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第二章 はなおぬ
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しおりを挟む「それにしても、やはり比和子さんがいらっしゃると、屋敷が明るくなりますね」
「こういうのは騒がしくなるという」
「だったら今日からお祖父ちゃんの家に行くわ!」
「この足で行くのか」
そうなんだよね。
こんな足をしていたら、また何か厄介事に巻き込まれたとお祖父ちゃんたち、心配するだろうしなぁ。
「やっぱりここに居ます……」
「お部屋はどういたしましょう。ようやく別室が空きましたので、そちらで準備いたしましょうか?」
「いや、比和子はしばらくこの部屋に居させる」
「かしこまりました。ではそのようにいたします」
当たり前の様に南天さんは私が玉彦の部屋に夜もいることを受け入れると、部屋を後にした。
さすがに、お年頃の二人が一緒の部屋って不味いんじゃないかと思うんだけど……。
「この痣が夜に何か起こすやもしれぬ。暫くは様子見だな……」
あっ。変な想像していたのは私だけかも。
私ってばとんでもない恋愛脳になってしまっている。
恥ずかしい。
陽が落ちてから帰って来た澄彦さんは、夕餉を済ませると直ぐに玉彦と竹さんと共に調べものをするため、引っ込んでしまった。
結局岩を見に行って収穫があったのかどうかは教えてはもらえなかったけれど。
部屋に戻り、時折痛む足を摩り、何もないので勝手にお布団を敷いて寝転がる。そういえば、玉彦の部屋に入ったのは白猿に彼が怪我をさせられて以来だった。
私がいつも使う部屋、惣領の間、そして玉彦の部屋。
こちら側の母屋ではあとは台所とお風呂、お手洗いくらいが私の行動範囲だ。
室内をぐるりと見まわしても、家電製品が少ない。
テレビもない。なぜかすぐに壊れるからだろう。
机と本棚と、タンス。それだけ。
机の上には、中一の時の私たちの写真が飾られている。
無表情の玉彦と笑顔の私が石段に並んでいた。
ちなみにこの後ろで、私たちが手を繋いでいたのは秘密だ。
椅子に座って手に取れば、懐かしくて笑みが零れた。
彼はいつもこの椅子に座り、この机で勉強しているんだろう。
たまに私のことを考えてくれただろうか。
本人不在で部屋を物色するのは気が引けるので、私はそこからお布団にダイブする。
それにしてもすることがない。
仕方ないので小町にメールなんぞしてみる。
今日ようやく玉彦と(∀`*ゞ)エヘヘってな感じで送れば、避妊はしとけと返事が来たので慌てて否定しておく。
そうすると残念顔が二つ送られてきた。
あー、今守くんと一緒にいるんだな。
お邪魔しちゃいけないし、早々に切り上げる。
そしてまた暇。
こちらに来てからずっと玉彦が隣にいてくれたから、そう感じることはなかったけど、明日以降は一緒じゃないんだろうな。
玉彦は惣領息子としてのお役目があるし、部活もしたりと忙しいだろう。
澄彦さんは気がつけば居ないので、外でお仕事だろうし。
南天さんは家のことで忙しい。
私はお客扱いなので、手伝いを申し出てもことごとく断られた。
そしてこの足。
動いたら痣は拡がるのか。
拡がればどうなるのか。
何もわからないので、現状維持をしておくしかない。
一体私はここへ何しに来たんだろう。
━━━……
「比和子、起きろ」
呼ばれて目を開ければ、目の前には白い着物の玉彦。
握りしめて寝ていたスマホを見れば、夜中零時。
「爆睡してた……」
「疲れが溜まっていたのだろう」
そう言って玉彦はうつ伏せのままの私の右膝を曲げさせ、踝を見る。
もう冷やし疲れて、踝は放置状態だった。
眠っていた頭がすっきりしてきて、彼の姿に飛び起きた。
着物、着物だ。
玉彦がこの姿の時は、玉彦様の時だ。
「どうしたの? なにか、どこかへ行くの?」
「南天と少し外へ出る。何かあれば鈴を鳴らせと言いに来た」
「うん、わかった……」
「先に寝ていろ」
「わかった……」
「では、行ってくる」
「いってらっしゃい。気を、付けてね」
去り際の後ろ姿に声を掛ければ、振り返り笑う。
そして玉彦はこの夜、南天さんと出かけたまま戻らなかった。
次の日のお昼になっても、再び夜が来ても帰って来なかったのである。
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