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第四話 後輩たちの言い分
23(side三初)
御割先輩の首筋からあっさりと手を離し、何事もなかったかのように壁に背を預ける。
気づかれないように横目で伺うと、先輩はほのかに赤らんだ頬でなにやら複雑な表情をしていた。
ちょっと揺さぶりをかけたセリフは、なかなかの効果を発揮したようだ。
内心でほくそ笑む。
鈍感でアホな先輩でも、素肌に触って顔近づけてそれらしい言葉を言われたら、多少は意識するのだろう。でなきゃ割に合わない。
下手くそなくせに、俺のこといけ好かないやつだと思っているくせに。
なのにあぁやって気遣おうってしてくるところがさ……先輩らしーわ。
くくく、やっぱりブレねぇの。
嫌なやつ相手でもいいこちゃんやっちゃうんだから、ね。押しに弱すぎんだろ。
……まぁでも、好きとかね。
キャラじゃねぇわ。
あんな言い方でも、ちょっと自分で鳥肌が立ちそうになった。
俺は一回の好きより、百回のかわいくないのほうが簡単なタイプだかんね。
直接的な言葉を言わないと伝わらない先輩相手だと、それだと噛み合わないし進展しないに決まっている。
でも衝動的に揺さぶりをかけたくなるくらい、俺はおそらく、八坂が懐いているのが気に食わないらしいのだ。
先輩はなにもなかったと言ったが、あれは完全に普通よりも好感度が高いだろう。
俺が言うのもなんだけど、先輩は好感度が上がる要素をほぼ持ち合わせていない、タブーな先輩だ。
言い方はキツイし顔も怖いし声も低くて、基本的に唸っているような狂犬。
同じくガタイが良くてどちらかというとキツイ顔立ちの周馬先輩が後輩に慕われていることを思うと、わかりやすくとっつきにくさは最上級である。
そんなとっつきにくい先輩に懐いている、俺の知らない過去の後輩。
気に食わねえよなぁ。ね。
「ンなアホな」
隣から妙な呟きが聞こえて盗み見ると、神妙な顔をして考え込む先輩がいた。
俺が撒いた種は着々と芽吹いているみたいだが、思考回路がまたアホな方向にでもいっているのだろう。いつものことね。
そして顔を俯かせて考え込んでいる先輩は、知らないこと。
実は先輩のうなじには、今朝出かける前につけたキスマークが、くっきりとこびりついている。
セックスで体力を削り取って合法的に約束を反故にさせようとしたが、先輩のくせに保険をかけていたので、牽制がてらつけておいたのだ。
髪の短い先輩にはよく映える。
本人は絶対に気づかないが、八坂ならたぶん気づくだろう。
「……必死かよ、ってね」
自分で自分にウゲ、と舌を出した。
どんだけ独占欲出してんのかね。まだ手に入れてもない獲物のくせに。
さてさて。
どれだけ抱いてもなかなかこっちを意識してくれない先輩は、俺の威嚇でどれくらい意識してくれるのかねぇ。
ちょっとくらい、好きだって思ってること、伝わってりゃいいんだけど。
……や。だって好きとか、もうあんなのでも言いたくないし。
普通にハズいわ。
勢い余って「好き、だから跪かせて泣くまで犯したいですよ。泣いてもやめないですけど」って本音がでちゃいそう。そりゃまずい。逃げられちゃうからね。
「…………。ヤベェ、微塵も思われてねェぞ」
けれど謀ったようなタイミングでそんなことを呟かれ、不穏な気配を感じる。
アホ先輩、マジで俺と噛み合わねぇな。
思ってないってそれ、俺がってことだったら鈍感にもほどがあるだろ? 割とガチで、ちゃんと狙ってんでしょ。あんたを。
「いやでもおかしいだろ。あっちは大丈夫でも俺は性格に不満しか、……待てよ?」
うわぁ、嫌な予感しかしねー。
待てってなに。これ以上俺に待てって言うの? ねぇ。犯すぞ。
「……まぁ、……うん」
なんだよその間は。気になるわ。
独り言やめんな。そこは思考ダダ漏れにしてくんないのかね。
「……チッ……」
あと──その顔。
にこやかとは無縁な顔面凶器の先輩のくせに、ふわふわと花でも飛びそうな雰囲気を醸し出しちゃってさ。
頬を赤くして、キラキラと瞳を輝かせて、照れくさそうに眉間にシワを寄せて感情の扱いに困るその顔。ムカつく。
しかもなにを思ったのか、キョトンと小首を傾げる仕草。すこぶるウザい。
「かわいくねー……」
うん。最高にかわいくない。
そのあとに呟いた意味のわからない発言も耳に届かないくらい、俺はドン底の自己嫌悪に苛まれてしまった。
なに考えてそんな顔したのか知らないけど、ね。反則級にそれ、かわいくないからやめてくんないかね。
かわいくないが、百回言えるくらいムカつくわ。
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