人の心、クズ知らず。

木樫

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第九話 サキと夢。

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 プロポーズに等しい気分。
 結婚首輪、いいね。怖がりだろ? わかるよ。鎖をつけて安心させてあげる。

 だってほら、絶対に離さないために目に見えてわかるように縛るってのも普通の愛だから、俺はちゃんとそうすんの。


「ンッ……!」

「ふ、ごめんな、タツキ。一生許さねーでいいから、俺のこと」

「っあ、ヤダ、許す、怒ってねェの、謝ンないでっ……オレ嬉しィっ……咲の恋人になれて、ぜんぶ嬉しいンだぜっ……うぅ、好き、大好き、大大大好きだっ咲ぃ……っ」

「うん、ごめん。俺も大好き、愛してるよ。ごめん。愛してる。ごめんな。タツキをタツキにしてごめんね、ごめんね」


 何度かキスをしながら、俺の首に腕を回してしがみつくタツキに謝り続ける。

 こんなタツキに、俺がしたんだよ。
 タツキのスタンスが不思議で頭ぐちゃぐちゃして、タツキの真っ白なところを弄りすぎた。だからごめん。

 タツキは恋人が自分だけじゃないことを気にしていない。
 そういうクソみてぇなことを泣くこともなく告げる俺に、怒ることもない。

 最低最悪な不幸の権化である俺に、なんの罰も与えず、俺の恋人なんてビタ一文の価値もない名前を得て喜んでいる。

 カワイソウなタツキ。
 哀れなタツキ。

 謝ってみるけどどうしようもないんだから、謝るだけ無駄なことだ。

 それでも謝る。
 で、それでもタツキを離さない。

 そういう俺の縦横無尽なワガママ、ワルさのせいで俺なんかをそばに置くことになっちゃって、残念無念ってやつだよなぁ。


「うひ、さぁき、ちびっと違うゼ」

「あ?」


 独り言に近いトーンでボヤくと、それを律儀に聞き取ったタツキは酷い顔色のくせに、ニマニマと無邪気に笑って俺の首筋に擦りついた。


「オレは俺だった時からこうだったケド、道行く誰かに興味、なかったんだ」

「へぇ」

「ただうっかりその矛先に咲がピッタリハマっちまったから、カワイソウなのは、咲のほうだよなァ……」

「うん。んー……どゆこと?」

「エット、オレはお前がいないと死んじゃう。そういうオレを愛しちゃった咲だから、オレが死んじゃうと困って、殺してもらうこともできなくなっちまったンだろ……?」

「なるほど。うんうん、わかった」

「だいすき、さき」

「うん。大好き、タツキ」


 タツキ曰くのカワイソウ論。

 それを理解した上で問いかけるタツキに頷き、タツキの大好きに同じ言葉を返すと、タツキは満開のヒマワリが咲くように笑った。

 俺の大好きは、わかっていながらタツキへの恋をやめられないという意思表示。
 タツキもちゃんと、わかってんじゃん。

 ──タツキは俺がわからない。

 けれどわからないまま俺の全て是とする狂信者で、マトモな人間なのに、マトモの中じゃあちょっと変わった人間である。

 だからかもしれない。

 感情が、心があったかどうか。
 相手が一人か、そうじゃないか。
 相手のために愛することを曲げられるか、そうじゃないか。
 他にもたくさん、いろいろ。

 そういう細々した違いを置くと、俺とタツキはたぶん、少しは似ているだろう。

 上等な心があって、うっかり俺だけに恋をしてしまい、相手のためでも自分の恋を絶対に曲げない頑固なタツキは、俺の何倍も何百倍も諦めの悪い男と言える。

 つまり、そんなタツキは──


「だいすきなオレに生きてて欲しかったら、咲はず~っと、俺と生きねェとな?」


 ──俺の飼い主。

 タツキの首輪につながる鎖を握るはずの俺の手だって、タツキの首輪に拘束されているということなのだ。

 そんじゃ、きばって生きなきゃね。
 俺が世話しないと生きていけない、カワイイカワイイ子猫のために。


「あはっ、最高かよ」


 ──心の欠片の四番目。
 音待蛇月の喉仏に歯型をつける。

 俺の〝愛玩〟はタツキ由来のものだから、ナニかをかわいがる、愛護するというその感情ごと、飼って飼われて、そういう生涯を送ったって構わない。

 せいぜい命を燃やして守るよ、タツキ。

 ──さて。
 あとは、最後のひとかけら。

 俺の〝哀切〟を、迎えに行こう。




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