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第四話 後輩たちの言い分
24(side三初)
ムカつく先輩にムカムカしていると、事務所のドアが勢いよくバンッ! と開き、中から八坂が出てきた。
「センパイ~! お待たっす!」
あーあ。全く待ってないし、戻ってこなくてよかったんだけどね。
封印されて出てこなきゃよかったのにね。もちろん冗談、だけど。
けど先輩の反応からして、八坂とは本当になにもなかったんだろうし。
虫除けも振ってあるから、あんま心配しなくてもいいか。めんどくさいし。
そう結論付けた俺は、事務所から出てきた八坂に視線を向ける。
俺にはないかわいげをたたえたアーモンドアイと視線が合った。
その目は挑戦的な鋭さをたたえ、敵対心をはっきりとぶつけてくる。
とはいえ後輩扱いしかされていないポメなんか相手にならないだろう、と興味なく視線をそらした瞬間。
「いや~俺センパイに似合う服ちゃんと選んだんですけど、やっぱ実際着てもらって決めんのがイイ気がするんすよね! なんでウェルカムトゥ事務所~!」
「あ?」
「は」
宣戦布告の声が聞こえた。
そらした視線を、元に戻す。
八坂が掴んでいるのは、考え事をしていたはずの先輩の腕だ。
八坂はその腕をグイッ、と引いて、事務所の中に素早く連れ込もうとする。
「あ、休憩の子たちは外行ったんでダイジョーブイっ! 早く早く~」
「ちょ、オイ押すなよっ、なんでもいいしわかんねぇって、ああもう、ったく」
そしてあれよあれよと連れ込まれたバカ犬の呆れた声を最後にバタンッ、とドアが閉まりきり、その向こうから、ガチャン、と鍵を閉める音がした。
閉まる瞬間、べ、と舌を出したポメが口パクで言ったこと。
『ちょっと手ぇ出しただけのお前より、オレのほうがセンパイのことわかってっから』
「ふーん……言うじゃねぇの、腹黒ポメラニアン」
無意識に伸ばしかけた手をそっと下ろして、何事も無かったかのように壁に背を預けた俺は、ニヤリと笑った。
八坂がああことを言うってことは、先輩がまたなにかの弾みでペロッと俺との出来事を話したのだろう。
でなきゃ〝ちょっと手ぇ出した〟というセリフは出てこない。
俺はたまたま後輩になっただけで、ツーマンセルなら入社時からだ。それじゃちょっとじゃなくなる。
でも、プライベートに食い込むほどなら、ちょっとと言える期間かもしれない。別に認めてねぇけど。だからそういうこと。
御割先輩は口が固い。
ただ自分のことは、気を許した相手には特に隠さずストレートに話す。
いや、言うなとは思ってないが、俺も関わる関係の話だし、先輩が言ったことを俺に教えないのは意外だな、と。
男の後輩に抱かれてるとか、そこそこ言いにくいことでもあるし。
あまり警戒していなかった。まさか、八坂に話してるとは……。
それってつまり、八坂が先輩にとって無警戒に自分のプライベートを話せるような相手だってこと、だよな?
トン、とつま先で床を叩く。
いつ話したのかね。企画が立て込んでいる間は余裕ないだろうって、外野のチャチャの可能性はあんま気にしてなかったなぁ。
休日でも仕事終わりでも、俺といない日は二人きりで出かける時間はあった。
ああムカつく。
束縛癖はないから出かけるのも行動自体もどうでもいい。
気にせずしたいことをしていればいい。俺もそうだし。報告も求めない。
俺は勝手に押しかけるから、先輩も勝手に生きていればいい。それだけで愉快だからね。御割先輩って生き物は。
誰となにしようが、止めたりしない。
今日先輩がここに行くと言うのを、昨日の俺が「アンタに気がありそうな人となんか二人きりで会わないでくださいよ」なんて言って、止めなかったように。
でも、ムカつくはムカつく。
今、そういう気分。
「はーあ。狂犬のくせに、駄犬の豆柴のくせに……あんな頬赤くしてついて行っちゃ、ダメでしょ? マジ、無防備。考え事してたからって、大人があっさり年下のチビなチャラ男に引っ張りこまれるとか、部屋に置いてある邪魔くさいダンベルは飾りなのかねぇ……躾、し直しだわ……クソ」
ボソリと悪態を吐き、腕を組んで目を閉じた。
事務所の扉を蹴破ってやりたいが、それをする権利が手元にないのがムカついて仕方ないのだ。
だってね。俺が行くの、変でしょ。
他はどうでもいいけど、先輩的に意味わかんないでしょ。
ドン引きさせてぇわけじゃねーかんね。
ほら俺って、繊細だから?
どーせこの扉を蹴破る資格も〝恋人〟くらいしか許されないってなルールがあんだよ。知らんけど。世間的に。
つか、お前なんで来たんだ? って聞かれて正直に答える理由もないし。
その理由を言う気も言われる確証もない立場で、あーだこーだとチャチャを入れるめんどくさい間男にはなりたくない。
「はぁ……つまり結構、マジデスネ……」
恋愛下手を拗らせている。
そんな自分がクソだなって話。ね。
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