職業賢者、魔法はまだない ~サバイバルから始まる異世界生活~

渡琉兎

文字の大きさ
43 / 56
第1章:異世界転生

ドラゴン

しおりを挟む
 冒険者ギルドの外に出ると全ての人が東の空に目を向けている。
 その表情はどれも恐怖に染まり、この世の終わりでも見たような表情をしていた。

「いったい何が……お、おぉ」
「あれが、ドラゴン……!」

 真っ赤な瞳、漆黒の鱗、鋭い牙と爪、そして──禍々しいオーラ。
 というか、オーラって目で見えるものなんだろうか。それが見えてるってことは、こいつは相当ヤバいってことじゃないのか?

「……な、なあ、リリアーナ。あのドラゴンって、ゲビレットとかオルトロスと比べてどれくらい強いか分かるか?」
「……比べ物にならないくらいに強いと思うわよ」
「……だよなぁ」

 特にヤバいのは強さとかの前に飛んでるってことだ。
 魔法が使えるリリアーナならともかく、俺はドラゴンを地上に落とさないと手も足も出ない。

「どうする? 死ぬかもしれないけど──」
「行くに決まってるだろ? 考えていることもあるしな」
「……即答なのね」
「リリアーナが行くからな」
「……ありがと」

 少し照れ臭そうにしているリリアーナも可愛いな……って、今はそんなことを考えている場合じゃないな。

「行こうか」
「そうだな。ゼルジュラーダに被害が出たら元も子もないし」

 そして俺たちは再び走り出す。今度はゼルジュラーダの外へ、東の森の方へ。

 ※※※※

 不思議なもので、ドラゴンは東の森の上空から動くことなくホバリングで止まっている。
 俺たちはというと向かいながら元から森の中にいただろう冒険者とすれ違いながら突き進んでいた。

「これだけいて、なんで誰も立ち向かおうとしないんだ?」
「ドラゴンってのは、弱い個体でも上級冒険者じゃないと倒せないと言われているのよ。だから、どこにでもいるような冒険者じゃあ勝てるわけがないってこと!」

 どこにでもいるような冒険者って……まあ、俺は新人だけどどこにでもいる奴じゃないよなぁ。

「……なあ、あのドラゴンなんだけど、こっちを見てないか?」
「こっちというより、アマカワを見ているように感じるんだけど」
「リリアーナもそう思うか?」
「……もしかして、ドラゴンの狙いって、アマカワなの?」

 リリアーナがそう口にした途端、ドラゴンから再び咆哮があがった。

『グルオオオオオオオオォォォォッ!』

 大きな翼を広げての咆哮は、その姿をより大きく見せて力のない相手を恐慌状態に陥れたことだろう。
 しかしどうしたことか、リリアーナはともかく俺もその姿を見ても怖いとは思っても恐慌状態になることはなかった。

「……アマカワ、あなたすごいわね」
「そうか?」

 よく分からないが、俺には効かないようだ。
 そんなことを話していると、俺たちは東の森に足を踏み入れた。
 ここまで来たらやれることはある。俺がそう考えていると、リリアーナも同じことを考えていたようだ。

「アマカワ、あなたも同じことを考えているんでしょう?」
「だろうな。っていうか、俺にはそれしかないからさ」
「分かった、お願い!」
「いくぞ――重力制御!」

 俺はドラゴンがいる範囲に強力な重力磁場を発生させて重さを二倍にする。
 この重力制御だが、俺自身に使う場合は重さを重くしたり軽くしたりが自由なのだが、別の対象に使う場合はそうはいかない。というか、対象を個別に選べないのだ。
 できることといえば今のように重力磁場を一定範囲に作り出すこと。
 今回はドラゴンがいる上空、そしてその下の方に重力磁場を作り出していた。

『グルオアッ!』
「よし、落ちてきたわね!」
「リリアーナ、いけるか!」
「当然、それじゃあぶっ放すわよ――サンライズセイバー!」

 徐々に地面に近づいていくドラゴン。その頭上には光で作られた巨大な剣が顕現した。
 刀身を地面に向けた形の光の剣は、身動きが取れなくなっているドラゴンめがけて突き放たれた。

『グ、グルオ、グルゴアアアアアァァッ!』
「いっけええええええぇぇっ!」

 ドラゴンは重力磁場から抜け出せないと悟ったのか、首を上に向けるとサンライズセイバーめがけてブレスを吐き出した。
 漆黒のブレスは光を黒く染めていくが、それでもサンライズセイバーは止まることなく地面へと近づいていき――そして、ドラゴンを貫いた。

『グギャアアアアアアアアァァァァッ!』

 そのまま地面に叩きつけられたドラゴンは、サンライズセイバーの光に包まれて爆散した。
 巻き上がる砂煙から目を腕で隠し、直後には衝撃波が俺の体に襲い掛かる。
 しばらくその場から動けなかったのだが、衝撃が止むと静寂が辺りを包み込んでいた。

「……や、やったのか? 意外とあっけなかったけど」
「……はぁ……はぁ……はぁ……こ、これで、やれてなかったら、もう無理だわ」
「リリアーナ! だ、大丈夫か?」
「わ、私の魔力を、全部ぶち込んだからね……さすがに、疲れたかな」

 額から汗が流れ落ち、体もわずかだが震えている。

「……ドラゴンの様子は俺が見てくるよ。だからリリアーナは休んでいろ」
「ダ、ダメよ、アマカワ。もし、ドラゴンがまだ生きていたら、その時は――」
『グルルルルゥゥ……』

 俺もリリアーナも、弾かれたようにいまだ晴れない砂煙の先に視線を向ける。
 ……くそっ、どうやらまだやれるみたいだな。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...