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第一章:逆行聖女
第26話:自警団員アリシア 4
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晩ご飯の準備中は、再び無言の時間になった。
だが、それが逆にアリシアにとっては決意を強固なものにする貴重な時間にもなっていた。
料理が終わり、テーブルに並べられていき、それぞれが指定席になっている椅子に腰掛けていく。
「「全ての命と育みに感謝を」」
神に祈りを捧げると、二人はそのまま食事を始めた。
しかし、しばらく食事を堪能したあとは、アリシアが口を開いた。
「……お父さん、いいかな?」
アリシアの言葉を耳にしたアーノルドは、すぐに食事の手を止めてナイフとフォークを置くと、姿勢を正して彼女を見つめる。
「大丈夫だよ、アリシア」
そして、そう口にするとアリシアの言葉を待った。
「……一年前、私が泣きながらお父さんに抱きついた日のこと、覚えてる?」
「もちろんだ。あの日から、アリシアは剣を学び始めたんだもんな」
「うん。……それと、夢の話をしたのも……覚えてるかな?」
「あぁ。そのせいで泣いていた、と言っていたからね」
「あれはあれで間違いじゃないの。でも……でもね、お父さん。私が見た夢っていうのは……夢っていうのは……」
そこまで口にして、アリシアの体は小刻みに震え出す。
震えを止めようとテーブルの上でギュッと自らの手を握っているが、その手すらもぶるぶると震えてしまっていた。
だが、アリシアは諦めなかった。
恐怖に打ち勝とうと何度も深呼吸を行い、その度にアーノルドを見て気持ちを落ち着かせる。
アーノルドは言った。アリシアのことを信じていると。
ならば、アリシアもアーノルドのことを信じようとしていた。
「……私が見た夢は、未来で起こる出来事なの」
「未来で起こる出来事?」
「……うん。それと、私には未来の記憶があるの」
「未来の記憶?」
確認を含めているのだろう、アーノルドはアリシアの言葉を繰り返して彼女の答えを待ってくれている。
そして、その全てにアリシアは頷きながら次の言葉を紡いでいく。
「……前世の記憶って言えばいいのかな。その前世で、私は死んだの」
「……死んだ、だと?」
今まで穏やかに話を聞いていたアーノルドだったが、アリシアが死んだと聞いた時だけは眉間にしわを寄せた。
「……うん。その時の私は二五歳で、王都にいたの」
「王都だって? こんな田舎の村からどうしてアリシアが王都に? ……まさか、冒険者になるためかい?」
「ううん、違うの。私は、連れていかれたんだ――聖女として」
「……聖女、だと?」
聖女と聞いて、眉間に寄せていたしわは徐々になくなっていき、今度は困惑顔に変わっていく。
それもそのはずで、聖女と聞いてすぐにピンと来る者の方が少ない。
それだけ聖女というのは世間から遠い存在だということだ。
「今から四年後、私が一五歳になる年に、右手の甲に聖女の証明となる痣が浮かび上がるの。それがきっかけで、王都の聖教会から遣いが来て、私を連れていくのよ」
「……だが、王都なら安心なはずだ。ディラーナ村よりもね」
ディラーナ村は防壁も簡素なもので、木を削って編み込んだ柵を立てているだけ。
当然ながら、王都と比べるのも憚られるほどである。
そんな王都に行っていたにも関わらず死んでしまったというのは、なかなか信じられない話だった。
「……まさか、誰かに殺されたのか?」
「ううん。それまでに王都は多くの悲劇に見舞われて、防衛が急激に低下していたの。そこは再びの悲劇……大量の魔獣が突然現れて、あっという間に飲み込まれてしまったの」
「大量の魔獣、スタンピードか」
「……うん」
腕組みをしながら考え込んでいたアーノルドだったが、ふと思い出したかのような表情を浮かべながら口を開く。
「だけどな、アリシア。今のお前が伝えたいのは、このことじゃないんだろう?」
息を切らせて戻ってきたアリシアを思い出したアーノルドは、四年後やそれ以降に起こるだろう出来事について伝えるためではなかったはずだと考えたのだ。
「そう……そうなの。このままだとお父さん――剣を握れなくなっちゃうの」
「……私がかい?」
アリシアの言葉に、アーノルドは僅かに驚きながらそう呟いた。
だが、それが逆にアリシアにとっては決意を強固なものにする貴重な時間にもなっていた。
料理が終わり、テーブルに並べられていき、それぞれが指定席になっている椅子に腰掛けていく。
「「全ての命と育みに感謝を」」
神に祈りを捧げると、二人はそのまま食事を始めた。
しかし、しばらく食事を堪能したあとは、アリシアが口を開いた。
「……お父さん、いいかな?」
アリシアの言葉を耳にしたアーノルドは、すぐに食事の手を止めてナイフとフォークを置くと、姿勢を正して彼女を見つめる。
「大丈夫だよ、アリシア」
そして、そう口にするとアリシアの言葉を待った。
「……一年前、私が泣きながらお父さんに抱きついた日のこと、覚えてる?」
「もちろんだ。あの日から、アリシアは剣を学び始めたんだもんな」
「うん。……それと、夢の話をしたのも……覚えてるかな?」
「あぁ。そのせいで泣いていた、と言っていたからね」
「あれはあれで間違いじゃないの。でも……でもね、お父さん。私が見た夢っていうのは……夢っていうのは……」
そこまで口にして、アリシアの体は小刻みに震え出す。
震えを止めようとテーブルの上でギュッと自らの手を握っているが、その手すらもぶるぶると震えてしまっていた。
だが、アリシアは諦めなかった。
恐怖に打ち勝とうと何度も深呼吸を行い、その度にアーノルドを見て気持ちを落ち着かせる。
アーノルドは言った。アリシアのことを信じていると。
ならば、アリシアもアーノルドのことを信じようとしていた。
「……私が見た夢は、未来で起こる出来事なの」
「未来で起こる出来事?」
「……うん。それと、私には未来の記憶があるの」
「未来の記憶?」
確認を含めているのだろう、アーノルドはアリシアの言葉を繰り返して彼女の答えを待ってくれている。
そして、その全てにアリシアは頷きながら次の言葉を紡いでいく。
「……前世の記憶って言えばいいのかな。その前世で、私は死んだの」
「……死んだ、だと?」
今まで穏やかに話を聞いていたアーノルドだったが、アリシアが死んだと聞いた時だけは眉間にしわを寄せた。
「……うん。その時の私は二五歳で、王都にいたの」
「王都だって? こんな田舎の村からどうしてアリシアが王都に? ……まさか、冒険者になるためかい?」
「ううん、違うの。私は、連れていかれたんだ――聖女として」
「……聖女、だと?」
聖女と聞いて、眉間に寄せていたしわは徐々になくなっていき、今度は困惑顔に変わっていく。
それもそのはずで、聖女と聞いてすぐにピンと来る者の方が少ない。
それだけ聖女というのは世間から遠い存在だということだ。
「今から四年後、私が一五歳になる年に、右手の甲に聖女の証明となる痣が浮かび上がるの。それがきっかけで、王都の聖教会から遣いが来て、私を連れていくのよ」
「……だが、王都なら安心なはずだ。ディラーナ村よりもね」
ディラーナ村は防壁も簡素なもので、木を削って編み込んだ柵を立てているだけ。
当然ながら、王都と比べるのも憚られるほどである。
そんな王都に行っていたにも関わらず死んでしまったというのは、なかなか信じられない話だった。
「……まさか、誰かに殺されたのか?」
「ううん。それまでに王都は多くの悲劇に見舞われて、防衛が急激に低下していたの。そこは再びの悲劇……大量の魔獣が突然現れて、あっという間に飲み込まれてしまったの」
「大量の魔獣、スタンピードか」
「……うん」
腕組みをしながら考え込んでいたアーノルドだったが、ふと思い出したかのような表情を浮かべながら口を開く。
「だけどな、アリシア。今のお前が伝えたいのは、このことじゃないんだろう?」
息を切らせて戻ってきたアリシアを思い出したアーノルドは、四年後やそれ以降に起こるだろう出来事について伝えるためではなかったはずだと考えたのだ。
「そう……そうなの。このままだとお父さん――剣を握れなくなっちゃうの」
「……私がかい?」
アリシアの言葉に、アーノルドは僅かに驚きながらそう呟いた。
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