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    それからも平内とパン屋へ出勤し一緒に帰宅するという日々を送っていた。
 
 レジの仕事にも慣れて悠一人で業務をこなせるようになってきた頃、製造の業務もしてみることとなった。
 製造の業務は、生地を捏ねたりパンを焼いたりなど力仕事が多く、パン作りは思っていたより大変なんだと思った。それでも、自分の作ったパンを買ってくれる人がいると思うとやりがいを感じた。
 
 最初は失敗してしまうこともあったが、平内や上田が丁寧に教えてくれたおかげで、悠は段々コツを掴んできていた。
 平内も上田も本当にパンが好きで、大変ながらもパン作りを楽しんでいた。だからここのパンはあんなに美味しいのかと悠は納得した。
 
 「中原くん、最近顔色いいね」
 
 厨房の片付けをしていると、上田が話しかけてきた。
 
 「えっ」
 「いや、変な意味じゃないんだけど、前に比べると健康的というか……」
 「そりゃそうだよ、ここの美味しいパンと僕の作った美味しい夕食を食べてるからね」
 
 上田が言い終わる前に、平内が話に割り込んできた。
 
 「ちょっ、平内さん」
 
 一緒に夕食を取っているのを知られるのがなんとなく気恥ずかしくて平内を呼び止めたが、上田はその話に食いついた。
 
 「え、平内さん中原くんと一緒にご飯食べてるんですか」
 「住んでるとこ一緒だからね、言ってなかったっけ?」
 「えっ、一緒に住んでるんですか」
 
 上田が驚きながら二人を見比べた。平内が変な言い方するから、話がややこしくなっている。
 
 「たまたま住んでるマンションが同じだっただけです。一緒に住んではいません」
 
 悠が丁寧に訂正する。そんな様子を平内は笑って見ていた。
 
 「なんだ、そういうことか。いいな~今度俺も混ぜてくださいよ」
 「え~上田が来るとうるさくなるしなぁ」
 「そんな、寂しいこと言わないでくださいよ」
 
 悠を挟んで、二人はそんなやり取りを続けていた。

 
 たしかに、毎日のように中原手作りの夕食を食べているし売れ残った美味しいパンも口にしている。平内に出会う前と比べると食欲もあるし、健康的な食事をしている。そのおかげか、以前より顔色も良くなり体力も出てきたと自分でも感じていた。
 
 そこで悠はふと思い出した。死ぬ前にセックスをしようという約束はどうなっているのだろうか。あのとき平内は悠を太らせてからすると言っていたが、自分はもう健康体になっていると思う。それとも、もっと太らせるつもりなのだろうか。
 
 「中原くん?」
 
 悠が考え込んでいると、テーブルを挟んで座る平内が話しかけてきた。今日の夕食はカレーライスだった。悠も野菜の下ごしらえをしたカレーは、辛さが丁度良くて美味しい。
 
 「な、なに」
 「いや、ボーッとしてたから。何か考え事?」
 「別に、なんでもない」
 
 もしかして約束のことを忘れてるとか?いや、俺なんかとするのが嫌になった可能性もある。というか、なぜここまで考えているんだ。俺は目の前にいるこの人とセ……したいのか。いや違うあれはあの場のノリで約束してしまっただけで、この人に抱かれたいとか微塵も思ってない。ってなんで俺が抱かれる側なんだよ。
 
 「……中原くん大丈夫?」
 「えっな、なにが」
 
 突然呼びかけられ悠は我に返った。平内が怪訝な顔をしてこちらを見ている。
 
 「なんか顔が赤いけど」
 「少し、カレーが辛かったかも」
 
 カレーはそこまで辛くはないが、そういうことにしておく。
 
 「もしかして辛いの苦手だった?ほら、水飲みな」
 
 平内が水の入ったコップを渡してくれた。
 
 「……平内さんは嫌にならないの。毎日のように俺と一緒に夕食取るの」
 
 悠がそう聞くと、平内はカレーを食べていた手を止めて話し始めた。
 
 「嫌にならないよ。ご飯は一人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいって言うじゃん。きみは僕と食べるの嫌?」
 
 「別に……温かくて美味しいご飯食べられるし」
 「あったりまえじゃん。僕の料理には愛情がこもっているからね」
 
 平内が得意げな顔でそう言った。
 
 「なんだよそれ」
 「そうだ、明日僕帰るの遅くなるから一緒にご飯食べられないんだ。ごめんね」
 「俺、遅くなっても大丈夫だけど」
 「……そんなに僕と一緒に食べたかった?」
 
 深く考えずに言ったのだが、よく考えるとそう解釈されてもおかしくないかもしれない。
 
 「そ、そうじゃなくて、時間が遅くなっても大丈夫ってだけで。無理して一緒に食べたいわけじゃ」
 
 言い訳すればするほど嘘くさくなってくる。
 
 「そんなムキにならなくていいじゃん。いつ帰れるか分からないし、また今度食べようね」
 
 平内は優しく笑いながらそう言うので、悠はまた顔が熱くなった。
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