本日のディナーは勇者さんです。

木樫

文字の大きさ
798 / 901
序話 またきてしかくい精霊王

03

しおりを挟む


 一応おままごとの時は俺がお父さんで、アゼルがパパではある。

 夜の役割分担では決めていない。
 それだとママになってしまうからな。お産の記憶はないぞ。

 ただ俺にお産の記憶はなくとも、毎日食事や入浴の介助、文字や常識、雑学の教師をしている記憶はある。

 育ての親となった俺としては、当然の心持ちだった。
 わしが育てたと言うアレだ。

 おっと。
 閑話休題だな。

 こんな呑気な思考をしながら大量のクッキーを作れるのか? とお思いのお嬢さん。

 俺は魔法使いだから大丈夫だ。
 チンカラホイと魔法をかける。

「ん、ん、ん~」

 鼻歌交じりにトトトトトト……、とテンポよく型を抜き、ベムッ、と余った生地をまとめて、のびーんと伸ばす。

 そして再度トトトトトト、と型抜きをする。これを繰り返す。魔力操作をしているので、生地を伸ばすのも素早い。

 普通の型抜きで出る音じゃないが、これが魔王城のお菓子屋さんの型抜きだ。

 クッキーの型抜き。身体強化魔法をかけて両手でやっているので、一分あれば五十枚分抜けたりする俺だった。

 日頃の鍛錬が生きるところである。
 ふふん、立派な魔法使いだろう?

「しゃる~? まおちゃんとおんなじ顔してたよ。しゃる褒めてって顔だねっ! よしよししないとっ!」
「んっ? そうか?」

 全ての生地をクッキーに変えた俺を呼ぶ声に、キョトンと小首を傾げる。

 柵から身を乗り出したタローが声を張り、アゼルに似ていると言って、キャッキャと笑った。

「よしよし」
「よしよしっ」

 とりあえず言われたとおり、自分の頭をなでてみる。自分だとあんまり嬉しくはない。

 長く一緒にいるとお互いに似てくると言うが、俺はそんなにアゼルに似てきたのだろうか。

(そういえば、ライゼンさんがアゼルは俺に似てきたと言ったことがあったな……)

 そう思うと、似ているのかもしれない。
 考え方や癖が移ったのかも。

 それは結構、嬉しいな。
 一緒にいなくても一緒にいる気分だ。

 バタン、とオーブンに第一陣を詰め込み、手馴れた操作で稼働させる。

 時間が経つと、厨房いっぱいにメープルの甘い香りが満ちるのだ。考えただけでも幸せな瞬間である。

 内心でウキウキとしながら、待ち時間の間に洗い物を終わらせようと腕をまくった。

 すると遊び場からタローが俺の名を呼んで、手をこまねく。

 むむ。おいでおいでをされたら、行くしかないな。

 かわいらしいお誘いに、ゆるりと笑いつつ小首を傾げて近付いた。

「どうした?」
「あのね、まおちゃんどうしてつんしに来たのー? お菓子いっしょは、しない? くっきーおいしいよ~?」
「ん? ええとな、アゼルは、ちょっといつもより長い出張に行かないといけなくなった話をしに来たんだ」
「しゅっちょー?」

 どうやらタローは、アゼルが帰ってしまったのが不思議だったらしい。

 ありのまま答えると、舌っ足らずなオウム返しでキョトンとする。

 そうか。大人タイムだから聞こえていなかったな。だからこそ不意打ちの甘噛みなんて、危ういことをされたのだが。

 大人の俺でも胸キュンしたので、子どもにあれは刺激的すぎる。



しおりを挟む
感想 216

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

寝てる間に××されてる!?

しづ未
BL
どこでも寝てしまう男子高校生が寝てる間に色々な被害に遭う話です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...