異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

渡琉兎

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第1話:【いのちだいじに】

「そっちに行ったよ! 勇人君!」
「オーケー、公太! 追い込んだぞ、太一!」
「任されたぜ! どりゃああああっ!」

 青年たちの声が、背丈の何倍もの大木が生い茂る森の中に響き渡る。
 彼らは日本名を口にしていたが、その身なりは日本で見かけることがない、もしかすると国を超えても目にすることがないかもしれないような恰好をしている。
 例えるなら――マンガやゲームの世界から飛び出してきたような格好をしていた。

「どうだった、太一君?」
「おい、太一! やったのか?」
「……よっしゃああああっ! 今日のノルマ、達成だああああっ!」

 両腕を振り上げながら黒髪の青年――弥生やよい太一たいちがそう口にすると、残る二人は顔を見合わせたあと、破顔してハイタッチをした。

「ナイスだ、太一!」
「ありがとう、太一君!」

 最初にお礼を口にした茶髪の青年――鈴木すずき勇人ゆうとが太一の肩に腕を回し、大柄でややぽっちゃりとした青年――さかき公太こうたは両手を叩いている。

「なーに言ってんだよ! これも俺たちの連携あっての成果だろうが!」

 太一はすぐにみんなのおかげだと口にすると、足元に転がっている獲物・・の処理を始めた。

「それにしても、俺たちもだいぶ、こっちの生活に慣れてきたよな」
「そうじゃなきゃ今頃、腹を空かせてぶっ倒れていたんじゃねぇか?」
「それどころか、死んでいたかもしれないよ?」

 太一の言葉に勇人が反応するが、その答えよりも悲惨な回答を公太が口にする。
 しかし、公太の回答は何も大げさなものではなかった。

「今さらだけどさ、俺たちってなんで異世界なんかに連れてこられたんだろうな?」
「連れてこられたというか、迷い込んだというか……」
「マンガやゲームにありがちな使命とか、魔王を倒せとか、そういうものもないもんね」

 彼らがいる場所、そこは――言葉通りの異世界だった。
 幼馴染みの三人は仲が良く、異世界に迷い込む直前も行動を共にしていた。
 放課後、家に向かって歩いており、通い慣れた曲がり角を曲がった途端、見知らぬ森の中に立っていたのだ。

「まあ、俺たちにとってはその方がよかったけどな」
「確かにな。魔王を倒せとか言われたら、さすがに無理だって断ってたかもしれねぇからな」
「僕も安心したよ。異世界を冒険とかにも憧れはあるけど、痛いのは嫌だからさ」
「そうは言っても、やっぱりどこの世界でも働かざるもの食うべからずなんだよなぁ」

 最後に太一がそう口にすると、獲物の処理が終わり一息ついた。

「ふぅー、解体終了!」
「お疲れさん!」
「太一君、水使って」
「おう、サンキュー」

 太一が行っていた獲物の処理とは、この世界に生息しているモンスターの解体だった。
 牙や爪などは武具の素材となり、肉は食糧となる。
 自分たちで使うこともできれば、売り払いお金に変えることもできる。
 異世界の知識もなく、さらに普通の高校生だった三人は何か専門的な技術を持っているわけでもなかった。
 ちょっとした縁もあり冒険者になることを決めた三人は、自分たちにできることをやっていこうと決めて日々を過ごしている。

「これでホーンラビット六匹だな!」
「ノルマ達成だね、太一君、勇人君!」
「まだ日は高いが、どうする?」

 解体したホーンラビットの素材を腰に提げた鞄に太一が突っ込んでいると、勇人が問い掛けてきた。

「まだ動けるっちゃあ、動けるけど……」
「僕たちには約束事があるからね……」
「うーん……まあ、それもそうか」

 勇人も何がしたいわけではなく、確認のために問いかけていた。

「「「【いのちだいじに】! 無理は禁物!」」」

 三人は某大人気ゲームにあった作戦【いのちだいじに】を、異世界で生きていくうえでのテーマに掲げていた。

「それじゃあ戻ろうか!」
「あぁー、早く帰って休みてぇー!」
「勇人君は毎回そればっかりだよね」

 モンスターが徘徊する森の中を、三人は何気ない会話をしながら、慣れた様子で歩き出した。

 三人が向かった先は、彼らが拠点にしている大都市――ディルガイド。
 人口が大陸の中でも三番目に多く、都市面積も広大だ。
 彼らがディルガイドを拠点に選んだのは、単純に迷い込んだ先から近かったからだ。

「まずは冒険者ギルドに行くかー」
「そのあとは飯だな、飯!」
「もうお腹がペコペコだよー」

 太一の言葉に勇人が答え、公太はお腹をさすりながら苦笑を浮かべる。
 そのまま冒険者ギルドに入ると、目の前のカウンターから見知った人物が笑顔を向けて声をかけてくれた。

「あら! おかえりなさい、タイチ君、ユウト君、コウタ君」
「「「ただいまです、クレアさん!」」」

 冒険者ギルドの受付嬢をしているクレアの笑顔を見て、三人の溜まった疲れが吹っ飛んでいく。
 クレアは冒険者に大人気の受付嬢であり、その笑顔に三人も一瞬にして心を奪われた。

「今日はもう終わりなの?」
「はい。ノルマも達成しましたし、あとはゆっくりしようかと」
「腹も減ったからなー、公太!」
「そ、そこで僕の名前を出さないでよ、勇人君!」
「うふふ、今日も三人は仲良しなのね」

 三人のやり取りに笑みを浮かべているクレアに再び癒されていたのだが、ただ会話を楽しむために冒険者ギルドへ足を運んだわけではない。

「これ、今日の納品分です」

 太一が腰の鞄に手を突っ込むと、見た目の容量以上の素材が取り出されてカウンターに並べられた。

「……うん、どれも状態がいいね。タイチ君たちが納品してくれる素材は毎回状態がいいから、実は人気なんだよ?」
「そうなんですか?」
「そうなの。だから、本当ならもう少し納品数を増やせないかって言ってきているところもあるんだけど……」

 クレアの言葉に三人は顔を見合わせ、すぐに考え込んでしまう。
 何故なら納品数を増やすということは、自分たちで課しているノルマを増やすということだ。
【いのちだいじに】をテーマに掲げてノルマを決めた以上、ノルマを増やすということはテーマに背くということになる。

「……うふふ、安心してちょうだい。納品先には、それは難しいって伝えてあるから」

 そして、クレアも三人が掲げている【いのちだいじに】のテーマについて知っていた。

「でも、それってよかったんですか?」
「そうですよ、クレアさん!」
「クレアさんの評価に響くとか、そんなことはないんですか?」

 心配そうに太一が呟くと、追従して勇人と公太も声をあげる。
 しかし、三人の心配は杞憂だった。

「それこそ安心してちょうだい。納品先は素材の質を重視しているから数が少ないと納得してくれたし、何より冒険者に自分たちの考えを押し付けるのはよくないって、あちらも理解しているからね」

 冒険者という職業は結構特殊なルールが用いられている。
 三人のようにモンスターを狩り、その素材を売り払って生計を立てている者もいれば、住民からの依頼をこなして報酬を受け取っている者もいる。
 冒険者の活動内容は多種多様であり、非常に自由が利く。日本でいうところのフリーランスに近いかもしれない。
 その分、失敗を犯すと全てが自分に返ってきてしまう。
 冒険者ギルドは冒険者と依頼人を繋いではいるものの、冒険者の失敗を肩代わりするのかと聞かれると、そうではなかった。
 冒険者の基本は自己責任であり、だからこそ依頼人が冒険者に何かを押し付けることはタブーとされていた。

「……そうですか、ならよかった」
「まあ、納品数を増やすかどうかは話し合いが必要だな」
「そうだね。この鞄を買い取るにも、お金は必要だしね」

 公太の言葉に太一は腰の鞄を軽く撫でた。

「でも、無茶はしないでね。タイチ君たちは【いのちだいじに】で行動しているんだからね」
「……そうですね、ありがとうございます」

 最後はクレアに気を遣ってもらい、太一たちは納品代を受け取って冒険者ギルドをあとにした。

「タイチ君たちがディルガイドに来て、もうすぐ一年かぁ」

 そんなことを呟きながら、クレアは仕事に戻っていった。
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