逆行聖女は剣を取る

渡琉兎

文字の大きさ
50 / 99
第一章:逆行聖女

第50話:聖女アリシア 3

しおりを挟む
 ――そして迎えた翌日の早朝。

(……あぁ、やっぱり)

 アリシアは夢を見ていた。
 自分ではない女性が何かを伝えようとしている。
 しかし、口は動いているもののその声は全く聞こえない。
 だが、ここからどのように展開していくのかを、アリシアは知っている。

『…………聞こえますか、下界の子よ』

 徐々に女性の声が聞こえるようになり、続けてこう口にする。

『あなたに聖女の神託を授けましょう』

 前世と同じセリフを、目の前の女性が口にする。
 女神かもしれないと前世では思ったアリシアも、今となってはそうは思えなかった。

『さあ、目覚めなさい。さすればあなたの運命は、大きく動き出すでしょう』
(そんなこと、わかっているわ。そのせいで私は、私は……)

 そこまで考えたところで女性の姿が徐々にぼやけていき、同時に右手の甲に火傷を負ったような鋭い痛みが走ったように感じ、アリシアは目を覚ました。

 ◆◇◆◇

「――熱い!?」
「アリシア! 大丈夫か!!」

 思わず声をあげたアリシアだったが、その声に重ねるようにして別の声が真横から聞こえてきた。
 気づけばぐっしょりと汗をかいており、呼吸も荒くなっている。
 しかし、痛みを感じていた右手の甲にはすでに痛みはなく、変わりに右手を包み込んでいる温かな感触に触れてホッと胸を撫で下ろしていた。

「……お父さん?」
「あっ! す、すまない、アリシア。女の子の部屋へ勝手に入るのはどうかと思ったんだが、やはり心配でな……」
「ううん、怒ってないよ。お父さんの顔が見られて、安心したから」

 アリシアの声を聞いたアーノルドが慌てて手を離そうとしたのだが、彼女は怒ってないと言いながら彼の手を握り返した。

「……そうか。なら、いいんだが……それにしても、ものすごい汗だぞ? 何か拭くものを持ってこよう。少し待っていて――」
「待って、お父さん」

 タオルを持ってくるために席を立とうとしたアーノルドを呼び止めたアリシアは、握り返していた彼の手をゆっくりと離す。

「……右手の甲を見てほしいの。たぶん、もうあるから」
「……な、なんだと? だが、さっきまでは何も……」

 アリシアの言葉に、アーノルドは恐る恐る包み込んでいた彼女の右手を離していく。
 そして、言われた通りアリシアの右手の甲へと視線を向けた。

「……まさか、そんな!」
「ほらね? だから言ったでしょう?」

 驚くアーノルドへそう口にしながら、アリシアは右手の甲を自分の顔の前まで移動させた。
 前世で何度も見て、撫でて、最終的には恨みもした聖女の神託へ、今世でも視線を向ける時が来たのだ。

「……今世では私に、どんな運命を課すつもりなのかしら」
「私が絶対に守り抜いてやる!」

 思わずこぼれ落ちてしまった呟きに、アーノルドが声を荒らげた。

「聖女の神託がなんだ! アリシアは聖女として生まれてきたのではない! 私とミーシャの間に生まれた、誰よりも可愛い娘なんだ!」
「お父さん……ううん、大丈夫だよ」
「だが、アリシア!」

 アーノルドも覚悟を決めていたが、いざ聖女の神託を目の当たりにし、そのせいでアリシアが悲しそうな表情を浮かべているのを見てしまうと、どうしても自分が守らなければと思わずを得ない。
 しかし、アリシアはここでも首を縦に振ることはしなかった。

「私は自分を守るための力を身につけたわ。それも、お父さんのおかげでね。だから、安心して。私は王都で自分を守り抜いて必ずディラーナ村に帰ってくるから、お父さんは私が帰る場所を守ってほしいの」
「……何度も、話をしたものな」
「えぇ、そうだよ」
「…………この、頑固者め」
「うふふ。お父さんに似たんだよ?」
「だとしたら、私は自分の性格を恨まなければならないな」

 それでも最後にはアーノルドも自分を無理やり納得させると、いつもと変わらない柔和な笑みを浮かべながらアリシアの頭を撫でたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...