今宵満月の夜、ヴァンパイアの夢を

ミルク

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1章

苦しい涙

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 ちょうど2人が見下ろせる距離。会話も声が大きいからかしっかり聞こえる。

「お前は一々うるせぇんだよ。」

「ぼ、僕は…ご主人様のために言っているのです!! 彼女に怖がられてしまったらどうするんですか! あの方はマリアさんであってマリアさんじゃ無いんですよ? 受け入れてくれるかどうかさえ……」

「……いつもいつもごちゃごちゃと……」

 ふと反射的に顔を上げた男性の目が、しっかりと私をとらえた。

 あ……。と思わず後ずさりする。

 しまった……ぼーっと見ていたけれど、この状況はものすごく危険なんじゃ無いのか。何者かわからない男性、どこか特定できない場所、状況判断すらできてない頭。ひっそりと隠れて見ているのが正解だったかもしれない。

「……あ、あの……私」

「マリア!! 目が覚めたのか……!?」

 何か怖いことが起こるんじゃないのかと覚悟していたせいだと思う。彼の笑顔をみた途端、思わずポカンとしてしまった。そんな私に気にすることなく、彼は小走りで階段を駆け上がって目の前に立つ。

「……どこも怪我はないか?いきなり連れてきて悪かったな……」

 目……赤くない。
 いきなり連れてきたってことはやっぱりこの人がここに……?だけど……。それに私の名前……

 いろんなことで頭が混乱してうまく言葉を繋ぎ合わせられない。そんな私を愛しそうに彼は見つめていた。

「……あ、の……」

 何か言わなきゃと声を出したと同時に、ソッと手を取られて、握られる。

「マリア……」

 まるで壊れ物を扱うような彼の手は、とても心地良くて、ついつい初対面だということを忘れてしまった。

「……マリア……マリア」

 何度も何度も切ない声で名前を呼ぶので、胸がグッと苦しくなる。

 なんて……優しく触るんだろう……。
 なんて……優しく呼ぶんだろう……。

 知らない人に触れられているのに、嫌悪感は全くなくて、つい身を任せた。そのまま彼の手が私の顔に伸びてきて、ソッと頬を包み込まれる。

 「目の色が違うな……。あと髪も……」

「え、……あ、」

「だけど……懐かしい。マリアの匂いだ……」

「に、匂いって……」

「……会いたかった……ずっと」

 親指で”マリア”だと確かめるようになぞられたのが合図。なんの迷いもなく私の瞳からポロポロと涙が溢れ出したのだ。

「……あ……っ」

なに……これ……。

 胸が苦しい
 胸が切ない
 息が……できないっ

「……どこか痛むのか? 大丈夫か?」

 私の涙をなぞって子供をあやすように彼は声をかけてくる。

 どうしたらいいのかわからない。だけどこの人に触れられるたび、胸が熱くなって拭われてもとめどなく流れてくる。これを止める方法が見つけられなくて。

「……なにこれ……」

 月を見るよりもずっと……ずっと切ない。まるで何かが乗り移ってしまったみたいだ。

「貴方は……………誰なのっ??」











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