魂を殺された女

早坂 悠

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友達に会いたくない。

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 知りもしない男たちから人生を狂わされて数ヶ月が経ち、故郷も秋の景色に彩られてきた10月上旬。

 ハルカはなんとか毎日、生きていた。まだ1人で日中の散歩をしていて男性とすれ違ったりするのはとても怖く、手が震え呼吸がしづらいと感じることはあるけれど、日中の生活ならなんとかスムーズにできるようになってきた。

 基本のルーティンは変わってない。夜がとても怖いので、まだ1人で外に出るのは怖いけど、朝は決まった時間に起きて母の家事を手伝い、散歩のついでに食材の買い出しをする。夕飯を母と作る。空いてる時間はネットサーフィンをして流行の服を見たり、コスメを見たりなどの時間に使っていた。

 男たちから酷い目に遭わされる前はTVドラマや小説、漫画なども大好きだったが……それらはほとんど全て見られなくなっていた。暴力的なシーンが怖い。サスペンスドラマの女性の悲鳴も男性の怒鳴るような声が怖くて見れなくなっていた。

 それらがすべて”役者による演技”であることは分かっていても、あの日の自分自身の悲劇と重なってしまってダメになってしまった。恋愛もののストーリーもダメ。キスとか誰かと肉体関係を思わせる展開がつきものの恋愛系のドラマ、小説、漫画は全部ダメになっていた。

 以前は週に1回の通院だったが状態が良くなったとの主治医の判断て2週に一度のメンタルクリニックの通院でよいとなった。精神を落ち着かせる薬と睡眠薬、あとは突発的な具合の悪い時に飲む頓服が処方されている。さらに大きな一歩といえば以前は母に付き添ってもらっていた通院をハルカ1人で行けるようになったことぐらいか。

 バスに乗って通院すること。公共交通機関を使えるようになったことは社会復帰のためにはハルカにとって大きな一歩だった。それでもまだ車に乗るのは絶対に無理だし、電車は乗れると思うが…死にたくなった時にホームから飛び込んでしまいそうなのが怖いなと思った。

 ハルカはうつ病と診断されている。どうしてもハルカの心の中には優しくひっそりとした”死”が魅力的な闇の力を放って沈殿してるような気がするのだ。

 何気ない日常を送っていても突然、死にたくなる、死にたい気持ちになることがある。私がこんなに苦しい目にあっているのにレイプした犯人たちは今も幸せにどこかで暮らしているなどと思うと、そんな不平等な現実に直視出来ずにハルカは死にたくて死にたくて仕方なくなる。

 それでもなんとか生きなくてはいけないと思うぐらいの気力がうっすらと溜まってきたなというのが最近の心境だった。

 そんなおり母とハルカの2人で昼食を食べていたある日。母から「あやちゃん、みずきちゃん、ひなちゃんがハルカのことを凄く心配してるって、それぞれのお母さんたちから声をかけてきたの。私にね。ハルカちゃんのところにも連絡来てるんでしょ?会いたい?会いたくない?」と聞かれた。

 ハルカは気まずさを感じていた。

 実は田舎に戻ってきて、しばらく経つと何人かの友達からスマホのLINEに連絡が来てきたのだ。その時はとても返信できる気力がなく、そのすべての返事を”既読スルー”してしまった。

 親の反対を押し切って都会に就職して、ハルカはちょっとした優越感を田舎の友達に感じていた。キラキラ光る都会の輝きは田舎だと味わうことは出来なかったと今でも思う。

  そんな都会から僅か1年と数ヶ月で田舎に戻ることになってしまったハルカを見て……哀れに思われるんじゃないか?尻尾を巻いて逃げてきたと思われるんじゃないか?…と思うと状態がよくなった今でも友達に会うのに抵抗があった。

 それになんといえばいいんだろうかと思った。どうしたの?何があったの?と質問責めにされて複数の男から輪姦されたとは到底、伝えられなかった。もし会うにしても母が父に言った嘘をつくしかないな……と思った。

 いやでも………それでもやっぱり………友達には会いたくないなと思ってしまった。あの恐怖を何もしらない女性たち。どうして自分だけがその最悪のクジを引き当ててしまったのかと辛くなりそうだった。

 LINEの返信は既読スルーにしてからそのあとの返事はみな途絶えている。レイプではないにしても何かを察したそっとしておいてくれているのかもしれないと思った。

 友達に会うのは………こんなみんなが心配してるのにずっと連絡を放置してるような私でもまた会ってくれる友達が残っているなら……うつ病をもう少しよくして社会復帰してからにしようと心に決めたのだった。
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