職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

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第1章:異世界転生

出発準備

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 湖に到着して最初に行ったことはテーブルやイスの収納ではなく、ほったらかしにしていたオルトロスの素材の剥ぎ取りである。
 ゲビレットもそうだったが、その素材はとても有用なものになるだろう。
 俺の意見にはリリアーナも賛成のようで、牙や爪は武器として、肉は硬くて食べられないようだが、臓器の一部はとても貴重なのだとか。

「炎袋と氷袋。オルトロスが吐き出していた炎や氷はこの臓器で作られていたのよ」
「そうなんだ。その機能って、死んでからも有効なのか?」
「このままでは使えないけど、錬金術師が魔法陣を施したらブレスほどではないにしても炎や氷による攻撃ができるようになるから、それなりの攻撃手段にはなるはずよ」

 それなりというか、だいぶ凄い攻撃手段だと思う。
 だって、俺は魔法が使えないんだから。

「……その錬金術師って、ゼルジュラーダにもいるのか?」
「いるわよ、どちらかと言えば大きな都市だからね。もしかして、魔法陣を依頼しようと思っているの?」
「あぁ。賢者とはいえ魔法が使えないからな。ナイフ術で戦えてはいるけど、念には念を入れていた方がいいだろうしな」

 手元からナイフがなくなった瞬間から、俺は何もできないただの人間に成り下がってしまう。
 それなら別の攻撃手段を用意しておくべきだろう。

「依頼するのもいいけど、別のナイフを用意しておくのもありじゃないかしら」
「俺もそれは考えたんだけど……たぶん、他のナイフだと今みたいな戦い方はできないと思うんだ」
「どういうこと?」

 リリアーナの疑問はもっともなので、俺はナイフ術のスキル効果が記されているステータス画面を見せた。

「ナイフ術の効果はレベルによって変わる。それは他のスキルも同じだと思うが、大事なのは効果補正の部分だ」
「どれどれ……へぇー……なるほど、ナイフの質が良ければ良いほど高補正が掛かるってことなのね」
「そういうこと。このナイフは、鑑定スキルのレベル2の状態でも見ることができない。リリアーナもそれは分かっているだろう?」
「え、えぇ。私の鑑定スキルでも見れなかったからね。っというか、鑑定スキルレベル、2だったのね」

 なぜレベル2の部分に驚きを見せたのか分からないが、今大事なのは効果補正の話である。

「おそらく、このナイフは当初の予想通りに凄い逸品なんだと思う。だからこそナイフ術のレベル1の時でもゲビレットを倒せたし、今日もオルトロスと戦うことができたんだ」
「そっか。そう考えると、確かに他のナイフでは補正が劣っちゃうわね」
「あぁ。これと同等のナイフが手に入るなら別だけど、難しいだろうから他の攻撃手段が必要なんだ」

 どうやらリリアーナも納得してくれたようで、大きく頷きながらゼルジュラーダでは錬金術師も紹介してくれると言ってくれた。

「なあ、本当にこんなおんぶに抱っこでいいのか?」
「当然じゃないのよ。言っておくけど、アースレイロッグの金額を山分けするってことは、私の方が全然お得になっちゃってるんだからね」

 ……アースレイロッグ、恐るべし。
 この後はテーブルやイスなどを空間収納に入れて、ようやくエルフの森を出発する時がきた。

「……もう少し、この森にいる予定だったんだけどなぁ」
「今になって名残惜しくなっちゃったの?」
「いや、出て行くつもりではいたんだけど、ちょっと心の準備がな」

 転生者はグランザリウスでは珍しくないようだが、それでも狙われる可能性は高いとリリアーナは言っていた。
 俺は自分が転生者であることを隠しながら冒険者として生きていくつもりだけど、もしバレてしまったらどうしたらいいのか、そんな悪いことばかり考えてしまう。
 ……不安、なんだろうな。

「大丈夫よ」
「……リリアーナ」
「アマカワの隣には私がいるのよ? 言っておきますけど、これでも上級冒険者なんだからね。ゼルジュラーダでも結構顔が利くんだからね」

 笑顔で、そしてわざと冗談っぽく言ってくれたリリアーナを見て、俺は不思議と安心することができた。
 リリアーナの気遣いを見て、俺も応えなければならないという気持ちに自然となっていた。

「……そうだな。俺の隣にはリリアーナがいてくれる。これからよろしくな」
「こちらこそ。アマカワの隣には……そう、アマカワの隣には、ずっと私が……ずっと……隣……私、が……」

 ……また、止まったなぁ。これ、しばらく放置していたらどうなるんだろうか。

「……」
「……」
「……」
「……はっ! さ、さあ、行こうか! あぁ、急いで向かおう! 私たちのこれからのために! あは、あははー!」

 耳まで真っ赤にしながら先に歩いて行ってしまった。

「……いったい何だったんだろう」

 俺は困惑しながらもリリアーナの恥ずかしそうな姿に苦笑して、その背中を追い掛けた。
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