最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

渡琉兎

文字の大きさ
29 / 100
第一章:勇者誕生?

何やらジーっと見られています

しおりを挟む
 街道に出てすぐに魔獣と遭遇したものの、以降は順調に道程を消化している。
 魔獣の気配はどこにもなく、お昼休憩を挟んでからも遭遇はなし。
 俺たちの実力を早くみたいのか、ヴィリエルだけが何故かソワソワしていた。

「順調すぎじゃないかしら!」
「いや、順調なのは良いことだろう」
「そうだけど、そうじゃないのよ!」
「……いや、意味が分からん」

 嘆息しながらそう口にしていると、ヴィリエルの願いが届いたのかは分からないが魔獣の気配が現れた。

「私は手を出さないからね! スレイとリリルさんで倒してよね!」
「仕方ないか。それじゃあ、どっちから行く?」
「私から行こうかしら」
「ガウガウッ!」

 リリルからとなりそうだったが、ツヴァイルがまさかの立候補である。

「……それじゃあ、ツヴァイルからで」
「……そうね。よろしくね、ツヴァイル」
「ガウッ!」
「えっ、ちょっと、どうしてそうなるのよ!」

 ヴィリエルとしても予想外だったようで声をあげていたが、すでにツヴァイルはブラックウルフめがけて駆け出しているので止めようがない。
 というか、すぐに決着も付くだろう。
 助けた時のツヴァイルは怪我もしていたし、相手は耐久力のあるオークだった。
 だが、今回は似たような姿形をしているブラックウルフが相手だ。
 大きさもツヴァイルが上だし、何よりその機敏さは攻撃力の低さを補って余りある。
 単純にオークとの相性が悪かっただけで、相性さえ悪くなければツヴァイルが勝てない相手はそうそう現れないだろう。

「ガウアッ!」
『ギャンッ!』
「ガルアアアアッ!」
『ギャギャ――!』

 ブラックウルフは二匹いたのだが、一匹目は鋭い爪で首を落とし、二匹目は口から放たれたブレスによって骨すらも残さずに焼き尽くしてしまう。
 ……いや、ブレスに関しては俺も初めて見たぞ。そんな攻撃もあったのかよ。

「ガウガウッ!」
「お、おぉぅ、よくやったな」
「クウゥゥン!」

 恐ろしい攻撃を目にしたものの、こうして甘えてくる姿を見るとまだまだ子供だなと思ってしまう。
 ……ツヴァイルって、子供なのだろうか。

「ちょっと、ちょっとちょっと! この獣魔、すごく強いじゃないのよ!」
「まあ、ツヴァイルだからな!」
「ツヴァイルは強いのよ!」
「ガウッ!」

 俺だけではなく、何故かリリルまで得意気になっている。
 しかし、ヴィリエルの興奮は収まらないようでツヴァイルに駆け寄ると頬ずりしながら撫でまわしてきた。

「珍しい毛並みだけど、元はどんな魔獣だったの? あれだけの攻撃ができるってことは、相当強い個体だったのね。……あれ? でもこれ、獣魔契約の組紐がよんしょ――」
「あ、あーっ! また魔獣の気配がするなー! こ、今度こそ、リリルが倒してくれよなー!」

 組紐については話題にしないでくれ! もう遅いかもしれないけど!

「またブラックウルフね。というか、街道から逸れてないのにどうしてこうもたくさん出てくるのかしら」
「……ボートピアズからも離れたからね。それに、最近の冒険者は実入りの良い依頼を求めて王都の方に移ってるから、この辺りの魔獣が狩られていないのかもしれないわね」

 リリルの疑問に答えたのはヴィリエルだ。
 話題が変わってくれたのはありがたいが、魔獣狩りが行われていないというのは大問題じゃないのかな。

「とりあえず、目の前に現れた魔獣は狩っときましょうか」

 そう口にしたリリルは愛杖であるメタンフォレストを構えて雷魔法を放つ。

「サンダーレイ」

 高速の雷が杖先から放たれると、一秒と掛からずに着弾してブラックウルフが黒焦げになる。
 彼我の距離は50メートル以上離れており、速度だけではなくその射程の長さにも驚かされてしまう。

『グ、グルアアアアッ!』

 これで逃げてくれればいいものの、ブラックウルフは仲間が殺されて興奮したのか逆に襲い掛かってきた。
 その姿を見たリリルは杖を掲げると、今度は火魔法を放った。

「ファイアボール」

 顕現したのは三つの火の玉。
 どれも顔ほどの大きさをしており、その全てが異なる軌道を描きながら迫るブラックウルフへと殺到する。
 一発目を回避――したかと思えば、追尾弾のようで弧を描いて戻ってきた。
 ブラックウルフも予想外だったのか、驚きのあまりに残り二発への注意が散漫となり、結果として三つ全ての火の玉が直撃した。

「……終わりよ」
「……ねえ、リリルさん。あなた、本当にRの二重魔法師デュアルマジシャンなの?」
「もちろん。ヴィリエルさんも見ていたでしょう?」
「……そうね。それも、そうか」

 本当はURの宵闇の魔法師です。とは言えないので、俺は何も言わずに考え込んでいるヴィリエルの姿を見つめる。

「……よし、次はスレイの番だからね!」
「やっぱり、そうなるのか?」

 まあ、俺としてはレッドスターの試し切りを早くやりたいので好都合である。
 そして、幸か不幸か、次に遭遇した魔獣はブラックウルフではなく、もっと厄介な魔獣だった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...