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一章 349京2413兆4400億年の苦行

8話 ダンッ!

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 閻魔大王は書類に何かを書き、木槌に朱肉を付けた。
――――ダンッ! そして書類に木槌を叩きつけた時だった。

「ぐぁっ……!」

 キーンという高周波の耳鳴りと共に眩しい黄金の光が視界を埋め尽くした。
 それと同時、胸に杭を打ち込まれたかのような強烈な痛みが走る。それは心臓の鼓動と連動して何度も繰り返し襲ってくる。
 その中、だんだんと強くなってくる光と耳鳴り。瞼を閉じようが耳を塞ごうがそれを防ぐ事は出来ない。
 心拍数が上がるに連れて胸を打つ痛みもそれを追いかけてくる。
 俺はたまらずその場に倒れた。が、それらの痛みやらなんやらは前置きもなくスッと一斉に引いていった。
 痛みの余韻すらない。むしろ全身の凝りが取れて清々しい気分だ。

「……なんなんだよ一体」

 状況を飲み込めないでいると、閻魔大王は表情一つ変えず口を開いた。

「これで貴様の魂の力の一部は封印された。そして約束通り、貴様に三つの特別な能力を与えた」

 ということらしいが、能力について聞いてみるか。

「なあ、その3つの能力を詳しく教えてくれよ」

「よかろう。それではまず『無限の間』だ。これは無限に広がる異次元空間を操る能力。所有物などを収納することが出来る上に、極めれば異次元空間を利用した転移までが可能となる」

「ほー」

「そして次に『神眼』。これは読んで字の如く神の眼を持つということだ。貴様が見たいと強く念じれば、己を含め他者の能力を見ることが出来る。能力に磨きをかければ遠方を眺める事、他者を追跡する事、そして極めれば対象とする者の過去、さらには未来まで見ることが出来るようになるだろう。しかし己の過去や未来を見ることまでは出来んぞ」

「ほーほー」

 追跡か……風呂場の覗きに使えそうだな……。

「そして最後に『時止め』。時間の流れを止める能力だ。まずは指定物の時間停止。それから対象者、空間、広い空間、極めれば世界の時を止めることも可能だろう」

「ほおおお!」

 これこれ! これを使えば覗きどころじゃないぞ……! あんな事やこんな事まで……やりたい放題だ!

「これらの能力はどれも神の力だ。貴様がこの能力を扱う時、それは魂を消費せねばならん。消費した魂は回復することが出来ぬ上に消費し切ってしまえば同時に命も尽きてしまう。特に『時止め』は魂の消費が激しい。この能力を使う時はよく考えて使うがよい」

 ……魂を消費するだと? 最後で一気に不安にさせてきたな。
 もしかしたら便利な能力をたくさん使わせて俺の魂を早く消耗させたいのかもしれん……。

「なあ、魔法なんかは使えるようになるのか?」

「それは貴様の資質次第だ。しかしそれとは別に、貴様は魂の力により生後すぐに『獄炎』という能力が備わる。ちなみにだがこれも魂を消費するぞ」

「魂消費ばっかかよ! ……で、獄炎って?」

「貴様は果てしない時間、地獄の業火に焼かれ打ち続けられた。その結果、魂を鍛えられると同時に、膨大な量の地獄の炎が魂に練りこまれておる。凝縮された地獄の炎『獄炎』。これは全てを焼き尽くす炎。燃やせないものは無いと言っていいだろう」

「そんな危ないものが俺の中にあるのか。一部封印したってのはそれのことか?」

「そういうことだ。しかしそれでも街一つを一瞬にして焼き払ってしまうほどの力はあるだろう。くれぐれも使い方を間違えんことだ」

「そんな危ない力を使わずに済むぬくぬくとした生活をしたいんだがなー。ま、ちょっと試しに自分の能力でも見てみるか。えっと、確か見たいと念じればいんだよな」

 俺の能力見たい!

----------------------------------------------
 安田丸男(故)
 種族:――  性別:――  年齢:――
 職業:――

 体力:――/――
 魔力:――/――
 身力:――
 心力:――
 魂力:3,492,413,440,000,000,070(349京1344兆4400億70)

 特殊能力:獄炎(一部封印)
      無限の間
      神眼
      時止め
----------------------------------------------

 殆ど空欄だが……この部分は死んで魂の状態だから不明ってことなのか。
 何がなにやら分からんが、魂力ってのがすごいことになってんな……能力で消費しきれんのかこれ。

「つか何だ? この魂力の余分に付いてる70って端数。元々持ってた魂の分ってことか?」

「そうだ。通常の人間であれば乳児の状態の平均値が100。年を取るごとに魂は消耗し数値は減っていく。寿命のようなものだ」

「……え! それじゃ俺の寿命は半端なく長いってことか?」

「それは違う。確かに魂は寿命に関係するが、魂よりもまず先に身体が限界を迎え死に至るのだ。貴様の場合、その膨大な魂力は能力を使う為のものだと考えておけばよい」

「ふーん、そっか。ま、要は魂ってのは充電出来ない電池みたいなものってことだな。しかし何か説明ばっかで疲れたなぁ……」

「ふん。貴様にばかり構っているわけにはいかん。そろそろ転生してもらおうか」

――――ダンッ!

 閻魔大王が木槌を机に叩きつけると、急に眠気が襲ってきた。
 俺はそれに抗うことなく瞼を閉じた。
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