悪魔とダラダラ異世界道中

灯籠

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第48話

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 ネシディー園の全体像を見た俺達は、そこで初めてそのスケールを把握した。こう表現すると元も子もない感じがするが、本家より小さい。なんというか、広大な敷地、って感じがしない。なにせ、城は生い茂る森に囲まれていたからだ。

 しかし、それをもってしても余りあるほどのものがあった。空に浮かぶ建物や謎の物体、そしてデリン・セラ城を守るようにして存在している謎の門。

 見てみると、門の内側は大きな渦がグルグルと回っていて、門ごとに渦の色が違っていた。多分、どこかにつながっているのだろう。そう信じたい。てか、そうじゃなかったら怖い。

 とにかく謎の門はよく分からないが、昔ながらの城とその周囲に浮かぶ古風な建物が作り出す雰囲気は、少々の不気味さとファンタジーさをうまい具合に織りなしていて、思わず心を奪われてしまった。

 いや、心を奪われた理由はそれだけじゃない。

 「どうしたのよ、急に立ち止まって?」

 近くで見て確信した。この城、一緒だわ。何から何まで一緒だわ。鬼や蛇よりも怖いヤツが出るパターンだわ。

 「・・・いや、何でもない。行こうか。」

 もはや、とことんやってこい、という感じで開き直っていた。



 ネシディー園の入口の手前に着いた俺達は、一つの問題を抱えていることに気がついた。

 「えぇ!?アンタ達、お金ないの?」

 「何言ってんだ、たくさんあるぜ。頭に横線が一本入るけどな。」

 「借金があるってこと、そんな堂々とした態度で言うことじゃないと思うんだけど・・・。」

 そう、夢とトレードオフの関係にあるもの、お金を持っていないのだ。そういうわけで、俺達はネシディー園に入れずに足を止めていた。

 「昨日の宿の件から違和感を感じていたけれど、そういうことだったのね・・・。ていうか、なんでこんなことを私に教えなかったのよ?」

 ちなみに昨日の宿の件というのは、昨日の宿代をクリプッセンに支払ってもらったというものだ。

 「いやあ、聞かれなかったからな。」

 「これが私の護衛なんて。・・・ハァ。」

 そうつぶやいてため息を漏らすと、クリプッセンは俺達の方を向いて、

 「仕方ないわね。ついてきなさい。」

 と言ってきた。俺とイーギはついて行くほかなかった。



 エントランスに着くと、ネシディー園の前に光の壁が立ちふさがっていた。大した高さではないが、驚いたのはそこではなく、ネシディー園に向かう人々がその光の壁の中に入って消えていったことだ。

 するとクリプッセンがそのまま光の壁の中に入っていったので、一回呼吸を整えてから後に続いてその光の壁の中に入っていくと、そこにはクリプッセンと受付の関係者らしき人がいた。

 「話は済ませたわ。さ、行きましょ。」

 そう言うと、クリプッセンは俺達を置いていくように先に進んでいった。するとクリプッセンの姿がまた消えていったので、俺は少し焦りながらクリプッセンの後を追った。関係者らしき人は俺達に向かって頭を下げていた。

 少し進むと突然辺りがまぶしくなり、俺は思わず目を閉じた。次に目を開けた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは遠くで見たあの壮大な城だった。

 「うお、すげえぇ・・・。」

 感動を覚えるほかなかった。否が応でも興奮してしまう。近くで見てみると、こうも印象が変わるものなのか。

 「ここまで予想通りのリアクションをしてもらうと、こっちも嬉しくなるものだわ。」

 その声が聞こえた方を振り向くと、クリプッセンが腕を組んで、自慢げな顔をしてこちらを見ていた。

 「ほら、ついてきなさい。楽しみまくるわよ!」

 そう言うと、クリプッセンは俺の腕をつかんで引っ張りだした。



 クリプッセンに引っ張られた先は、近くで見たあの妙にデカい門だった。しかも、門の中で回っているのは、黒い渦だ。怖すぎる。これ、地獄にでもつながってるんじゃねーのか?

 そう思っていると、急にクリプッセンが立ち止まり、俺の背中に回り込んで、

 「ねえ、シイマ。ちょっとやってみたいことがあるの。」

 と言い出した。

 「何がしたいんだ?」

 「ちょっとしたごっこ遊びよ。私が姫で、アンタが私の騎士。そして、あの扉が私たちの敵。アンタは私のセリフにカッコよく返して、あの扉に向かっていきなさい。」

 「えぇ?なんだよそれ。てか、お前が姫の役ってそのままじゃねーか。」

 「いいのよ。私、ヒロインを演じてみたかったのよ。それに、こんなバカバカしいこと、誰も付き合ってくれなかったから、ね?ほら、扉の方を向いて!よーいスタート!」

 そう言われて、俺はクリプッセンに言われるがままに寸劇に付き合うことにした。

 「・・・ねえ、シイマ。アンタ、私を守ってくれるんだよね?」

 名前そのまんまかよ!・・・まあいいや。毒を食らわば皿まで、だ。

 「当たり前だ。姫を守らない騎士が、どこにいるってんだよ。」

 「じゃあ、私が姫じゃなかったら守ってくれないの?」

 ・・・ほう。

 「それは、そうなってみないと分からないな。」

 「・・・。」

 「けど、少なくともお前が姫だったおかげで、お前は俺と出会って、俺はこうやってお前を守ることができてるんだ。違うか?」

 「そ、それは・・・!」

 「だからお前は安心して、俺に守られていろ。」

 そう言って、俺は門に飛び込んでいった。



 「・・・なぁ、姫様よぉ。俺の役は?」

 「・・・あっ。」
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