屈曲ラヴァー 〜身を滅ぼしてしまいそうな初恋〜

榊󠄀ダダ

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第1章

第7話 クリスマスデート

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「倉田ー!」
「尾関先輩!」



 地元からバスに乗れば少し大きな駅にそこそこ大きい映画館はあるけど、そこでは先輩の目当ての映画はやってないらしく、私たちは最寄りの駅で待ち合わせると、電車を乗り変えて都心の方まで出た。


 クリスマスに先輩とデートなんてまだ信じられない。二人で電車に乗るのも初めてで、それだけでも胸はずっと高鳴りっぱなしだった。


 目的地の駅に降り立ち、クリスマス一色の街を一緒に歩いていると、幸せすぎて泣きそうになった。


「そう言えば、見たい映画ってなんなんですか?」


 デート自体に浮かれすぎて、そこに全然気が回ってなかったことに直前で気づく。
 

「あー、ゾンビ」
「ゾンビ!?」
「そう。今日から公開の“ゾンビーナ”ってやつ。あ、もしかしてそうゆうのダメだった?」
「いや、ダメじゃないですけど、むしろ嫌いじゃないですけど、クリスマスにゾンビってなかなか攻めてますね……」
「だよねー、でもゾンビの肌って緑がかってるし、血って赤いし、なんかクリスマスっぽくない?」
「……確かに」


 ムードなんてへったくれもなくても、間に置いた一つのキャラメルポップコーンを二人で一緒に食べていることが、私には何よりも価値があった。


「出てる役者全員知らなかったからB級の可能性もあるかと思ってたけど、めちゃくちゃおもしろかったー!やるな、ゾンビーナ!!」
「ほんと!!まさか誰一人助からないとはやられましたよ!私の中のゾンビ映画史上一位です!!」
「ほんと?じゃあよかった!誘っといていまいちだったらいくら倉田でも申し訳ないもん」
「いくら倉田でもって……その扱いに申し訳ないと思って下さいよ…」
「あー!見て!倉田!コレかわいくない?」


 映画グッズが並んでいる小さなお店の前で尾関先輩が何かに食いついた。 
 先輩の手の中を見ると、今見たばかりのゾンビーナのキーホルダーがあった。


 主要キャストがゾンビ姿になっているデザインで、ポップなアニメチック風にデフォルメはされているけど、しっかりとグロさ爆発のキーホルダー。


 おそらくゾンビ好きにはたまらず、ダメな人にあげれば投げ捨られそうな両極端な品。私は正直、こうゆうものが嫌いじゃない。


「わー!かわいい!サイコーですね、これ!!買おっかな!」
「私も欲しいなぁー、どれにしようかなー……」


 すごく自然な展開で今、先輩とお揃いのものを手に入れられる状況になっている。しかも、今日のデートの記念にもなる。映画終わりのちょっとしたハイテンションで先輩はそれに気づいていない。チャンスだ!


 キーホルダーには種類が4つあった。違う種類でもお揃いと言えばお揃いだけど、私はどうしても全く同じ物を持ちたかった。でも、あからさまに合わせにいけば、いくら警戒心の薄れた今の先輩でも、何かを思うはず。


 私は覚悟を決め、賭けに出ることにした。お揃いになることを願いながら、ここでもし二人が同じ物を選んだら、“この恋はいつか叶う”と、勝手な法則を定めた。


「決めた!私、コレにする。倉田は?どれにしたの?」 
「私はもう初めからぜったいコレって決めてたんで」


 お互い同時に相手の手のひらにあるキーホルダーを見た。


 ウソでしょ!!?
 見事に私は4分の1の確率で先輩と同じキーホルダーを選んでみせた。


「えー、倉田と同じじゃん!じゃあ私別のに変えよっかなー」


 何を言ってるんだ、この人は。
 またキーホルダーを選び直す先輩にはバレなかったけど、思わずイラっとして睨んでしまった。


「なんで変えるんですか!別にお揃いにしたんじゃなくて、選んだものがたまたま同じだっただけなんだからいいじゃないですか!」
「……まぁいっか」


 なんとか説伏せられてほっとしていると、大切に握っていたキーホルダーを一瞬の隙に尾関先輩に奪われた。  


「あっ!何するんですか!」
「買ってあげる。今日付き合ってくれたお礼」


 先輩はその場に私を残して会計へ行った。今日は幸せすぎて帰りに死ぬんじゃないかと思った。


「ハイ、どうぞ」
「ありがとうございます!やったー!うれしー!」
「ゾンビのキーホルダーでそんなに喜んでるの知ったら、高いネックレスあげた彼氏落ち込むよ?」


 この余計な一言さえ無ければ完璧なのに……そう思いながら並んで出口へ向かった。


「どっかでごはん食べてこうよ」
「はい!」


 華やいだ街を少し歩き回った後、私たちは落ち着いた雰囲気のレストランに入った。


「クリスマスはやっぱ肉でしょ!」と言う尾関先輩の持論に乗っかって、私もなかなか食べる機会のない、ちょっと値の張るステーキを選んだ。


 せっかくクリスマスだしと先輩がシャンパンを飲むと言うので、一緒に乾杯がしたくて、私も雰囲気だけ味わえるノンアルコールのシャンパンを調子に乗って頼んだ。


「こんなお肉食べたことないです!」
「私も。なんか意外にけっこうクリスマスしてるね、私たち」
「ほんとですね!さっきのゾンビのブシャーッ!!って血しぶきも、今思うとなんだかシャンパンみたいって思えてきますね!」
「……確かに」


 まだ食事の最中なのに、今日は一日中本当に楽しすぎて、もう少しでこの時間が終わってしまうということがもう悲しくなり始めた。


「彼氏が勉強頑張ってる中いいステーキ食べて悪い女だねー」


 せっかくのこの時間にそんな話しないで欲しい…


「今の時期は何しても邪魔になるから、出来るだけ関わらないようにしてるんです」
「そっか、好きな子が連絡してきたら全然集中出来ないもんね。私だったら全部どうでもよくなって会いに行っちゃうかもな」


 さっぱりしてそうな尾関先輩も好きな子にだとそんなことするんだ……。例え話の中の実体のないその子にまで私は嫉妬した。


 テーブルを挟んでシャンパンに上機嫌な少しだけ頬の赤い先輩を見ながら、いつか私のためにそんな風になってくれますように……と、窓から見える都会の心もとない小さな星に願いをかけた。










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