天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

文字の大きさ
48 / 62
第一章:天上のラストルーム

第48話:イベント参加

しおりを挟む
 昨日は早めに就寝した矢吹。翌朝は朝六時に目を覚ましていた。
 本日一二時からは今週のイベントが始まり、先んじて六時にはイベント内容が発表される。
 発表方法は運営からのメールなので、ログインしなければ内容は分からない。
 意図してではなかったが、早起きしてしまった矢吹は朝ご飯を食べ終わるとそのままログインすることにした。

 平日の朝、普通なら学校や仕事に向かう人が多いのだが、今日の矢吹は全くのフリーであり、それは今週も来週も同じだった。
 大学に通っている矢吹は、今年度選択した科目をすでに修了しており、フリーな時間が多い。
 だからこそ日雇いのバイトもできたし、天上のラストルームにログインして楽しめている。
 授業が残っていればそれを理由にパーティやイベント参加を断れたのだが、嘘をついて断りを入れた後にログインしている姿を見られてしまうと、その方が面倒だと考えてしまった。
 今考えるとパーティだったからクリアできたクエストもあったので良かったのかもしれないが、当時は本当に嫌だったのだ。

「……そんなことを考えていても仕方ないか」

 今さら何かが変わるわけでもないので、矢吹はベッドに横になりログインした。

 ※※※※

 武具店の前にログインしたアルストは、他のプレイヤーの邪魔にならないよう壁際に移動してからメールを開いてイベント内容を確認する。

「……【ミニマムキャットを討伐せよ!】だって?」

 遭遇したことのないモンスターの名前に困惑するアルスト。
 もしミニマムキャットが中層や上層のモンスターなら、イベントに参加できない可能性も浮上してきた。

「も、もっと詳しく見てみるか」

 運営からの内容はこれだけではない。あくまでもイベントのタイトルが【ミニマムキャットを討伐せよ!】なのだ。
 そして内容を改めて確認したアルストはホッとしていた。
 メールにはこのように記載されている。

【1.イベント専用マップに移動していただき、そこでミニマムキャットを討伐します】
【2.本日一二時~日曜日一八時までの間でミニマムキャット討伐数を競います(個人、パーティの二つのランキングを用意しています)】
【3.イベント専用マップではPKプレイヤーキルできません。HPヒットポイントはあくまでもモンスターからの攻撃でのみ減少します】
【4.参加意思のある方は、本メール下部にある《参加》ボタンから参加してください】
【5.一度参加すると、イベント終了まではバベルに入ることができなくなります。途中退場はできませんのでご注意下さい】

 内容を確認して、アルストは溜息をついた。

「これ、無理ゲーだろ」

 そう呟いたのには訳がある。
 イベント専用マップでミニマムキャットを討伐するのは分かったが、確実にプレイヤーと競い合うことになる。
 初心者であるアルスト達がすでに長い期間プレイしているプレイヤーと競い合って勝てるはずがない。
 バベルの中を探すとかならまだやりようはあっただろうが、強制的に同じマップで競うとなれば難しい。

「でも参加するって言っちゃったし、やるしかないか」

 そもそもランキング上位を狙うつもり何て毛頭ない。
 ちょっとした思い出を残すつもりで参加するのでもいいかと気持ちを切り替えた。
 その他の説明も読み終えたアルストはフレンドリストを開いてみる。

「……マジか、もうログインしてるよ」

 真っ先に確認したアレッサとエレナのログイン状況。昨日と同じで朝から、それもアルストよりも早くからログインしていることになる。
 本当に寝ているのか心配になってしまうが、そこはあえて聞かないでおこうと決めて連絡を取ろうとしたのだが――

「早かったのねー」

 声を掛けられて振り返ると、武具店の中からアリーナが顔を出して手を振っている。
 昨日チャットで話をした後だからだろうか、少し緊張してしまう。

「お、おはよう、ございます」
「うん、おはよう。イベントに参加するんだよね?」
「そうですね。まあ、今回のイベントは本当に参加するだけになりそうですけど」
「そうだねー。討伐数を競うイベントだと、どうしても実力勝負になっちゃうからね」

 アリーナもイベントメールを見ていたようで、アルストの言葉に同意を示してくれた。

「アリーナさんも参加するんですか?」
「いーや、私は今回パス。作らなきゃいけない物が多いからねー」

 そう言ってニヤリと笑う。
 アルストとエレナがお願いしている装備のことだと理解したアルストは申し訳なく頭を下げた。

「すいません。何だったら俺のは後回しでもいいですよ?」
「アルスト君のを一番作りたいのよ。これはイベントに参加するよりも有意義なことだから気にしないで」

 元攻略組であるアリーナさんは余裕の表情でそう口にした。

「それにさ、イベント参加の前にこれを渡しておこうと思って」
「何ですか?」

 アリーナさんが手招きをしながら武具店に戻って行ったので、アルストも首を傾げながら中に入る。
 カウンターの上には見たことのない装備が並べられていた。

「……あの、これは?」
「まずはミスリルで装備を作ったから渡しておこうと思ってね」
「えっ! は、早いですね」
「ふっふーっ、アルスト君がイベントに参加するって知ってたからさ。せっかくだし間に合わせたかったのよ」
「あー、その、すいません、急がせちゃって」

 迷惑だったかもしれないと謝ったのだが、アリーナは突然近づいてきて顔をグイっと寄せてきた。

「違うわよー」
「……な、何が、ですか?」
「こういう時は『すいません』じゃなくて、『ありがとう』でしょ?」

 間近でウインク交じりにそのように言われてしまうと、アルストとしてはどうしたらいいのか分からなくなってしまう。軽いパニックである。
 なので、言われた通りにするしかできない。

「……あ、ありがとう、ございます」
「うん、よろしい」

 そして手渡された二つの装備。

「軽鎧はブリッシュロード。剣はスレイフニルよ」
「ブリッシュロードに、スレイフニル……あれ? 剣も頼んでましたっけ?」

 話の中では軽鎧だけだった。
 剣は【ゴルイドの剛骨】で作る予定だったので頼んではいなかったはずだとアルストは思っていた。

「ミスリルを二個預かったでしょ? それで作ったのよ」
「でも、【ゴルイドの剛骨】は?」
「色々考えたんだけどね。アルスト君は将来的に魔導剣術士マジックソードを目指しているんだよね?」
「そうですね」

 突然話が変わってしまったので何事だろうと疑問を覚えたが、アリーナはすぐにその答えを示してくれた。

剣術士ソードメイトのままだとどうせ装備できないんだから、魔導剣術士専用の剣を作ろうかなって思ったんだ」
「……えっ?」
「もちろんアルスト君に了承を得てからだからまだ何もしていないよ。だけど、そっちの方が将来的にいいかなって思ったんだけど……どうかな?」
「俺としては願ったり叶ったりなんですけど、いいんですか? それにエレナさんはゴールドを払ったのに俺は払ってませんよ?」

 昨日の内に聞いておこうと思っていたGのことも合わせて聞いてみたのだが、アリーナは手を軽く振って答えてくれた。

「構わないわよ。【ゴルイドの剛骨】をタダで見せてくれた上に、素材まで提供してもらってるんだからね」
「でも、作ってもらうのは俺なんですけど」
鍛冶師スミスとしては、高レアリティの素材を使って武器を作れるんだよ? それだけでも十分な報酬なのよ」

 アリーナがそう言ってくれるのであればそうなのだろう。アルストはお礼を口にして装備を受け取った。

「それと、これも持っておいてよ」
「……これは?」

 手渡されたアイテムには【ねこじゃらし】と表示されていた。

「今回のイベントで役に立つわよー」
「……キャットだけに?」
「持っていったら分かるわよー」

 装備と一緒にそのまま渡されてしまったので、何に使うかは分からないがありがたく受け取ることにした。

「そろそろ二人から連絡が入るんじゃないかしら?」
「そういえば、アリーナさんもフレンド登録していたんですよね」
「そゆこと……ふぁぁ……それじゃあ、私は二度寝してくるから、さっさと出た出たー」

 アリーナはアルストに装備を渡すためにわざわざ早起きしてくれていた。
 その事に気づいたアルストは謝ろうと思ったのだが、先ほどのやり取りを思い出して言葉を変えた。

「……アリーナさん、ありがとうございます」
「うん、よろしいー」

 笑顔で手を振ってくれたアリーナは、そのままログアウトしてしまった。
 その数分後、アレッサからメールが入った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

処理中です...