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2.守りたい理由
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side:レオ
「ごちそーしゃまでしたっ」
レプスのソテーを1皿しっかりと食べ終え、ルカが満足そうに食後の挨拶をする。――もう、5年か。
あの朝、ルカを抱いて帰った俺を、祖父母は驚きながらも優しく迎えてくれた。世話になっている身でありながら赤ん坊と子犬を連れて帰ったというのに、文句の一つも言わない2人は本当に温かい人たちなんだと思う。……あの母親と血がつながっているなんて信じられないほどに。
すっかりと、ルカを3人目の孫として可愛がっている姿が微笑ましく、口を優しく拭かれている間も何かと話し続けているルカが可愛い。――幸せだな、と思う。特に、ルカが来てからの5年間は、俺が生きてきた15年間で1番穏やかな時間だった、としみじみ感じる。
「レオにぃ?」
そんな風にぼんやりしていたら、突然目の前に現れた天使。
「今日もルゥはかわいいなぁ……」
「キャー!レオにぃ、くるしいよぉ~」
思わず抱きしめると、キャッキャッと笑いながらバタバタと逃げようとする。だけど少し力を抜くと、暴れるのをやめてギューッと抱きしめ返してくれた。
我が家の天使の天使たる慈悲に甘え、銀色のふわふわした髪に顔をうずめていると、5年前より少しだけ濃くなった緑色の瞳で見上げてくる。
「レオにぃ、おつかれ?」
「ううん、大丈夫だよ。ルゥがかわいいなって思って見てただけ」
「え~?レオにぃもかわいいよ?」
「ふふ、ありがとう」
――本当に、可愛い。守っていきたいんだ、ずっと。“期待外れ”だと捨てられた俺に生きる意味を教えてくれた、愛しいこの笑顔を。
*
しっかりと歯を磨いて、先ほどまで俺の話を聞いてキラキラさせていた瞳は、今は閉じられた瞼に隠されている。
スヤスヤと眠る顔は、あのときのままだ。確かに感じる成長も、まだまだ幼い姿も、そのすべてが愛おしくて仕方がない。
「魔法、か……」
8歳になった子どもに義務付けられている、魔法適正の判定。貴族の子は神殿で、平民の子は近くの教会で行われるそれは……その後の人生を左右する重要な儀式だ。いや、左右どころの話ではない。その判定によっては、それまでの8年間のすべてを否定されると言っても過言ではない。両親に捨てられた、俺のように。
――男爵家の嫡男として生を受けた俺は、幼い頃から後継としての勉強を義務付けられてきた。成績はそんなに悪い方ではなかった、と自負している。両親にもそれなりに目をかけられていたと思う。……あの日までは。
俺の生家は代々火属性に特化し、その特性で事業を営んでいた。だけど、俺の魔法適正は地と水。その結果が出た瞬間、父からは表情がなくなり、母は失望を隠そうともしなかった。2属性を持っているという希少性のお陰か、すぐに勘当されることはなかったが、目に見えて扱いは変わった。
そして、その2年後。2つ下の弟の魔法適性が火属性とわかった途端、俺の存在は消された。物理的に、“不幸な事故”として。
運良く母方の祖父母に拾ってもらえていなければ、俺はもうこの世にはいなかっただろう。祖父母には本当に感謝している。お陰で今、村から少し離れたこの静かな場所で穏やかに暮らすことができているのだから。
ただ、両親から向けられた殺意というのは、まだ未成熟な子どもの心に深い傷を負わせるには充分すぎるものだった。
あの頃は祖父母に優しくされるほどに、“不要”になった自分が惨めに感じられて。いつか祖父母にも捨てられるのではないか、と焦燥感に駆られ、ひたすらに弓と魔法を練習をしていた。魔物を狩って少しでも祖父母の役に立ちたい、それだけを目標に。
初めて魔物を獲ることができた日。いつもより少し遅くなってしまったが、祖父母の喜ぶ顔を想像しながら家に帰ると、そこには見たこともないほどに怒っている2人がいて。
いつも大きな声で笑う祖父は、低く、静かな声で。
いつも穏やかな祖母は、涙を流しながら、大きな声で。
「心配した」、と。
「危ないことをするんじゃない」、と。
転んだときに泥だらけになってしまった俺を抱きしめてくれた。
少しでも恩を返したくて、自分の“存在意義”を証明したくて。必死だった俺は、2人の気持ちを考えていなかった。魔法の練習をしすぎて魔力枯渇症になり倒れたときの、祖母の表情だってそうだ。あれは、心配しながらも俺の行動を尊重し見守ってくれていた顔だったんだと、ようやく気付いた。……心配なんて、されたことがなかったから、気付けなかったんだ。
その瞬間、何だかすごく胸が熱くなって、「ごめんなさい」の言葉と共に初めて涙を流した。両親に見放されたときも、死に掛けたときにすら流せなかった涙が止まらなくて、怒っていたはずの2人が必死に宥めてくれたのを鮮明に覚えている。
その後、改めて獲ってきた魔物を見た2人は、驚きながらも称賛してくれ、またちょっとだけ小言を言われた。初めての獲物があんなに大きい魔物になるとは思わなかったけれど、今となってはいい思い出だ。
「あのときのタウルスは美味しかったなぁ……」
そして、それからまた少し経って。いつものようにトレーニングをするために森へ行ったら、そこにルカがいた。今でも、ルカがどこから来たのかはわからないけれど。一緒にいたニクスが気付けば俺たちよりも大きく成長した上に言葉まで話すのだから……きっと、何か深い理があるのだろうと思う。
早朝の澄んだ空気の中、木漏れ日に照らされ眠るルカを見て俺の中に灯った光。ルカを守ることが自分の使命であり、その笑顔を見ることが何よりの喜びだから。
強くならなければいけない。 今よりも、もっと。
「ごちそーしゃまでしたっ」
レプスのソテーを1皿しっかりと食べ終え、ルカが満足そうに食後の挨拶をする。――もう、5年か。
あの朝、ルカを抱いて帰った俺を、祖父母は驚きながらも優しく迎えてくれた。世話になっている身でありながら赤ん坊と子犬を連れて帰ったというのに、文句の一つも言わない2人は本当に温かい人たちなんだと思う。……あの母親と血がつながっているなんて信じられないほどに。
すっかりと、ルカを3人目の孫として可愛がっている姿が微笑ましく、口を優しく拭かれている間も何かと話し続けているルカが可愛い。――幸せだな、と思う。特に、ルカが来てからの5年間は、俺が生きてきた15年間で1番穏やかな時間だった、としみじみ感じる。
「レオにぃ?」
そんな風にぼんやりしていたら、突然目の前に現れた天使。
「今日もルゥはかわいいなぁ……」
「キャー!レオにぃ、くるしいよぉ~」
思わず抱きしめると、キャッキャッと笑いながらバタバタと逃げようとする。だけど少し力を抜くと、暴れるのをやめてギューッと抱きしめ返してくれた。
我が家の天使の天使たる慈悲に甘え、銀色のふわふわした髪に顔をうずめていると、5年前より少しだけ濃くなった緑色の瞳で見上げてくる。
「レオにぃ、おつかれ?」
「ううん、大丈夫だよ。ルゥがかわいいなって思って見てただけ」
「え~?レオにぃもかわいいよ?」
「ふふ、ありがとう」
――本当に、可愛い。守っていきたいんだ、ずっと。“期待外れ”だと捨てられた俺に生きる意味を教えてくれた、愛しいこの笑顔を。
*
しっかりと歯を磨いて、先ほどまで俺の話を聞いてキラキラさせていた瞳は、今は閉じられた瞼に隠されている。
スヤスヤと眠る顔は、あのときのままだ。確かに感じる成長も、まだまだ幼い姿も、そのすべてが愛おしくて仕方がない。
「魔法、か……」
8歳になった子どもに義務付けられている、魔法適正の判定。貴族の子は神殿で、平民の子は近くの教会で行われるそれは……その後の人生を左右する重要な儀式だ。いや、左右どころの話ではない。その判定によっては、それまでの8年間のすべてを否定されると言っても過言ではない。両親に捨てられた、俺のように。
――男爵家の嫡男として生を受けた俺は、幼い頃から後継としての勉強を義務付けられてきた。成績はそんなに悪い方ではなかった、と自負している。両親にもそれなりに目をかけられていたと思う。……あの日までは。
俺の生家は代々火属性に特化し、その特性で事業を営んでいた。だけど、俺の魔法適正は地と水。その結果が出た瞬間、父からは表情がなくなり、母は失望を隠そうともしなかった。2属性を持っているという希少性のお陰か、すぐに勘当されることはなかったが、目に見えて扱いは変わった。
そして、その2年後。2つ下の弟の魔法適性が火属性とわかった途端、俺の存在は消された。物理的に、“不幸な事故”として。
運良く母方の祖父母に拾ってもらえていなければ、俺はもうこの世にはいなかっただろう。祖父母には本当に感謝している。お陰で今、村から少し離れたこの静かな場所で穏やかに暮らすことができているのだから。
ただ、両親から向けられた殺意というのは、まだ未成熟な子どもの心に深い傷を負わせるには充分すぎるものだった。
あの頃は祖父母に優しくされるほどに、“不要”になった自分が惨めに感じられて。いつか祖父母にも捨てられるのではないか、と焦燥感に駆られ、ひたすらに弓と魔法を練習をしていた。魔物を狩って少しでも祖父母の役に立ちたい、それだけを目標に。
初めて魔物を獲ることができた日。いつもより少し遅くなってしまったが、祖父母の喜ぶ顔を想像しながら家に帰ると、そこには見たこともないほどに怒っている2人がいて。
いつも大きな声で笑う祖父は、低く、静かな声で。
いつも穏やかな祖母は、涙を流しながら、大きな声で。
「心配した」、と。
「危ないことをするんじゃない」、と。
転んだときに泥だらけになってしまった俺を抱きしめてくれた。
少しでも恩を返したくて、自分の“存在意義”を証明したくて。必死だった俺は、2人の気持ちを考えていなかった。魔法の練習をしすぎて魔力枯渇症になり倒れたときの、祖母の表情だってそうだ。あれは、心配しながらも俺の行動を尊重し見守ってくれていた顔だったんだと、ようやく気付いた。……心配なんて、されたことがなかったから、気付けなかったんだ。
その瞬間、何だかすごく胸が熱くなって、「ごめんなさい」の言葉と共に初めて涙を流した。両親に見放されたときも、死に掛けたときにすら流せなかった涙が止まらなくて、怒っていたはずの2人が必死に宥めてくれたのを鮮明に覚えている。
その後、改めて獲ってきた魔物を見た2人は、驚きながらも称賛してくれ、またちょっとだけ小言を言われた。初めての獲物があんなに大きい魔物になるとは思わなかったけれど、今となってはいい思い出だ。
「あのときのタウルスは美味しかったなぁ……」
そして、それからまた少し経って。いつものようにトレーニングをするために森へ行ったら、そこにルカがいた。今でも、ルカがどこから来たのかはわからないけれど。一緒にいたニクスが気付けば俺たちよりも大きく成長した上に言葉まで話すのだから……きっと、何か深い理があるのだろうと思う。
早朝の澄んだ空気の中、木漏れ日に照らされ眠るルカを見て俺の中に灯った光。ルカを守ることが自分の使命であり、その笑顔を見ることが何よりの喜びだから。
強くならなければいけない。 今よりも、もっと。
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