魔王と! 私と! ※!

白雛

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第一章:『歌う丘』

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 夕暮れが過ぎて、迎えにあがった女中に連れられ、少年が屋敷に帰っていくのを見送ると、ハルピュイアは警戒しながら広場に出てきて、老竜と相対した。
 その巨大な体躯たいくからすると、人間大のハルピュイアなど小動物にひとしく、自身の身の丈ほどもある大きな爬虫類はちゅうるいの眼が、娘をしかと捉えている。しかし、強者きょうしゃの必然か、威圧感いあつかんや恐怖などは微塵みじんもなかった。
 おだやかな老竜はずっとその存在にも気付いていて、ハルピュイアの娘が出てくるや、待ちかねたように先に言った。
「人間の子供に、そこまで興味があるのかね。歌と享楽だけが生きがいの野蛮やばんな鳥人の娘が、珍しいこともあるものだ」
「珍しいとは、あの子とあなた様の方ですわよ。いったいどんな魔法をお使いになっていますの。先ほどのやりとりはいったい……わたくしには何も聞こえなかった」
 娘が愚痴ぐちらすように話すと、老竜はにべもなく返した。
「それはそうだろう。なにせあれは魔法でも何でもない。あの子が自然とやっていることなのだから」
「魔法ではない?」
「左様。鳥人の娘よ、其方そなたはまだ若い。自身の先天的な資質ししつおぼれるだけで、実際のところを視えておらんのだ。聴けてもおらぬ」
「どういうことかしら。わたくしは見えているわ。聞けてもいる。それが出来ていないのはあの子の方じゃなくて?」
「彼はいつもここに来ては歌っておるよ。話してもおる。観てもいる。私はそれをつぶさに聴いている。其方にはまだ聴けておらんのだろうがね」
むずかしいことをおっしゃらないで。けれど……でもそう、確かに。わたくしにはあの子の声は聞こえない。あの時、あの子は、わたくしに何かを言っていたの? だとしたら、なんて……?」
「巣にお戻り。鳥人の娘よ。そして自らの未熟さを思い知るがいい」
「老竜よ。なら、あなた様はなぜここにおりますの? なぜあの子に構ってらっしゃるの?」
「古き友との盟約めいやくがゆえに」
 老竜はそれだけ言うと、もう話を止め、かたひとみを閉ざした。ハルピュイアの娘は、胸に芽生めばえた想いを抱えながら、渓谷の巣に飛び立っていった。




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