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三章 勇者と偽勇者と恩人勇者。
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しおりを挟む「…………って」
「うん?」
不貞腐れたような語気だ。
それにか細すぎて内容が聞こえにくい。声がかすれているのもあるだろう。
聞き返すと、アゼルはバツが悪そうにしばし悩ましく唸ってから、もう一度少し大きめの声で言い直す。
「……ま、魔王城で匿ってもいいって言って……」
「! なるほど、その手があったな。リューオ、城主のアゼルは魔王城に匿ってもいいそうだ。一緒に帰ろう」
「もおおおおおこの魔王なんなんだよ思春期の中学生かよッ! そんでお前はオカンかよッ! コイツ魔王モードじゃねぇと喋れねえのかコミュ障がッ! 殺し合いした仲だぞこちとらァッ! 今更テメェがツンデレポンコツ駄犬野郎とかバレてもどうでもいいわッ! よろしくお願いしますッ!」
リューオはキレながらバタバタと暴れてから、すぐにガッと俺の手を掴んでこれからよろしくと握手をした。
文句は言いたいがアゼルの申し出はありがたい。しかしアゼルと握手するのは嫌なので俺と握手。複雑なリューオ心だな。
ちなみに俺の手を握っていたリューオの手は、コンマでアゼルに弾かれた。
意地を張って俺の手を何度も狙うリューオだが全て叩き落され、剣の柄を掴みプルプルと震えている。殺意はいけない。聖剣で握手だけはやめてくれ。
そういえばこの聖剣は勇者専用武器であり、魔族・魔王特効である。
聖剣を持ったまま魔界にいるならその間は勇者は来ないと思うので、ちゃんと双方に理があった。
聖剣抜きで人間が魔王とやり合うのは難しいし、勇者が帰らなければ扱えるものがしばらくはいないと思う。
しかも召喚が効率化されたわけじゃなく元々異世界人が二人いただけで、勇者チートな上に鍛えたせいで異常に強い人間詐欺男は、リューオだけだ。
俺は凡人が死に物狂いで鍛えただけである。前職の都合上、魔物を相手にしていた冒険者のリューオより、対人戦なら俺のほうが強いかもしれないが。
閑話休題。
パチパチと燃える薪に燃料を足しながら、俺は自分を抱きしめる温かい体に安心しきって、くたりと背を預ける。
「うん、俺の居場所はここだな。本物の俺のものだ。もう誰にも渡せない」
「っ、あ、あんま可愛いこと言うんじゃねぇ。いろいろマズイだろうが」
「……リア充爆発しねェかな……」
凶悪な視線を送るリューオがなにか呟いたが、幸せを噛み締めて浸る俺の耳には入らなかった。
アゼルが俺の首筋にキスをする。
そのまま額を擦りつけて「俺だってもう、誰にも渡さねぇよ」と囁かれた。それが嬉しくて、くすぐったくて、笑ってしまう。
だめだな。なんの心配も湧いてこない。
今ならなんだってできる気がする。
世界中探したって、遠い遠いこんな森の中まで俺を探して走り続ける男はいない。
バカみたいに怯えて塞ぎ込んで耳を塞いだ俺に、あんなに真摯な告白をしてくれる男なんていない。
「愛してる」
「……俺も」
首をひねると、唇が重なる。
俺が誰だとかお前しかいなかったからだとか、やっぱり関係ないんだ。
理由があるから好きなのではなく、好きだから理由が生まれる。
これはきっと、剥き出しの俺たちが共に生きるためのプロセス。
ずいぶん遠回りしたけれど、ここが……お前の腕の中が、俺だけの牢獄だ。
「ここでおっぱじめたら叩き切るからな」
「うッ、いやまさか」
「えっ」
「えっ?」
──勇者と魔王と偽勇者。
ちぐはぐな三人の野宿は、お互いに戦々恐々とした気の抜けない夜となった。
いやなぜかと言うと、一晩中そわそわと我慢ならない様子で手を出す気満々だったんだ。俺の恋人が。
それを抱き締められたまま横になりつつもどうにか阻止する俺と「まさかヤらねぇよな? カップルの横で寝るソロ男の気持ち考えろよ? わかってんなコラ」と眼光鋭く危惧するリューオの震える夜。
俺たち史上最大級の困難だったにも関わらず、綺麗にオチがつきやしない。
そんなところと俺たちらしくていいじゃないかと、笑って眠った。
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