誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第四話 後輩たちの言い分

38(side三初)

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「ククク、はいはい。みはじめ、ですよ。潜ってないでちゃんと寝てなきゃダメでしょ?」

「み、みはじめ、ゴホッ」


 プルプル震えて俺を見上げる先輩に、俺はニヤケが止まらなくて、そっと奪った布団をかけ直す。

 赤く上気した頬に手を当て、指でなでてやった。湿ってますね。泣いたの? 言いつけを破る悪い先輩だわ。


「俺の許可なく泣いちゃうなんて、復活したら楽しいお説教ですね」

「いやっなんでここ、っ」

「呼ばれたからですけど」

「嘘っゲホッゲホッ」

「あーはいはい。いいから寝ろって」


 抜き足差し足でしばし楽しんでから上掛けを引っペがしたのだが、あまりにも弱っていたものだから愉快でたまらない。

 狼狽える先輩を布団の上からボス、と叩いて黙らせる。
 ベッドの端に腰を下ろして袋の中身を漁った。頭痛そうだから、取り敢えずシート貼るか。冷やそ。


「ゲホッ、呼んだのとか、意味ねぇ、っゲホッゲホッ」

「んーうるさいですよ。そんな必死に喋るから咳出んのよ。俺がどこでなにしようが俺の自由ですし」

「う……」


 あ、ミネラルウォーターあるじゃん。
 勝手に動いたのな。ピーク来てんのにアホだわ。俺が昨日あげてなきゃミネラルウォーターなんかありもしない冷蔵庫だしね。


「はいポタリスウェット」

「っぐ、……あ、ありがと、う」


 おっと素直だ。
 ペットボトルを差し出すと礼を言って受け取られ、マジマジと見つめる。

 どうやら本気で弱っているらしく、追い出すことも文句を言うことも諦めたようだ。本当に珍しいな。

 ペットボトルを受け取らせたその手で赤く染った頬に触れ、親指で目元を擦る。

 あっつい肌。汗もかいてる。
 先輩のぼんやりとした目は相変わらず物言いたげだったが、今度は俺の手を叩かず大人しくしていた。……うん。珍しいわ。


「まだ潤んでる。泣いちゃうから追い出したんですか」

「別に、なんでもねぇよ。潤んでんのは熱のせいだからな……」

「俺が戻ってきて嬉しい?」

「アホっ」

「ちゃんと言わねーと帰りますよ」

「み、ッ……、……」


 少し意地悪をすると、先輩はずいぶん渋い様子でもどかしげにしていたが、ややあってコクリと小さく頷く。

 くくく。流石に口では言わないか。
 ま、いつもの威勢のいい声や態度じゃないのはつまんねーけど、こういう反応も悪くないな。

 それに意外と人恋しいタイプっぽい。ここぞとばかりに世話してやれば甘えさせられるかもだ。もちろん下心ですけど。

 頬から手を離すと名残惜しそうに目で追ってくるのが面白くて、フッと息を漏らした。子犬化してんね。


「か……帰りたくなったら、帰れよ」

「言われなくとも。デコ出して」

「……ん」


 帰るか帰らないかの選択肢を俺に委ねた先輩は、自分の前髪を素直に上げてほらよとばかりに俺を見つめる。

 やはり口で引き止めるほどは耄碌していないようだ。残念。

 冷たいシートを貼り付けてやると僅かに肩が震えるが、すぐその冷たさが心地良さげに目を細めた。

 じゃ、餌でも用意しますか。
 でないと薬飲めないし。

 そう思ってベッドから立ち上がる──が、パシッ、と手首を掴まれた。


「…………。なんですか?」

「なん、でもねぇ」


 スルスル、と引っ込む手。
 俺は掴まれた手首を振り「そ」と返してから、部屋を出ようと歩き出す。

 背中を突き刺す視線を無視して容赦なくドアを開き、パタンと閉める。


「とりあえず……あと一週間は拗らせといてほしいかね」


 ──意外と懐かれてたっぽいんで?
 クククと喉を鳴らし、上機嫌にキッチンへ向かう俺なのであった。




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