吸血王子 と 吸血事務員 が 土食・オブ・ザ・デッドの世界を旅するはなし

aonuma seiya

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第22話 宇宙フナクイムシ・ヒトノエ 前編

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 沼崎が目を覚ました。

 彼の意識は朦朧もうろうとしており、自分がどんな状況にあるのかわかっていなかった。

 ただ体の自由は奪われているらしいことだけは理解できた。

 彼は中華テーブルのような丸い台の上に四肢ししを縛りつけられていた。

 大の字になった沼崎を囲むように三人の男が立っていた。

 いずれも身長190センチ級の大男でしかも年寄りだった。

 白目をむいた老人たちの口からは、それぞれアサリの出入水管のように寄生生物ヒトノエがはみ出していた。

 ヒトノエたちは時折、沼崎の顔や体のすぐそばまで白く長く伸びてきた。

 赤い小さな眼で沼崎を睨回ねめまわすと、また老人の口元近くまで収まっていくのだった。

 三匹のヒトノエが沼崎の体の上でメルセデス・ベンツのエンブレム「スリーポインテッドスター」を描くように集結した。

 三匹は互いに顔を見合わせ会議を始めた。

「この男をどう見るか」

「この男が聖なる戦士か、いなかという意味か」(注1)

しかり」

 ヒトノエたちは声のトーンがみな同じで、三匹のうちどれが話しているのか判別がつかない。

「この男はぼくらを追ってこの星までやって来た聖なる戦士なのであろうか」

「聖なる戦士はぼくらと敵対する者。ついにしてかたきとなることを運命づけられし者」

「この男が聖なる戦士なら、古式にのっと鄭重ていちょうに処刑せねばならない」

「この男がただの人間である可能性も否定できない」

「ただの人間を処刑することはできない」

「ただの人間はぼくらと共にある宿となりし者」

 夢うつつの沼崎の中へ三匹の会話が流れ込んで来る。

 何やら紛糾ふんきゅうしていることはわかるが、原因が自分だとは知る由もない沼崎である。

「この銃は聖なる銃に似ているとは思わないか」

「機構も動力も実に原始的だ。この銃でぼくらと敵対しようなどとは笑止」

「この鎖状の甲冑かっちゅうは聖なる戦士のものだろうか」

「ぼくらには聖なる甲冑についての伝承はない」

 三匹は沼崎の体の横に置かれた7つ道具や週刊誌など、ナップサックの中身について互いにねじれたり巻きついたりしながら活発に議論していた。

 背後の老人たちは白目をむいたまま微動だにしない。

 眠っているようだ。

「聖なる戦士が、このような低俗な刊行物を所持する理由とは」

「もしや伝承にある聖なる戦士の聖典『宇宙船喰蟲虫下し読本うちゅうふなくいむしむしくだしどくほん』ではないのか」

いな。この星の低俗な定期刊行物の一種であることは明白だ」

「聖なる戦士にも俗なる欲望があるという証拠ではないのか」

「聖と俗の間を移ろう者はただの人間であろう」

「然り」

「だが、この銃の形状は伝承にほぼ忠実だ」

「ぼくらにはこの男が聖なる戦士であると断定し得る情報が決定的に不足している」

「然り。では決をろう。ぼくらはこの星で多数決を学んだ」

「処刑に反対するぼくらは挙手きょしゅを」

 沼崎は夢うつつのまま腕を上げようとした。

 台にがっちりと縛りつけられた腕はびくともしなかった。

面妖めんような。何故なにゆえ反対で決を採る」

「ぼくらは骨のずいまで否定的感情に支配されている」

 三匹の動きが止まった。

 言葉を発するのをやめ、互いに顔を見合わせている。

「待て。挙手。挙手とは何だ」

「然り。ぼくらには腕がない」

「骨の髄。ぼくらには骨も髄もない」

 三匹はほぼ同時に鎌首かまくびをもたげた。

 何かに気づいたようだ。

「ヒトノエジョークだ!!!」

 悲鳴のような歓声が上がった。

 耳の奥まで突き刺さってくる高い音に、沼崎は反射的に耳をふさごうとしたが、その手は台に固く縛りつけられている。

「高度な文化だ!!!」

「ぼくらはこの星でユーモアを学んだ!!!」

 三匹は感極まったのか一つに絡まり合いソフトクリームみたいな螺旋らせんを描いていた。

 やや頭がはっきりとしてきた沼崎が呆然とその様子を眺めていると、螺旋がこちらを向いてドリルのように回転しながら迫ってきた。

 思わず顔をそむける沼崎。

 ねじれて頭部を寄せ合った三匹が順に告げていく。

「東京へ去れ、都民沼崎」

「二度と千葉へ来るな、都民沼崎」

「都民沼崎。振り向くな、都民沼崎」

 徳川家の家紋かもん三つ葉葵紋みつばあおいもん」のようになったヒトノエの三つの顔を見詰めているうちに、催眠術にかかったようにあらががたい感情が沼崎の中にあふれ出していた。

 沼崎は言った。

「……OK、サバイバル」



(つづく)










(1)聖なる戦士
ヒトノエの天敵。地球へやって来る以前、ヒトノエの祖先は「聖なる戦士」と数億年に亘って戦っていた。ヒトノエの壮大な叙事詩『さらば大マゼラン・彗星流れ旅・銀河兄弟船』において「聖なる戦士」はヒトノエの永遠のライバルとして讃えられている。ヒトノエと「聖なる戦士」の関係は、地球上でいうとシロアリと害虫駆除業者の関係に近い。
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