異世界ダンジョン経営 ノーマルガチャだけで人気ダンジョン作れるか!?

渡琉兎

文字の大きさ
87 / 183
第3章:外の世界

看板の完成

しおりを挟む
 話し合いが終わった廻はアルバスと共に換金所へと向かい、換金を待っていた冒険者の列を捌き始めた。
 話し合いをしている間は換金所を閉めていたせいもあり、多くの冒険者が今か今かと待っていたのだ。
 顔見知りの冒険者からは優しい声を掛けてもらっていた廻だが、初めてジーエフを訪れた冒険者からは怒鳴り散らされる場面もあった。
 だが、その都度隣で仕事をこなしていたアルバスが睨みを利かせ、さらに顔見知りの冒険者が初めての冒険者に声を掛け、アルバスの存在を知るや否や顔を青ざめて頭を下げながら換金所を後にしていく。
 あまり良い傾向ではないのだが、これが換金所お決まりの光景なのだと言われてしまうと、納得するしかなかった。

「──メグルさん!」
「あれ、アークスさん。どうしたんですか?」

 冒険者の列が途切れ始めた時、アークスが換金所を訪れた。

「まだ換金所にいたんですね。看板が出来上がりましたよ」
「おぉっ! 早かったんですね!」
「それで、注意書きは考えてくれたんですか?」
「……あー、えっと……忘れてました!」

 申し訳なさそうに謝っている廻を見て、アークスは苦笑しながら気にしないでほしいと口にする。

「換金所を閉めてたんでしょ? それなら仕方ないですよ。でも、ロンド君から聞きましたが出発は今日の夜なんですよね? 時間もないですし、早く考えないと間に合わなくなりますよ」
「小娘! ここはもういいからアークスと一緒に鍛冶屋で考えとけ」
「ありがとうございます、アルバスさん」

 廻の言葉に片手を振り、さっさと行けと示すアルバス。
 笑顔の廻は受付を出ると、アークスと一緒に外へ出る。

「あれ? ロンド君もいたんだね」
「はい。ニーナさんからは休みをもらいましたので、僕も鍛冶屋に行こうと思っています」
「宿屋は大丈夫なの?」
「ダンジョンに潜るのは僕とトーリの二人なので、カナタとアリサに宿屋の手伝いをお願いしています」
「あれ? カナタ君は潜らないんだね。それにトーリ君が潜るのも意外かも」

 ロンドは比較的カナタとは仲が良く、トーリとは距離があるものだと廻は感じていたので、ロンドとトーリの組み合わせが意外でしかなかった。

「今回はリリーナさんも潜りますから。元27位の実力者なので必要ないかもしれませんが、支援魔法が使えるトーリがアルバス様に指名されたんです」
「そうなんだ。トーリ君、驚いていたんじゃないの?」
「まあ、そうですね。他の人も驚いていましたけど、本人が一番驚いていたと思いますよ」

 アルバスが何も考えずに指名するとは思っていない廻は人選に口を出すことなく、鍛冶屋へ向かいながら看板に書く説明文を考え始めた。

「アークスさんが言うように、冒険者の皆さんが死を覚悟していることは十分理解できました。なので、その心を刺激しないような言葉で書かなきゃいけないのよね」
「そうですね。フェロー様がいるのでそうそう問題は起きないと思いますが、それでも気の荒い冒険者が命を大事にするようにと書かれた看板をダンジョンで見かけたら、怒鳴り散らしながら換金所に現れる未来しか見えませんよ」
「うーん、自分の身は自分で守る、責任だって自分で取る。その心構えは私も尊重するけど、やっぱりダンジョンを経営する者としては、最低限の安全対策は必要だと思うんだよね」
「ボスフロアの前に安全地帯セーフポイントを設置したのと同じ理由ですね」
「そういうこと。今のところ、それが功を奏しているのかは分からないけど、人死は出ていないわ。……正直、ランドンがいる以上はずっとこれが続くとは思っていないの。だからこそ、私にできることは全てやっておきたいのよね」

 廻のスタンスは変わらない。
 人死を嫌い、それを限りなく〇にする為に行動する。
 その中で経営者としての権力を振るうことはせず、住民と相談し、時間を掛けて話し合い、その中で最善策を見出していく。
 一人の意見だけではより良い策が思い浮かぶとは思っていないし、自分の意見が最善策なのだと胸を張れるほど傲慢にもなれない。
 最初は反対していたアークスだったが、廻の考えに同調できる部分もあったからこそ、協力を惜しむことはしなかった。

「自己責任、といった言葉は使った方がいいでしょうね」
「でも、それは当然のことだと冒険者なら知っているはずですよ?」
「だからこそ、あえて文字に起こすんです。経営者は冒険者の心得を知っていると伝える為でもあり、それでも伝えているのだから、何かあっても本当に知りませんよ? と強調させることができると思うんだ」
「それ、いいかも。だったら、ランドンの正体を教えるような言葉はダメだから、レアだけど、強いモンスターがいること、それをアルバスさんでも倒せなかった程だって書けば、より強調できるんじゃないかしら!」
「……そ、それは、フェロー様に確認を取る必要があるかと」
「大丈夫だって! うふふ、なんだか考えるのが楽しくなってきたかも!」

 廻の言葉にアークスは嫌な予感を覚え、ロンドは苦笑を浮かべている。
 当の廻はぶつぶつと独り言を溢しながら、気づけばあっという間に鍛冶屋へ到着した。

 看板は貴重な素材であるミスリルで作られていた。
 ミスリルというのは多くの冒険者が武具として利用する加工がやりやすいわりに硬質で、中堅からベテラン冒険者にも人気が高い素材である。
 そんな貴重な素材で看板を作ってしまったアークスは、自身の鍛冶人生の中で最初で最後の仕事だと断言していた。

「そ、そんな貴重な素材で作らなくてもいいのに……」
「俺が持っている中で、一番硬くて壊されない素材っていったらこれしか思い浮かばなかったんですよ」
「……ミ、ミスリルの看板」

 ロンドは唖然としているようだが、アークスは気にすることなく話を進めていく。

「一度固定魔法を発動すると、その上から文字を書くことはおろか、魔法を上回る力でないと魔法の解除ができなくなりますからね。出発が迫っているなら、早い方がいいですよ」
「そうだよね。よし、ちょっと待ってね」

 鍛冶屋までの道中である程度の文章は考えていた。
 その中で、冒険者の刺激しない言葉選びをしなければならない。
 アークスからメモ帳を借りた廻は、頭に浮かんだ言葉を書いては消し、また書いては決してを繰り返し、一〇分程が経過したその時、一つ頷いて顔を上げる。

「……よし、これでいこう! 二人とも、どうかな?」

 メモ帳に書いた説明文をロンドとアークスにも確認してもらう。
 二度、三度と読み直した二人は、顔を見合わせると大きく頷いた。

「大丈夫だと思いますよ」
「俺も問題ないと思います。これなら、看板を読んだ冒険者が先に進んでも、相手がランドンなら納得してくれるんじゃないですかね」
「そうだよね! よし、それじゃあ本番、書きますね!」

 看板を前にした廻は気合を入れて書き込もうとした――だが、その動きは何故だかピタリと止まってしまう。

「……メ、メグル様?」
「……どうしたんですか?」
「……き、金属にこんな細いペンで書けるものなの?」

 首を傾げながら顔を見合わせる三人。
 結局、ミスリルの看板にはアークスが表面を削る形で文字を書き込んでいく。その内容というのは──

『この先危険! レアモンスターがいますが、凶暴であり、命の保証ができません。元冒険者ランキング1位のアルバス・フェローでも瀕死に追い込まれました! 挑む場合は、十分な準備を整え、ボスモンスターの姿を確認したうえで、でお願いします!』

 極々普通の説明文ではあるが、これでいいのだとアークスは言う。

「あれやこれやを書いても、ほとんどの冒険者は当り前だと言って内容を把握しようとはしません。ならば、これくらい簡潔に書いた方が頭に残ると思います」
「そうなんだ。ロンド君なら、隅から隅まで読みそうだけど」
「えっと、その、なんだか意見しにくい内容なんですけど……」

 ロンドが戸惑っている間にも準備は進められ、アークスが看板を持ち、三人はそのまま換金所へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...