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甘話 ハルとデート。
06(side春木)※
しおりを挟む子どもに甘い咲だけど子どもを愛しているわけじゃないと理解している俺だから、この見解は絶対正解。
じゃあ、譲れねぇよ。
もうちっとも譲れねぇよ。
「スイッチ入ってんね」
「っ……だって……だって……」
「だって?」
「だって、もう譲るのは嫌だっ……もうお前を他人に譲るのは嫌だぁ……っ!」
「んー……?」
どうせよくわかってねーくせに、咲がコツンと額を当てて俺のイッた目の中を覗き込むから、止まらなくなった。
「あぁ嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ」
「ん、ん。よしよし。ハルちゃんよしよし」
「俺は愛してるんだよ、愛してる、咲、咲、愛してる、ヤベぇくらい愛してる、愛してる、死んでくれよもう、俺の腕の中で死んでくれ、繋がったまま死んでくれ、それができねぇならお前の血は俺できっちり絶せよ、咲、愛してんだ」
「ん、俺も愛してるぜ。俺の遺伝子はここでシューリョー。でも、ハルが俺じゃない人と結婚して俺ともう二度とセックスしてくんなくても、俺はいいんだよなぁ」
「はっ、それこそ無駄な心配だね。俺は無理。俺が無理。全然無理。断固無理。咲に抱かれねぇ世界をもう見れねぇ。他人の肉じゃ酔ぇねぇの。ほら愛してる。咲、愛してんだよ。俺のほうが悲惨に脆弱に愛してる」
「それはハルもおんなじ。無駄な心配。俺、そもそも譲られたくないけど」
わかってる。
でももう友達には戻れねぇんだよ。
咲と繋がる熱を覚えてしまったら離れられないのに、俺から奪うなんて実の子どもでも許せそうにない。
だからそんな未来を俺に迂闊に示唆した咲に、俺の愛を殺意を込めて解らせてやりたくなったのだ。
「ハルが俺を誰かに譲りたいなら別だけどさ。素直に嫁ぐ。ただまぁ……俺は世界とコトバが通じなくなるぜ」
「うるせぇよ。それでも離れねぇバカが四人もいるんだ。バカな俺は四人ぶんもお前を譲ってんだ」
だから意地の悪いことを言った。
咲が一番嫌がることだ。
それだけ愛してるって言うくせに、俺以外が四人いる。
いいよと言ったのは俺だ。死にそうな忍耐で譲ってる。
俺が一番お前の言葉を解ってて、お前もそうだって理解してるくせに、お前の言葉がわからないアホどもを、お前は俺と同じように愛してんだろ?
ハルキは我慢が大嫌い。
それをよくわかっている咲が、俺にわざわざ言われた嫌味に、なにも返せないって知ってんだよ。地獄絵図。
だけど咲は俺に文句を言うこともせず、一番言われたくないことだろうが、俺の言葉だから心底許容する。
そして俺は、一番許せない咲の共有を、咲の望みだから心底許容する。
お互いに目を合わせながら──チュ、と自然な流れでキスをした。
ふ、喧嘩じゃねぇの。
実はこれ、いつものこと。
咲は本気だけどな?
俺は結構バグるから、そんな俺と友達だとしても平然と付き合ってこれたのは咲だけだ。
俺だけが咲を自然に理解できるということは、咲だけが俺を自然に理解できたということなのだ。
出会った時から、咲は俺の特別なんだよ。
「ま、ハルが俺にイイって言う時、それはマジでイイって知ってるのよね。ハルちゃんは賢いから、一番自分が愛してるって思ってんのな」
「正解。で、俺が理解できるお前の言葉を聞かねーとか許せねぇ。頼まれても嫌だね。ってこと、お前わかってんだろ?」
まだ中に入ってるってのに、チュ、チュ、とキスをしながらトークタイム。
こんな特等席、譲れねーっての。
汗の一滴から吐息の揺らぎまで、余すところなく咲の全てが俺の欲を抉る。
咲、咲、咲咲咲咲咲咲咲咲咲咲。
咲野。咲。俺の片割れ。俺の半身。俺自身であり、俺の全てでもある俺の心臓。俺の心、それそのもの。
それらを全て伝えると、咲は相変わらずよくわかっていないくせに──俺の一番欲しい言葉を、簡単に与えた。
「ワオ。ハルって、俺とひっつくために生まれてきたみたいだね」
──だからこんなに離れたくねーの?
俺が一番お前をわかるように、俺を一番わかってくれんのはお前なんだよ。
愛してるぜ、咲。
了
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