屈曲ラヴァー 〜身を滅ぼしてしまいそうな初恋〜

榊󠄀ダダ

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第1章

第6話 思い通り

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「夏にしよう!高校最後の夏休みって何か起こりそうだから、信憑性が高くなるはず!」
 

 と店長が言うので、私の“彼氏出来た作戦”は夏の決行となった。


 自分から伝えると怪しく思われそうと言うえなさんの助言を受けて、それとなくまず店長が噂を先に流すという手はずになっていた。


 夏休みももう終わる頃、バイト上がりの二人だけの休憩室で着替えていると、尾関先輩が話しかけてきた。


「倉田、彼氏できたの?」


 質問が直球過ぎて動揺した。


「なっ、なんでですか!?」
 

 その動揺がいい方に働いて、尾関先輩は私が恥ずかしさにテンパってるように映ったみたいだった。


「やっぱりそうなんだ!学校の子?告られたの?」
「……まぁ、そんな感じです……。別の学校の人なんですけど、その、共通の知り合いがいて……。でも、どうして分かったんですか?」
「それ。隠してるけど最近いつもハートのネックレスしてるでしょ、あと店長がちょっと前から『倉田ちゃんなんか怪しい!』とか言ってたし」
「……大人ってすごいですね……」


 それは本心だった。


 少し前からつけ始めた小さなハートのネックレスはえなさんがくれたもの。これみよがしじゃなく、たまに見えるくらいの感じで常に身につけるように指示されていた。


 そして、尾関先輩がそれに気づくように店長がさりげなくパスを出すというミッション。


 あの尾関先輩がえなさんと店長の思いのままに動かされている……。あの二人は本物の詐欺師に慣れるんじゃないかとさえ思ってしまう。


「写真とかないの?彼氏見してよ」
 

 これもえなさんの予想通り。私は用意してした例の法事のツーショット画像を見せた。


「なんか純朴そうな子だね。よかった、変な男じゃなくて。倉田と雰囲気似てるし、お似合いじゃん!」


 そりゃいとこだから……と心の中でツッコミを入れつつ「どうも……」と返した。


「倉田、けっこう好きだよね、その子のこと」
「どうしてですか?」
「だって仕事中もシャツの上からちょいちょいネックレス触ってるもん」


 えなさんはもう使ってないからと軽い感じでくれたけど、彫ってあるブランド名をその後調べてみたら、とても高校生がつけるレベルのものじゃなかった。その緊張感からの仕草がまた功を奏したようだった。


「……大事なものなので」
「いいじゃん!高校最後の夏に恋しちゃって毎日楽しいでしょ?」
「……どうですかね」
「でもいつもと違う顔してるよ?最近。ねぇ、ちょっと見せて」


 尾関先輩はパイプ椅子から立ち上がるとロッカーの前に立っている私の前まで来て、つけたままのネックレスを開けていた第1ボタンの隙間から勝手に手に取ってしばらく見つめていた。


 その時、一瞬だけ先輩の指先が私の肌に触れて、息が止まりそうになった。


 わずか10cmくらいのところに、ネックレスを見つめる尾関先輩の顔がある。髪からふわっとシャンプーの匂いがした。


 今までこんなに近づいたことがなくて、破裂しそうな心臓の音が聞こえてしまわないかと不安に思いながら私はただじっとしていた。

 
「コレけっこう高いやつじゃない?彼氏がんばったなー、倉田かなり愛されてんじゃん」
「そ、そうなんだ……」
 

 ようやく先輩が少しだけ離れて私は息を吹き返した。


「なんか倉田、大人っぽくなった」
「えっ……!?」


 じっと見つめられたままそう言われ、今度は金縛りみたいに動けなくなった。


「さてはチューしたな?」
「し、してませんよ!!」
「その反応はしたな。そっかー、倉田もようやく少しは大人になったのかぁー」
「だからしてませんて!!」


 喜んでいいのか、悲しんでいいのか、言うことすることが全て術中にはまり進んでいく。


 切ないけど、架空の恋人の話をしている時の先輩は前みたくよく笑って、本人が言っていた通り、あんなにも剥がれなかった警戒心を全て無くして、何もなかったように話してくれた。でもそうやって近づくほどに、私は尾関先輩とのその距離を知った。


 店長とえなさんの作戦は予想以上に大成功で、それから尾関先輩の私への態度は本当に変わった。仕事に関係ないことも、くだらないことも、最近はずっと知れることのなかった音楽活動のことも話してくれるようになった。


 そしてついには、一年以上ぶりにまた一緒に帰ってくれるようにもなった。そんな時間が何よりも愛しくて、またこんな風に隣で笑う先輩を見れるようになったんだと思うと夢みたいだった。
 

 だけど、それは本当に夢であって現実ではないと、尾関先輩はいつもすぐに私を夢から引きずり出した。


「最近彼氏とどう?」
「別に変わりないですよ。てゆうかつい三日前にも同じこと聞いてきたじゃないですか」
「そーだっけ?クリスマスはどこにデート行くの?あんな高いネックレスくれる彼氏だから高校生のくせになんかやってきそうだよねー」


 季節はもう冬になり、架空の恋人と私は付き合って4ヶ月を越えていた。


「向こうは受験なんでそれどころじゃないです」
「あーそっか!高3だもんね。倉田はもう専門決まってるんでしょ?」
 

 いとこのしょうは本当に大学受験を控えていて、家でも今まで見たことのない姿で毎日勉強に勤しんでいる。ちょうどよくそのままの状況が使えて本当に助かってる。


 えなさんの、嘘をつく時は特定の誰かを決めておくといいというアドバイスが身に沁みて効いている。


 私は前からずっと決めていた動物関係の専門学校への入学がもう決まっていて、世間の同級生の子達とは一線を画して気楽な12月を過ごしていた。


「はい、もう11月には決まってたし、私はもう進路に関してはほぼやることないんですよね。だからクリスマスは普通に曜日通りバイトです」
「じゃあさ、クリスマス私と一緒に映画行かない?」
「え!?」
「見たい映画があるんだけど、クリスマスに一人で行くのって恥ずかしいじゃん?普段は気にしないんだけど。あ、でもさすがに彼氏が勉強頑張ってる中クリスマスに他人と映画なんてまずいか……」
「全然そんなことないです!全っ然そうゆうの気にしない人なんで!」
「へー大人だな。でも、あんなさん怒るかな?私は曜日的にちょうど休みだから関係ないけど、倉田は休まないといけないもんね。クリスマスは店も忙しいからなぁ…普通の日と違って休めないかもね」
「でも一応店長に聞いてみます。難しかったら…ごめんなさい……」
「うん、いいよ。別に無理には。倉田がダメだったらまたクリスマスに暇そうな誰か探して誘うし」
「……分かりました」


 そう言いながら頭の中では店長に土下座するつもりでいた。こんなチャンス逃せるわけがない。それより何より、もし私が行けなかったら尾関先輩は他の誰かとクリスマスデートをする……。


 そんなこと絶対に耐えられない。








「オッケ!オッケ!ぜんぜん大丈夫!Go to the movie in クリスマスしてきなよ!with 尾関と!」


 次のバイトまで待てなくて、尾関先輩と別れると私はすぐに店長に電話してシフトの相談をした。きっと店長は許してくれるはずと思ってはいたけど、電話先の店長は想像以上に喜んで応援してくれた。


「なおちゃんがんばれー!」


 後ろでえなさんの声も小さく聞こえた。









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