惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア

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第四章 偏食の騎士と魔女への道

49.レモンシュガー

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「それでレモンをお砂糖と混ぜるの?」

 さっそくレモンの皮を削っている俺の手元を覗き込みながらミーティが尋ねた。

「そう。このレモンの皮と砂糖を混ぜて乾燥させると、レモンシュガーの出来上がり」
「お砂糖が黄色くなって可愛いわ」
「クッキーだけじゃなくてこの砂糖を使ってレモン風味を強くすることにしたんだ。さっぱりすっきりして美味しくなるといいけど」
「紅茶の方は美味しくしないの?」

 ミーティが無邪気に言ったので、俺は思わず苦笑する。

「あはは……あれ、そんなに美味しくなかった?」
「だって苦いんだもの。お砂糖で甘いのに苦くて、なんていうか……もったいないって感じ」
「だよね……それで新しい紅茶を使うことにしたんだよ。この瓶に入ってるよ、ちょっと匂いを嗅いでごらん」

 俺はショーン曹長から貰った紅茶をミーティに渡した。

「ふぅん……んー……良い匂いだけどそんなに特別な紅茶なの? 見た目も普通に見えるわ」

 ミーティの見る目はやはり確かだ。この紅茶が特別高いものではないことを見抜いている。

「実は最初の紅茶メロンパンで使ったものより安いやつなんだよ。クッキーに入れるにはこっちの方が良さそうだって聞いて、こっちで試すことにしたんだ」
「高ければ良いってわけじゃないのね。なんだか勉強になるわ、値段とか名前とかだけ見て買っちゃいけないってこと」
「……まあ、そうだね。俺も反省したよ、最初のやつは高い方が良い味が出るだろうと思って買っちゃったから」

 腕を組んで頷いたミーティの言葉は俺の腹にすとんと落ちる。
 本当に良いものを作ろうとするためには名前や値段ではなく、本質を見極める目を養わなければならないのだ。

「でも飲んだら美味しい紅茶なんでしょ? 別に間違いじゃないわよ、誰も作ったことのないパンなんだから、最初から正解がわかったら苦労しないわ」

 ミーティは俺の正面に座ると、頬杖をついてにっこりと笑った。

 慰められている、と見せかけて、黄色く色付いたレモンシュガーの味見を狙っている顔だ。

「もう……このあと乾燥させなきゃ完成じゃないんだよ。味見したいの?」
「してあげても良いわ。甘いものならエルダやリッキーよりあたしの方がよくわかってると思うの」

 一理ある。
 というよりその言い方が可愛らしいので、俺は混ぜたばかりでまだしっとりした砂糖をスプーン一杯、ミーティの手のひらに乗せた。

「お星さまのお砂糖みたい! キラキラしてる!」

 きゃあっと叫んだミーティは砂糖を一口で食べると、頬を押さえてうっとりと目を細めた。

「美味しい?」
「レモンの味もするけど甘くて美味しい……これなら完璧ね、これだけで売っても良いくらいよ」
「ありがとう。じゃ、工房に行ってくるよ」

 ミーティのお墨付きを貰って一安心の俺は砂糖の乾燥のために工房に向かった。



「エルダさん、お疲れ様です」 
「おう、お疲れさん。その様子だとまだまだ改善が必要みたいだな」

 エルダさんは俺の手元を見て笑った。

「正解です。岩塩のはあれで良さそうなんですが、紅茶とレモンはまだまだですね。これはレモン用に使う砂糖です、ザラメの方にレモンを混ぜることにしました」
「なるほどな……紅茶は銘柄から変更か」
「はい。早く作らないと討伐遠征の予定もそう延ばしてられませんし……討伐が遅くなればなるほど、魔物で困る人が増えちゃうってことですからね」

 レモンシュガーが乾燥しやすいように鉄板に広げながら言うと、エルダさんはもう一度俺を見て笑った。

「……そうだな。おまえもなかなか、覚悟が決まってきたじゃないか」
「……あり、ありがとうございます」

 俺はなんだかむず痒い気持ちになり、慌ててレモンシュガーをひとつまみ口に含んだ。
 レモンシュガーの甘酸っぱい味が広がったのは、口の中だけではないのだった。
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