転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未

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51話

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独立都市フィーネッジ。 
大河アムネジアを天然の堀とし、魔族領と対峙するこの城塞都市は今日も粗野な熱気と欲望に包まれていた。

その中心にある冒険者ギルド「金色の獅子亭」。 
普段であれば、魔族領からの素材採取や小競り合いの武勇伝で賑わう酒場が、今日は異様な興奮に包まれていた。

「おい、聞いたかよ? 『帰らずの森』の話だ」
「ああ! 新しいダンジョンが見つかったって噂だろ?」
「しかもヴァージン……未踏破だ! 誰も踏破してない宝の山だぞ!」

男たちがジョッキを片手に唾を飛ばして議論している。 
視線の中心、酒場の一角で一人の男が包帯だらけの姿で安酒をあおっていた。

それは以前「帰らずの森」に出来たダンジョンに侵入し、相棒の狂戦士ダインを失って逃げ帰った盗賊ジンだった。

「……へっ、あぁそうさ。俺は見たんだよ」

ジンは酔いの回った赤い目で、取り囲む冒険者たちに語りかける。 
恐怖と、それ以上の射幸心を煽るように。

「森の奥に、巨大な円形の塔が建ってやがったのさ」
「塔だと? 遺跡型ダンジョンか?」
「そうだ。俺たちは入り口でやられたが……奥に、いや、上にはとんでもないお宝が眠ってるかもしれん」

周囲の冒険者たちが色めき立つ。

「俺の相棒はドジ踏んで死んじまったがよぉ……腕に覚えのあるお前らなら『攻略』できるんじゃねえか?」

ジンの挑発に、血気盛んな冒険者たちが雄叫びを上げた。

「やってやるぜ! 手つかずのダンジョンなんて、一生に一度の好機だ!」
「早い者勝ちだ! 準備しろ!」

我先にとギルドのカウンターへ殺到する冒険者たち。 
ジンは騒乱を冷めた目で見つめながら、ニヤリと口角を吊り上げた。

(……へっ。ざまぁみろ)

彼は知っている。あのダンジョンの異常性を。 
統率された動き、進化する魔物……あれは、ここにいるようなC級やD級の有象無象が束になっても勝てない──「生きている」ダンジョンだ。

だが、それでもいい。 大量の冒険者が突撃して混乱が起きれば、どさくさに紛れてお宝を掠め取ることだってできる。

「精々、派手に暴れてくれよ……」

相棒の仇なんて取るつもりは毛頭ない。自分だけが良ければそれでいいのだから。



♢   ♢   ♢



ジンが酒場で撒いた種は瞬く間に芽吹き、フィーネッジという巨大な欲望の苗床を侵食していった。

元来、この都市は傭兵と冒険者の吹き溜まり。一攫千金を夢見て死地に飛び込む海千山千の荒くれ者たちで溢れかえっている。 
流石にSランクやAランクといった雲の上の実力者たちは既に国家規模の依頼や長期契約に縛られており、酒場の噂話程度で腰を上げることはない。

だが──今日明日を食う金にも困る下位、あるいは一発逆転を狙う中位のパーティたちは違う。
彼らの腰は羽毛のように軽い。 かくして都市の武具屋や道具屋は賑わいを見せ、帰らずの森へ向かおうとする熱気は膨れ上がる一方だった。

そんな喧騒の中、一組の兄妹が街を歩いていた。

「おい、ニルシャ。聞いたか?」 
「へへ~もちろんだよ、兄貴!」

人混みを縫うように歩く軽薄な笑みを浮かべた青年と、小柄な少女。 
兄の名はエルゾ。妹の名はニルシャ。 ギルドの登録証は、冒険者として最低ランクの「G」。 
駆け出しもいいところの若造二人組だ。

だが、二人の目はダンジョンの財宝に夢を見る冒険者たちのそれとは決定的に異なっていた。

「こいつは……金の匂いがプンプンするな」
「うんうん、あたしには見えるよ~。馬鹿なカモたちが落とす、金貨の幻覚がね~」

確かにダンジョンは財宝や古代の遺物が眠る宝庫だ。 
だが、二人が嗅ぎつけた「金の匂い」は、ダンジョンの奥底から漂うものではない。 
ダンジョンへ向かおうと色めき立つ、冒険者から漂うものだ。

「これだけ浮ついてりゃ、馬鹿相手に商売が捗りそうだ。ポーションもどきの色水でも売りつけてやるか」 
「いやいや兄貴、騙すのも面白そうじゃない? 『秘密の地図』とか売っちゃう? きひひ!」

二人の正体は冒険者の皮を被ったハイエナ。 現地での「ぼったくり商人」と「詐欺師」。 
混乱に乗じて同業者を食い物にするタチの悪い悪党兄妹である……。
路地裏に入り、二人はヒヒヒと下卑た笑い声を漏らしながら悪だくみの密談を始めた。

エルゾとニルシャにはダンジョンになどという死地に挑む度胸も気概も、実力もありはしない。 
彼らにあるのは安全圏から金を掠め取る卑しさだけだ。

ダンジョンに挑む奴は馬鹿だ。阿呆だ。 
自分の命こそが至上の宝である二人にとってダンジョンとは冒険の場所ではない。
ネギを背負ったカモが、自ら鍋に飛び込んでくる集金所でしかないのだ。

血を分けた兄妹ではある……だが、そこに美しい家族愛など微塵もない。もし仮に危機に陥った時──例えば魔物に食われそうになったとしたら。 
彼らは躊躇なく片方を蹴り飛ばし、囮にして逃げるだろう。腐りきった根性こそがこの兄妹の最大の共通点であり、絆だった。

「よーし、早速売り物(ゴミ)を準備するぞ! 確か『帰らずの森』の入り口近くには、補給拠点になりそうな村があったはずだ!」
「そこにカモたちも集まるはずだからねー。先回りして網を張らなくちゃ!」

二人は意気揚々とこれから始まる搾取の日々を夢見て、村へと向かう準備を進めるのだった。



♢   ♢   ♢



独立都市フィーネッジ。 冒険者ギルドの最奥にある執務室にて。

隻眼の男、ギルドマスター・バルガスは手元の報告書──山のように積まれた遠征申請書の束を前に、深く重い溜息を吐いていた。

「はぁ……情報統制も、もはや意味を為さなくなったか」

当初は都市の長であるフィーネの命により情報の秘匿になんとか成功していた。 
だが、いつしか噂は広まってしまった。今やバルガスの元には、帰らずの森への遠征許可を求める申請書が次々と舞い込んできている。

「馬鹿どもが。未知のダンジョンと聞いて、我欲に走りおって……」

バルガスは忌々しげに呟き、書類を机に叩きつけた。 
ダンジョンに夢を見るのは冒険者の性だ。それを否定はしない。 
だが、この申請書を出してきた連中のうち一体何人が本当のダンジョンの恐ろしさを理解しているというのか……。

彼らが普段潜っているのは、いわば管理されたダンジョンであることが多い。
周囲には街や宿場があり街道が整備され、低層階の安全はある程度確保されている。 
それは数多の先人たちが命を賭して開拓し、夥しい血を流してダンジョンの周囲や内部の安全圏を確保し、維持してきた結果に過ぎない。

そうやってお膳立てされた場所ですら、死人が出るのがこの稼業だ。 
だというのに地図もなく魔物の生態も分からず、安全地帯など一つもない完全に未知のダンジョンに挑む?

それは冒険ではない。ただの自殺行為だ。

「バルガスよ。お主、いつも難しい顔をしておるのう。もしかして表情筋の動かし方を忘れてしもうたか?」

ふいに掛けられた鈴を転がすような声に、バルガスは心臓が止まる錯覚を覚える。
バッと顔を上げると、いつの間にか執務室のソファーに都市の長──フィーネが優雅に腰掛けていた。バルガスが報告書と睨み合っている間に、音もなく侵入していたらしい。

「フィーネ様……!?」

外見だけは幼く、しかしどこか妖艶なエルフの少女に対しバルガスは慌てて席を立ち頭を下げる。 
そして苦渋に満ちた顔で言った。

「お見苦しいところを。しかし、Cランク以下の有象無象どもがすっかり浮足立っております。慢心するのはせめてBランクの壁を越えてからにして欲しいのですがね」

バルガスが吐き捨てるように言うと、フィーネはケラケラと無邪気に笑った。

「くっくっく。よいではないか、素晴らしいことじゃ」

フィーネはふわりと重力を無視して宙に浮くと、空中を漂いながら薄い笑みを浮かべる。

「人間の一生は短い。瞬きする間に老い、土に還る……。なればこそ一か八かの賭けに出て、一夜にして英雄の座を掴みたいというその足掻き……長き時を生きる妾にも理解できるぞ」

フィーネはどこか遠く、ここではない何処かを見るような瞳で言葉を紡ぐ。

「その果てに無様に死のうとも、それを選んだのは奴ら自身。欲望に塗れ、命を燃やすその姿……だからこそ妾は奴らを愛おしく感じるのじゃ……」

そう言って無邪気に微笑む彼女は、見る者が見れば魂を奪われるほどに美しい。 
だが、バルガスは笑顔の裏にある冷徹さに背筋が凍る思いだった。

(やはり、この御方は違う)

数千年を生きるエルフにとって人の命など朝露のように儚く、軽いものなのだ。
価値観の断絶を突きつけられ、歴戦の元冒険者であるバルガスですら戦慄を覚えられずにはいられなかった。

「ところでバルガスよ。Bランク以上の申請はないのか?」
「Bランク以上は既に長期依頼や護衛任務で動けぬ者が多いですからな。今のところはパーティ単位ではなく、一人二人の数える程しか……」
「ふぅん……」

フィーネは興味なさげに目を細めた。

「帰らずの森は外周部こそそこまで危険ではないが……大河アムネジアに近付くにつれ、生態系が狂ったように強力な魔物が生息しておる」

彼女は空中に寝そべるような姿勢で、嘲るように続ける。

「中位以下の有象無象が、そもそもダンジョンの入り口にすら辿り着けるか……見ものではあるな」
「ですから、やはりギルド主導でBランクやAランクの正規パーティを編成し、まずは森の入り口に橋頭保を確保させるべきでは……」

バルガスが食い下がるが、フィーネは冷ややかな視線でそれを遮った。

「くっくっく。お主は冒険者に甘いのう」
「……」
「その程度で野垂れ死ぬような奴は、この都市にはいらん。いや、リソースを食いつぶすだけの人類の御荷物じゃ。途中で間引かれて死んでくれるのが、一番の貢献というものよ」

そう言い捨てるとフィーネは興味を失ったように身を翻し、出口へとふわりと漂っていく。 
だが、扉に手をかけたところで、何かを思い出したように振り返った。

「あぁ、そういえば言い忘れておったが」
「はい?」
「一人、ワシの弟子を今回の冒険者の群れに紛れ込ませておる。事後承諾になるが、許可を頼むぞ」
「えっ?」

バルガスが間の抜けた声を上げる。 
バルガスが呆然と口を開けている間にフィーネは悪戯っぽく微笑み、そのまま部屋を出ていった。 
執務室にはただ一人、取り残されたギルドマスターの乾いた呻き声だけが響いていた。
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