惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア

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第四章 偏食の騎士と魔女への道

27.メロンパンに集中

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 バターに卵、たっぷりの砂糖。
 ふるった小麦粉を混ぜて生地をひとまとめにしていく。

 黄色くて甘い匂いのする生地は、それだけでうっとりするような思い出を頭に浮かべさせる。

 ローザさんは手際良くクッキーの生地を作り、ふう、と短く息を吐いた。

「普通のクッキーならこんな感じね。どう?」
「手際良いなぁ……ローザさんはよくお菓子作りとかするんですか?」
「しないわよ。うちで扱う小麦粉が何を作るのに向いてるか確認するために作ることはあるけど」

 なんとなく美人はお菓子作りとか料理とかそういう家庭的な趣味を持っているんじゃなかろうかと思ったが、ローザさんが手際良くクッキーを作れる理由は仕事のためらしい。
 リックの許嫁というよりはやり手の営業マンという趣である。

 そして彼女はやはり、昨夜リックと話しながら泣いていたのが嘘のようにさっぱりしている。

「……り、リックのために作ったりとか、しないんですか?」

 俺はなんとなく気になって言ってみたが、ローザさんはきょとんとした。

「え? 私が? なんのために?」
「いや、なんかこう……喜ばせたい、的な?」
「リッキーってそんなに甘いものが好きだったかしら。食べたいって言われたら作るけど」

 ローザさんがいかにも興味がなさそうに言うので俺は内心少し拍子抜けした。

 ミーティの前では張り合うようなことばかり言っていたのに。そしてリックの前では結婚してほしいと涙ながらに語っていたのに。
 そもそも色恋沙汰に疎い俺が考える男女のあれこれが普通とずれているのかもしれない。

「そ、そうなんですね……」
「あなたは女の子にクッキーを作ってほしいの?」
「……まあ、貰ったら嬉しいですけど」
「ふうん。ウブなのね」

 ローザさんの言葉に恥ずかしくなった俺はもう何も言わずに下を向くしかなかった。

「おはようございます。遅くなってすみません」
「おはようリッキー。よく眠れた? 急にミーティと寝ることになっちゃって狭かったでしょ」

 ちょうど工房に入ってきたリックは俺とローザさんを交互に見て、目を丸くした。

「それは大丈夫だけど……驚いた、もうクッキーを作ったんですか?」
「ああ、ローザさんが教えてくれたんだ。これならもうそのままパン生地に乗せて焼けそうな完璧な生地だよ」

 俺は二人の結婚の話はひとまず頭の中から追い出して言った。

 今はこの完璧なクッキー生地を早くパンに乗せて焼いてみた方が良い。
 俺はパン以外では何もかも門外漢だ。

「レイ、それで焼くのは良いが窯はどうするんだ? クッキーとパンとじゃ焼き方も違うだろ」
「バゲットを焼く窯じゃ熱すぎるわよ。生地が焦げちゃう」

 エルダさんとローザさんが口々に言う。
 俺は目を閉じて記憶の中のメロンパンの作り方を思い出してみた。

 メロンパンのパン生地が一気に膨らみすぎると上のクッキー部分は膨張に追い付かず割れてしまう。だから、温度は高すぎないようにして、焦げ目も付かないように低めの温度でじっくり焼いた方が良かったはずだ。

「……エルダさん、メロンパンは少し低めの温度で長く焼いてください。あとはもう、エルダさんの感覚にお任せします」

 詳細な焼き加減については結局またエルダさんの腕頼みになってしまうので、俺は苦笑するしかなかった。
 エルダさんは顔を顰めたが、なんだかんだいつでも対応できてしまう人だ。

「ったく、またそれか。そのパンが上手くできたらおまえも少しは窯の扱いを覚えろよ?」
「もちろんです! 俺もいつかはエルダさんみたいに自分で窯の具合が読めるように頑張ります」

 俺は作業台にぶつけそうなほど勢いよく頭を下げて宣言した。
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