は母への好意を口にし、いつの日か母もそんな彼女を慈しむようになっていった。
聖女であることを隠している娘になにか隔たりを感じていたのかもしれない。
黒髪に紫色の瞳は母ではなく父から引き継いだものであり、口下手で感情を表さない娘への愛情がもともと欠けていたのかもしれない。
娘には与えられなかった、行き場の失った愛情をマリアンナへと注いでいった。





「マリアンナが図々しくお邪魔してごめんなさいね。レティシア様にご迷惑をおかけしていませんか?」

ナリーヤ伯爵夫人が心配そうに私をみつめる。

「いいえ、マリアンナ様はお母さまのところへ遊びにきているので、私には特に影響はありませんわ。お心遣いありがとうございます」

マリアンナが我が家に一人に来るようになると、サロンや庭園で母はマリアンナと二人で過ごすことが多くなった。
母を取られたという思いよりも、ナリーヤ伯爵夫人に会いたい気持ちのが勝っていた。
ナリーヤ伯爵夫人に母への愛情のようなものを感じていたのかもしれない。

時々ナリーヤ伯爵夫人がマリアンナに同行して訪れた際には、私は常に夫人の隣に座り会話を楽しんだ。
話していたといっても伯爵夫人の聖女の仕事の内容や私の勉強のこと…とりとめのないことだ。
次期聖女としてどうしたらよいのか、ナリーヤ伯爵夫人に確認してみたい気持ちはあるが、私が次期聖女であることは決して口にしてはいけない。
夫人も私に対しあなたが次期聖女であると知っているなどということはなかった。
それでも私と夫人の間にはたしかに繋がりがった。





「私レティシア様のメイドになりたいです。おばさま私を雇ってもらえませんか?」

「あら、かわいいマリアンナ。貴女は伯爵令嬢なのよ。メイドとして働く必要などなくってよ」

「優しいおばさま、大好きです。優しいおばさまの側でおばさまの娘であるレティシア様を支えたいんです。我儘言ってごめんなさい」

目をうるうると潤ませて上目遣いでお願いをするマリアンナ。
母は目尻を下げ優しい眼差しをマリアンナへ向けるとゆっくりと手を取り握る。

「マリアンナがこの屋敷にいてくれるなんてとても喜ばしいわ。メイドだなんて、そのようなこと貴女にさせたくはないわ。
メイドではなくて親戚の娘として屋敷にいらしてちょうだい。貴女の母上にも私の方から伝えましょう」

「いいえ、おばさま。私は伯爵家の娘ですもの。公爵家にご厄介になるわけにはいきません。
でもせめてメイドとして雇っていただければ、すこしでもおばさまのお側にいられますわ。
それに、レティシア様のメイドに欠員があると伺いましたの」



「レティシア、貴女がマリアンナにメイドとなるように言ったわけではないのよね」

突然私へ視線を向けると、厳しい口調で言い放つ

「お母さま、私はそのようなことは言っておりませんわ」

「そう、それならよいけど」

私に冷たい視線を向けると、すぐにマリアンナへ視線を向け優しく微笑む。

「わかったわ。私の方から旦那様にマリアンナがレティシアのメイドとなるよう推薦しましょう」

母はマリアンナの側によると肩をやさしく抱きしめた。


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