最弱職と村を追い出されましたが、突然勇者の能力が上書きされたのでスローライフを始めます

第二章：集落誕生？

集落での生活

　サイクロプスさんご家族とインプさんご家族が集落？　にやって来てから一ヶ月が経過した。
　それぞれの大きさに適したサイズの家は、やって来た二日目にはどちらも完成して暮らしている。
　最初こそ家を作ったり、必要な物を聞いてそれを作ったりと忙しくしていたのだが、一ヶ月も経つとゆっくりできる時間も増えてきた。
　一日中ゴロゴロしている時間は作れていないが、これくらいがちょうどいいと俺は思っている。

「……ふぅ。ツヴァイル、こっちに来い」
「ガウ？」

　神獣であり、俺と獣魔契約を結んだことになっているツヴァイルが俺の足元にやってくると、そのモフモフを撫で回す。
　……むふふ、この毛並みの良さ、さすがツヴァイルでございますな。

「ガウガウーン」

　ツヴァイルもなでなでされることが大好きなので、こうしてされるがままなのだ。
　しかし、俺としては一つの懸念を持っている。

「――ツヴァイルー！」
「――どこにいるのー？」
「ガウンッ！」
「あっ！　ツ、ツヴァイル！？」

　家の外からリリルとルリエの声が聞こえると、ツヴァイルはあっさりと俺から離れて外に飛び出してしまった。

「――あっちでミレットちゃんたちが遊ぼうだって」
「――行きましょうか、ツヴァイル」
「――ガウガウーン！」

　……はぁ。まあ、子供に負けたのなら、仕方ないか。

「さて、それじゃあ俺は、畑でも耕すとしますか」

　肩を落としながら立ち上がった俺は、家を出てそのまま裏手に回る。
　拡張した畑には現在、多くの野菜たちが育ってきている。
　元々持ってきていたキャロット、ポロ芋、オーニオンの三種類と、ボートピアズで手に入れたピルマル、トマルト、モルコーン、キベッツの四種類。
　計七種類の野菜が育ち、すでに収穫時期を迎えているのだ。
　本来であればもっと時間が掛かるし、同じ時期に育つような野菜ではないのだが、これにはスキルと立地が関係している。
　まずは、俺が持っている農耕スキルが通常よりも土の性質を良くしてくれている。
　さらに、人族で移住してきたロットさんも農耕スキル持ちだったことで、俺の知らない知識を教えてもらったのだ。
　その一つが、堆肥作りである。
　一応の知識はスキルのおかげで分かっていたのだが、それでも手探りで作っていくつもりだった。
　しかし、ロットさんは長年農業を続けていた実績があり、堆肥作りもお手の物だったのだ。

「堆肥のおかげで土も最高のものができたんだ。これは、野菜の味が楽しみだなぁ」

　農耕スキルと鑑定スキルの合わせ技にて、土の状態も分かり最高の土に仕上がっている。
　当初の三種類を植えた時はまあまあの土の状態だったが、それでも今まで食べていた野菜よりも甘く、深みのある味わいになっていた。
　これならば……じゅるり……おっと、涎が出てきてしまったぞ。

「よし！　収穫だ！」

　俺は気合を入れて一種類ずつ、収穫を始めて行く。
　それにしても、ロットさんがだいぶ驚いていたなぁ。
　同じ農耕スキル持ちで同じことが起きると思っていたのだが、話を聞くと俺のスキルは少し特別なんだとか。
　土の状態を良くしたり、野菜が美味しく育つという点では同じなのだが、成長が速くなるというのは聞いたことがないらしい。
　勇者だからなのか、そこら辺はよく分からないが、生産性が上がるのは良いことなので気にしないことにした。

　そして、スキルとは別にもう一つ、立地による全野菜の一挙栽培についてだ。
　この場所は人界と魔界のほぼ境に位置している。
　気候とはまた違うものらしく、これもロットさんから教えられた。
　正直、何を言っているのか理解できなかったのだが、野菜が育ってくれるのであればそれに越したことはない。

「…………よし、終わった～！　うぅぅ、腰が痛いなぁ」

　腰をトントンと叩きながらも、俺は収穫した野菜たちを眺めている。
　色も鮮やかだし、瑞々しいのも一目で分かる出来上がり。
　これは……絶対に美味いだろう！

「よし！　今日の晩ご飯は野菜尽くしだ！　他の家にもおすそ分けを持っていくか！」

　そして、俺はスキップしながら各家を回っていくのだった。