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第2章
第14話 決別の覚悟
しおりを挟む(中谷 かこ)
アラームよりも先に目を覚まし、ベッドの上で天井を見ながら考えていた。
昨晩のことを思い出し、まだ彼女の感触が色濃く残る唇に指で触れる。
恋人が出来たように装った理由を『どんな顔をするか見たかったから』と彼女は言った。でも、その真意は今もまだよく分からない。
ただ、そんなことはすべて置いておいて、彼女からしてくれたという事実に結局私は喜びを感じてしまっている。
事が起きた直後はからかわれたのかと思って逆上してしまったけど、冷静になった今思い返してみると、あのキスに悪意なんてものは欠片もなかった。むしろ慈しみの破片を感じた。
……そのせいかもしれない。絶対に口には出来ないと思っていたはずなのに、私はついに自分の気持ちを彼女に告白してしまった。
異性愛者の彼女に告白なんてしたら、すべてが終わってしまうだろうとずっと怯え続けてきたけれど、私の気持ちを知った現実の彼女は『女の人しか好きにれない』と言った。
その言葉は私の頭にすんなりとは入ってはこなかった。そんな可能性は微塵もないと思い込んでいたからかもしれない。
でもよく考えてみれば、体を交えたあの夜の彼女に、私はなんの違和感も感じなかった。それは、彼女に女とのセックスの経験があるからだったんだろう。
彼女は私と同じく同性愛者だった。
彼女の方はとっくに私を見抜いていた。
それならそれを理由に引かれることだけはないと心の片隅で安心したのも束の間、彼女は告白した私のその気持ちを信じてくれなかった。
付き合うことになったわけでもなく、はっきりフラれたわけでもなく、すべてが曖昧なまま、彼女は仕事を理由に帰って行ってしまった。
今日もちゃんと来てくれるかな……
またこないだのように、避けられたり拒絶される可能性も大いにある。
なんだか漠然と、上手くいかないような気がしてため息をついた。そんな杞憂を吹き飛ばそうと、私はようやくベッドから起き上がった。
とにかく彼女の気持ちがどうであれ、今日、私は今度こそあの手に別れを告げる……。 彼女に想いを告げた以上、その答えがどうであろうともう他へ逃げてはいけない。
この数ヶ月、本物の彼女とでは通じ合えない想いを投影し、あの手に逃避し続けてきたけれど、それももう今日で終わりにする。
いつもの時間にいつもの車両へ乗り込んだ。
あの手が背中に置かれたら、今度こそ別れを告げよう……
やがて私のすぐ後ろに、あの手の主がいつも通りやって来たのがなんとなく分かった。
口で言わなくても、私が手で拒否を示せばあの手はきっと解ってくれる。
言葉では何一つ交わしたことはないけど、私とあの手は愛に似た不思議な何かで通じ合っていた。
なんといい訳をしようと、世間的には不埒《ふらち》な関係なのは分かっている。でも、あの手が居なければ、私は彼女を想う苦しみに潰されていただろう。
心と体をなんとか支えてくれていたあの手を、私は今から拒絶しなければいけない……。複雑な気持ちを抱えながら、私はあの手に触れられるのをただじっと待っていた。
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