8 / 30
融解コンプレックス(1)
08
しおりを挟む◇ ◇ ◇
「湯呑落とすなよぉ。風呂沸かしてるからあとで入るんやで」
「……いっしょに」
「溶けるわ」
ペシッ! と頭を叩くと、毛布にくるまって湯呑を持つ直はキューンと残念そうに鳴く。そんな顔をしてもだめだ。
湯に浸かったら物理的に溶けてしまい一瞬で幼児サイズになってしまうだろう。
それ以上にはなったことがないのでわからないが、消えてしまうと流石に困る。
ファンヒータのそばのソファーに腰掛ける直から離れた座椅子に座り、雪は口をへの字にして赤い頬を誤魔化す。
──小一時間ほど、前。
この口下手で甘えたな幼馴染みに、寒々しい外で抱きしめられながら告白された。
センチメンタルになってしまう日に胸に痛い光景を目にしてしまい落ち込んでいた時に、友人二人と幼馴染みの愛情コンボ。
限界を迎えた雪が「死んでしまうから今言わんといてって言ったやんかぁ~……ッ!」と泣き出しても、仕方がないと思うのである。
泣き出した雪に驚いた直が雪を解放し、その直へと振り返ってポカポカと直の胸を叩いて八つ当たる。
傍目にはわからないが、直はオロオロとして攻撃を受けていた。
わかっている。理不尽なのは自分だ。ぐうの音も出ない。面目不甲斐なし。
そうして弱々しく連打したあと。
雪は困惑する直を泣きながら紺露家の中へ引っ張り込み、ぐす、ずび、と潤んだ瞳で鼻水をすすりつつ甲斐甲斐しく世話を焼いて、今に至る。
直の両親が不在でよかった。
どうにか泣き止んだ現在の雪は、いつもどおりのぼーっとした様子で緑茶をすすっている直を盗み見る。
──返事を返す前に泣いてしまったが、聞き間違いでなければ、自分は愛の告白をされたと思うのだ。
相手はずっとただの手のかかる幼馴染みとして接していた男、紺露 直。
まさか恋愛対象として考えたことなんてないわけで、雪は複雑な胸の内に食あたりのような曇りを感じていた。
今の自分が直に恋をしているのかと言うと、よくわからない、だ。
愛しているか? ──幼馴染みとして。
付き合うのか? ──付き合いたい。
それはどうして?
「……ナオ」
「ん……?」
小さな声で呼びかけると、直は聞き漏らすことなくすぐに反応して、まっすぐな目で雪をじっと見つめた。
その視線に胸の痛みが増す。
逸らしてしまいたかったが自分を叱咤して、雪も正面から彼を見つめ返した。
「お……お前、俺のこと、そういう意味で好きなんやんな」
「うん、愛してる」
「そか、うん。ってことは俺の恋人として、つ、付き合おうとか、思ってるんか?」
「うん、そやで。俺はユキの恋人になりたい。俺はユキを溶かさへんもん。今までのユキの恋人が羨ましくてしゃなかったけど、冷凍庫もらうまでは我慢したんよ」
「それは別にいらん」
「そか」
雪が泣いたものだから涙を引っ込めた直は、もうすっかりお馴染みの無表情だ。
けれど吐き出す言葉はこれまで聞いたことのないような甘さを含み、嘘偽りなく想いのままをぶつけてくる。口数も多い。
こうまでハッキリと愛されたことがなくて、雪の頬は赤みを増し、顔は一回り小さくなった気がした。
もともとの体温が低いので、流石に照れてもそこまで溶けはしないが。
ただ、ストレートな好意が嬉しくて、胸がドキドキと騒がしい。
しかしこれは、恋ではないのだろう。
ズルい自分をわかっているので、ゴクリとつばを飲み込む。
大切な幼馴染みのまっすぐな告白には、自分も心をさらけ出さなければいけない。
「そやったら俺は……つ、付き合っても、ええと思ったんや」
「! ほんまに……?」
「でも! でもそれは、むっちゃずっこいことで……」
「ずっこい?」
「うん。俺はナオが好きになったわけじゃなくて……ナオをフったら離れていくんが、俺を好きじゃなくなるんが嫌やから……そやったら俺もナオを好きになるかもしれん可能性にかけて、引きとめようとしてるんや」
「…………」
目を合わせていられなくて、ぎゅっと目をつぶって情けない声で吐露した。
恋人ならば恋しい相手である。
だけど今の雪は、直に恋をできるかどうかわからない。付き合いたいが保証がないのですぐには返事を返せない。
でももし、告白を断ったせいで直が離れていったら嫌だ。
返事をする前に直が他の誰かに恋をして、雪への愛してるを忘れるのも嫌だ。
だからとりあえず付き合いたい。
そんな意気地なしでズルい自分。
最低のクズ。
13
あなたにおすすめの小説
泣き虫少年とおこりんぼう君
春密まつり
BL
「オレ、お前のことキライ……に、なりたい」
陸上部で活躍する陸と、放送部からグラウンドを眺める真広は、小さい頃から一緒にいる。
いつからか真広は陸に対して幼馴染以上の感情を抱くようになっていた。
叶うはずのない恋を諦めなければいけないというのに傍には居たいので突き放すことができないままだ。
今日も放課後の放送室で二人話をしていたが、女の子が真広に会いに訪れて不穏な空気になってしまう。
諦めたくても諦められない、意地っ張りの恋の行方は――。
▼過去に発行した同人誌の増補版です。
全17話を11月末までにはすべてUP予定です。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる