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52話
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「ボウケンシャってニンゲンたちが、ワタシたちのところにタクサン、タクサン向かっテルッて!」
ベルの爆弾発言に俺の思考は一瞬フリーズした。
(……いやいや、待て待て)
俺は内心で首を横に振る。
こいつは何かを勘違いしてるんだ。急に人間が、しかも「たくさん」ここに押し寄せる訳がない。
村とは友好的な関係を築きつつあるし、子供も助けた。 きっとベルの早とちりだ。
村の祭りか何かを軍隊と見間違えたとか、そういうオチに決まってる……。
その時だった。
「キィキィッ!!(伝令! 伝令ーッ!!)」
窓から黒い影が弾丸のように飛び込んできた。 偵察部隊長[N] ヴァンパイアバットだ。
普段は冷静な彼が、羽をバタつかせて取り乱している。
「キィ……!!(ニンゲン、沢山! こっち来る! 武器持ってる! イッパイ!!)」
(……マジかよ)
ベルの言葉は半信半疑だったが……現場の指揮官であるヴァンパイアバットまでもが同じ報告をしてきたとなれば疑う余地はない。
──誤報じゃない。本当に敵襲だ。
どうする……?逃げる? いや、塔は動けない。
交渉? 向こうが武装しているなら、問答無用で攻め込んでくる可能性が高い。
なら──どうもこうも、迎え撃つしかない!
(落ち着け……。慌てるな、俺)
俺は深呼吸をするイメージで暴れ出しそうな動揺を抑え込む。
大丈夫だ。以前、冒険者が来た時とは状況が違う。 あの時は戦力も乏しく、対応も後手に回った。
今の俺には[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルと[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフという、一騎当千の二大英雄がいる。
彼らだけじゃない。[R]オーク・デストロイヤーもいれば[R]スケルトン・バウォークもいる。 魔物の質も量も、以前とは比べ物にならないほど強化されているし、拠点だって16階層の堅牢な塔へと進化しているんだ!
(そうだ、ビビる必要なんてない。戦力は十分にある)
俺は冷徹な拠点の守護者としての思考に切り替える。
──焦るな。冷静に考えろ。
敵が来るなら、万全の態勢で歓迎してやるだけだ。
(そういえば……前に冒険者の死体を納品した時、結構なDPが貰えたよな?)
俺はふと、以前侵入してきた狂戦士ダインの件を思い出した 。
確か、拠点の内部で撃退した時に『ダンジョン内撃退ボーナス』とかいうのがついて、大量の経験値とDPが入ったはずだ。
(……待てよ? なら、あえて敵を塔の中に招き入れてから一網打尽にすれば、実入りがデカいんじゃないか?)
一瞬、そんな悪魔的な囁きが脳裏をよぎる。
「タクサン」来るという冒険者を、飛んで火に入る夏の虫として美味しくいただく……。
だが、俺はすぐにその考えを振り払った。
(いや、ダメだ! 危険すぎる!)
相手の戦力が未知数な状態で無傷の軍勢を懐深くに招き入れるなんて自殺行為だ。
もし防衛線を突破されたら? リナや俺がいる最上階まで一直線だぞ。
DPは魅力的だが命あっての物種だ。リスクが高すぎる。無傷のままこの塔に迎え入れたら、もう後がないんだ!
(まずは……森だ!)
俺は意識を切り替える。
(森に散らばっている戦力を総動員して、敵が塔にたどり着く前に一人ずつ数を減らしていくんだ! 各個撃破だ!)
(ジェネラル! 聞こえるか! 全軍に通達だ!)
俺は総司令官である[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに意識を飛ばし、矢継ぎ早に命令を下す。
(まずは非戦闘員の避難だ! [C]スライム軍団と[N]コボルト・マイナー採掘隊は、直ちに外での作業を中断して塔の内部へ退避させろ! 敵と鉢合わせたらひとたまりもないぞ!)
資源回収は惜しいが、今はあいつらの命が優先だ。
(次に防衛部隊! 大多数は塔の内部、各階層の有利なポイントに配置しろ!塔内部の地形を生かして迎撃するんだ!)
そして、俺は防衛部隊長である最強の盾に意識を向ける。
(バウォーク! お前は1階だ! [R]巨人の黒鉄門の前で仁王立ちしてやれ! 鉄壁の守りで、鼠一匹たりとも通すなよ!)
よし、これで守りの布陣は整った!
(塔の守りはこれでいい。次は……森の布陣だ!)
俺は思考を外へ向ける。
防衛部隊以外の動ける戦力……遊撃部隊をフル活用し、森そのものを武器にしてやる!
(ウルフ! 狩猟部隊は森を駆け巡れ! 機動力を活かして、敵の側面や背後から奇襲をかけるんだ! 決して足は止めるな、一撃離脱で敵を徹底的に攪乱しろ!)
(ヴァンパイアバット! お前たちは上空から「目」になれ! 敵の数、位置、装備……全ての情報を味方に共有しろ!)
(そしてジェネラル! お前はレンジャー部隊を率いて、木陰から矢を射かけろ! 罠に掛かった奴、孤立した奴から各個撃破だ!)
(デストロイヤー! お前は遊撃部隊の切り札だ! ジェネラルの合図で突っ込み、敵の陣形ごと恐怖で粉砕してやれ!)
(行け! 塔にたどり着く前に、奴らの心をへし折ってやるんだ!全軍、配置につけ! 迎撃開始だ!)
俺の意思が[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに伝播する。 刹那、塔の前に仁王立ちしていた総司令官が、深紅のマントを翻して[将軍の魔剣]を天に突き上げた。
「グルァァァァァァッ!!(主の御命令だ!全員、動けっ!)」
ビリビリと大気を震わせる[軍団指揮]の咆哮。 それが合図だった。
ズズズズズ……ッ!
静止していた魔物の群れが一つの巨大な生き物のように一斉に動き出した。
そこには一切の混乱も躊躇もない。あるのは絶対的な規律と俺への忠誠のみ。
「キィッ!」
[N]ゴブリン・レンジャーたちが緑のマントを翻し、ジェネラルに付き従う。
彼らは主力として、冒険者たちを正面から撃破することになる。
「ワオォォン!!」
続いて[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ率いる狼の群れが、銀色の疾風となって大地を蹴った。
[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちがその後に続き、風のように森の奥へと消えていく。
「ブモォォォ!!」
「(ゴゴゴゴ……!)」
重量級の[N]ミノタウロスや[N]ゴーレム、そして[N]リザードマンたちは地響きを立てながら塔の入り口──[R]巨人の黒鉄門の奥へと退避し、防衛陣形を構築し始める。
空を見上げれば[N]ヴァンパイアバット率いる航空部隊が黒い雲のように展開し、全方位の索敵を開始した。
(主力だけじゃない。塔を支える全ての魔物が、俺の意志に応えて動いてる!)
俺は意識をさらに細部へと巡らせる。
そこには英雄たちの陰で蠢く、おびただしい数の配下たちの姿があった。
「プヨッ! プヨヨッ!(総員、退避ー! 急げー!)」
森の浅瀬では[N]セージ・スライムが青い体を激しく波打たせ、作業中の[C]スライムたちを誘導している。
苔や泥を運んでいたスライムたちは、のんびりとした動きを一変させ、弾むような動きで一列になり、塔の入り口へと雪崩れ込んでいく。
「キャン!(道具をしまえ!)」
「ワオーン!(戦闘準備だ!)」
[N]コボルト・マイナー率いる採掘部隊もツルハシを背負い直し、俊敏な動作で撤収を開始した。
彼らはただ逃げるだけではない。通りがかりに[簡易トラップ]を設置し、敵を誘い込む準備を整えていく職人芸を見せている。
そして、戦闘要員たちも負けてはいない。
「キチチチ……」
下草の陰では[N]アント・ソルジャーたちが大顎をカチカチと鳴らしながら地面に穴を掘って身を潜め始めた。
土の色と同化した彼らは近づく獲物の足を、地中から食い千切るための生きたトラップと化す。
「シュルルル……」
頭上を見上げれば[N]アシッド・センチピードと[UC]スパイダー部隊が、不気味な音を立てて巨木を登っていく。
鬱蒼とした枝葉の裏に張り付き、真下を通る人間に酸と粘着糸の雨を降らせる絶好の射撃位置を確保したようだ。
「キヒヒヒッ!!」
空には[N]ヴァンパイアバットに混じって、[N]ハーピーが鋭い鉤爪を光らせながら旋回している。
彼女の甲高い叫び声は敵の注意を空へ引きつけ、地上の伏兵から目を逸らさせるための陽動だ。
(すごい……壮観だ)
地を這う者、空を舞う者、影に潜む者。
種族も生態もバラバラな魔物たちが、たった一つの目的──「敵の排除」のために、歯車のように噛み合って機能している。
これが俺のダンジョン……これが、俺の軍団……。
「ワタシも……タタカウ!」
すぐ横でベルの決意に満ちた声が響く。
俺の命令が彼女の本能を揺さぶったのか、それともジェネラルの[軍団指揮]が[R]ランクの妖精にも届いたのか。
ベルは小さな決意を瞳に宿すと羽を激しく羽ばたかせ、砲弾のように窓から飛び立っていった。
「ベルちゃん……!?」
リナが慌てて窓辺に駆け寄るが、光の粒子を撒き散らして飛んでいく親友の背中はもう戦場へと向かっていた。
リナは悲しげに眉を寄せ、窓の外を見つめていたが……やがて、ゆっくりと振り返り俺の本体である石のそばへと歩み寄ってきた。
そしてその場に膝をつき、[UC]乙女の聖杖を胸に抱いて祈りを捧げる。
「神様……どうか、みんなを……守って……」
震える声。華奢な肩。 外では今まさに、血で血を洗う殺し合いが始まろうとしている。
だが、この部屋だけは静寂に包まれていた。
その姿を見て俺は改めて心に誓った。
俺はこの塔の主であり、魔物たちの王だ。
だが、それ以前に──。
(──彼女だけは。この子だけは、何があっても守り抜かなければ)
俺の決意に応えるように、石の身体が静かに力強く明滅した。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 16階建て + 屋上
DP: 1,600 訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R] ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R] ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R] オーク・デストロイヤー (Lv.15)
防衛部隊長: [R] スケルトン・バウォーク (Lv.15)
偵察部隊長: [N] ヴァンパイアバット (Lv.8)
遊撃・伝令: [R] ベル (Lv.1)
(他、多数)
侵入者: 襲来中!(数不明)
その他: 全軍、迎撃態勢完了。
♢ ♢ ♢
ベルの爆弾発言に俺の思考は一瞬フリーズした。
(……いやいや、待て待て)
俺は内心で首を横に振る。
こいつは何かを勘違いしてるんだ。急に人間が、しかも「たくさん」ここに押し寄せる訳がない。
村とは友好的な関係を築きつつあるし、子供も助けた。 きっとベルの早とちりだ。
村の祭りか何かを軍隊と見間違えたとか、そういうオチに決まってる……。
その時だった。
「キィキィッ!!(伝令! 伝令ーッ!!)」
窓から黒い影が弾丸のように飛び込んできた。 偵察部隊長[N] ヴァンパイアバットだ。
普段は冷静な彼が、羽をバタつかせて取り乱している。
「キィ……!!(ニンゲン、沢山! こっち来る! 武器持ってる! イッパイ!!)」
(……マジかよ)
ベルの言葉は半信半疑だったが……現場の指揮官であるヴァンパイアバットまでもが同じ報告をしてきたとなれば疑う余地はない。
──誤報じゃない。本当に敵襲だ。
どうする……?逃げる? いや、塔は動けない。
交渉? 向こうが武装しているなら、問答無用で攻め込んでくる可能性が高い。
なら──どうもこうも、迎え撃つしかない!
(落ち着け……。慌てるな、俺)
俺は深呼吸をするイメージで暴れ出しそうな動揺を抑え込む。
大丈夫だ。以前、冒険者が来た時とは状況が違う。 あの時は戦力も乏しく、対応も後手に回った。
今の俺には[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルと[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフという、一騎当千の二大英雄がいる。
彼らだけじゃない。[R]オーク・デストロイヤーもいれば[R]スケルトン・バウォークもいる。 魔物の質も量も、以前とは比べ物にならないほど強化されているし、拠点だって16階層の堅牢な塔へと進化しているんだ!
(そうだ、ビビる必要なんてない。戦力は十分にある)
俺は冷徹な拠点の守護者としての思考に切り替える。
──焦るな。冷静に考えろ。
敵が来るなら、万全の態勢で歓迎してやるだけだ。
(そういえば……前に冒険者の死体を納品した時、結構なDPが貰えたよな?)
俺はふと、以前侵入してきた狂戦士ダインの件を思い出した 。
確か、拠点の内部で撃退した時に『ダンジョン内撃退ボーナス』とかいうのがついて、大量の経験値とDPが入ったはずだ。
(……待てよ? なら、あえて敵を塔の中に招き入れてから一網打尽にすれば、実入りがデカいんじゃないか?)
一瞬、そんな悪魔的な囁きが脳裏をよぎる。
「タクサン」来るという冒険者を、飛んで火に入る夏の虫として美味しくいただく……。
だが、俺はすぐにその考えを振り払った。
(いや、ダメだ! 危険すぎる!)
相手の戦力が未知数な状態で無傷の軍勢を懐深くに招き入れるなんて自殺行為だ。
もし防衛線を突破されたら? リナや俺がいる最上階まで一直線だぞ。
DPは魅力的だが命あっての物種だ。リスクが高すぎる。無傷のままこの塔に迎え入れたら、もう後がないんだ!
(まずは……森だ!)
俺は意識を切り替える。
(森に散らばっている戦力を総動員して、敵が塔にたどり着く前に一人ずつ数を減らしていくんだ! 各個撃破だ!)
(ジェネラル! 聞こえるか! 全軍に通達だ!)
俺は総司令官である[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに意識を飛ばし、矢継ぎ早に命令を下す。
(まずは非戦闘員の避難だ! [C]スライム軍団と[N]コボルト・マイナー採掘隊は、直ちに外での作業を中断して塔の内部へ退避させろ! 敵と鉢合わせたらひとたまりもないぞ!)
資源回収は惜しいが、今はあいつらの命が優先だ。
(次に防衛部隊! 大多数は塔の内部、各階層の有利なポイントに配置しろ!塔内部の地形を生かして迎撃するんだ!)
そして、俺は防衛部隊長である最強の盾に意識を向ける。
(バウォーク! お前は1階だ! [R]巨人の黒鉄門の前で仁王立ちしてやれ! 鉄壁の守りで、鼠一匹たりとも通すなよ!)
よし、これで守りの布陣は整った!
(塔の守りはこれでいい。次は……森の布陣だ!)
俺は思考を外へ向ける。
防衛部隊以外の動ける戦力……遊撃部隊をフル活用し、森そのものを武器にしてやる!
(ウルフ! 狩猟部隊は森を駆け巡れ! 機動力を活かして、敵の側面や背後から奇襲をかけるんだ! 決して足は止めるな、一撃離脱で敵を徹底的に攪乱しろ!)
(ヴァンパイアバット! お前たちは上空から「目」になれ! 敵の数、位置、装備……全ての情報を味方に共有しろ!)
(そしてジェネラル! お前はレンジャー部隊を率いて、木陰から矢を射かけろ! 罠に掛かった奴、孤立した奴から各個撃破だ!)
(デストロイヤー! お前は遊撃部隊の切り札だ! ジェネラルの合図で突っ込み、敵の陣形ごと恐怖で粉砕してやれ!)
(行け! 塔にたどり着く前に、奴らの心をへし折ってやるんだ!全軍、配置につけ! 迎撃開始だ!)
俺の意思が[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラルに伝播する。 刹那、塔の前に仁王立ちしていた総司令官が、深紅のマントを翻して[将軍の魔剣]を天に突き上げた。
「グルァァァァァァッ!!(主の御命令だ!全員、動けっ!)」
ビリビリと大気を震わせる[軍団指揮]の咆哮。 それが合図だった。
ズズズズズ……ッ!
静止していた魔物の群れが一つの巨大な生き物のように一斉に動き出した。
そこには一切の混乱も躊躇もない。あるのは絶対的な規律と俺への忠誠のみ。
「キィッ!」
[N]ゴブリン・レンジャーたちが緑のマントを翻し、ジェネラルに付き従う。
彼らは主力として、冒険者たちを正面から撃破することになる。
「ワオォォン!!」
続いて[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ率いる狼の群れが、銀色の疾風となって大地を蹴った。
[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちがその後に続き、風のように森の奥へと消えていく。
「ブモォォォ!!」
「(ゴゴゴゴ……!)」
重量級の[N]ミノタウロスや[N]ゴーレム、そして[N]リザードマンたちは地響きを立てながら塔の入り口──[R]巨人の黒鉄門の奥へと退避し、防衛陣形を構築し始める。
空を見上げれば[N]ヴァンパイアバット率いる航空部隊が黒い雲のように展開し、全方位の索敵を開始した。
(主力だけじゃない。塔を支える全ての魔物が、俺の意志に応えて動いてる!)
俺は意識をさらに細部へと巡らせる。
そこには英雄たちの陰で蠢く、おびただしい数の配下たちの姿があった。
「プヨッ! プヨヨッ!(総員、退避ー! 急げー!)」
森の浅瀬では[N]セージ・スライムが青い体を激しく波打たせ、作業中の[C]スライムたちを誘導している。
苔や泥を運んでいたスライムたちは、のんびりとした動きを一変させ、弾むような動きで一列になり、塔の入り口へと雪崩れ込んでいく。
「キャン!(道具をしまえ!)」
「ワオーン!(戦闘準備だ!)」
[N]コボルト・マイナー率いる採掘部隊もツルハシを背負い直し、俊敏な動作で撤収を開始した。
彼らはただ逃げるだけではない。通りがかりに[簡易トラップ]を設置し、敵を誘い込む準備を整えていく職人芸を見せている。
そして、戦闘要員たちも負けてはいない。
「キチチチ……」
下草の陰では[N]アント・ソルジャーたちが大顎をカチカチと鳴らしながら地面に穴を掘って身を潜め始めた。
土の色と同化した彼らは近づく獲物の足を、地中から食い千切るための生きたトラップと化す。
「シュルルル……」
頭上を見上げれば[N]アシッド・センチピードと[UC]スパイダー部隊が、不気味な音を立てて巨木を登っていく。
鬱蒼とした枝葉の裏に張り付き、真下を通る人間に酸と粘着糸の雨を降らせる絶好の射撃位置を確保したようだ。
「キヒヒヒッ!!」
空には[N]ヴァンパイアバットに混じって、[N]ハーピーが鋭い鉤爪を光らせながら旋回している。
彼女の甲高い叫び声は敵の注意を空へ引きつけ、地上の伏兵から目を逸らさせるための陽動だ。
(すごい……壮観だ)
地を這う者、空を舞う者、影に潜む者。
種族も生態もバラバラな魔物たちが、たった一つの目的──「敵の排除」のために、歯車のように噛み合って機能している。
これが俺のダンジョン……これが、俺の軍団……。
「ワタシも……タタカウ!」
すぐ横でベルの決意に満ちた声が響く。
俺の命令が彼女の本能を揺さぶったのか、それともジェネラルの[軍団指揮]が[R]ランクの妖精にも届いたのか。
ベルは小さな決意を瞳に宿すと羽を激しく羽ばたかせ、砲弾のように窓から飛び立っていった。
「ベルちゃん……!?」
リナが慌てて窓辺に駆け寄るが、光の粒子を撒き散らして飛んでいく親友の背中はもう戦場へと向かっていた。
リナは悲しげに眉を寄せ、窓の外を見つめていたが……やがて、ゆっくりと振り返り俺の本体である石のそばへと歩み寄ってきた。
そしてその場に膝をつき、[UC]乙女の聖杖を胸に抱いて祈りを捧げる。
「神様……どうか、みんなを……守って……」
震える声。華奢な肩。 外では今まさに、血で血を洗う殺し合いが始まろうとしている。
だが、この部屋だけは静寂に包まれていた。
その姿を見て俺は改めて心に誓った。
俺はこの塔の主であり、魔物たちの王だ。
だが、それ以前に──。
(──彼女だけは。この子だけは、何があっても守り抜かなければ)
俺の決意に応えるように、石の身体が静かに力強く明滅した。
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 16階建て + 屋上
DP: 1,600 訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R] ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R] ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R] オーク・デストロイヤー (Lv.15)
防衛部隊長: [R] スケルトン・バウォーク (Lv.15)
偵察部隊長: [N] ヴァンパイアバット (Lv.8)
遊撃・伝令: [R] ベル (Lv.1)
(他、多数)
侵入者: 襲来中!(数不明)
その他: 全軍、迎撃態勢完了。
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※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
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