私と玉彦の六隠廻り

清水 律

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第二章 はなおぬ

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 玉彦の部屋に運び込まれた私は、そのまま動くなと厳命されて畳に寝転んだ。
 部屋を出て再び戻ってきた玉彦の手にはビニールに入った氷嚢とタオル、そして後ろには先ほど嵐を巻き起こした竹婆と澄彦さんが来ていた。

 右足の踝を竹婆が持ち上げてしげしげと観察する。
 たまに冷やして様子を見るを繰り返した。
 そして玉彦と並んだ澄彦さんは、顎に手を当てて難しい表情だった。

 私はもうこれは虫刺されではなく、『何か』だと解っていた。
 痒みは全くない。
 時折規則的に痛みが走る。
 そして痛みが走るたび、痣が赤くなる。
 まるでタトゥーを入れられているみたいだった。

「間違いなく『呪』ですな」

 竹婆が結論付けると、足を畳に優しく降ろしてタオル越しに氷嚢を当てがってくれる。

「何の呪か判りますか、竹さん」

「見たことはない。けれど調べれば判る」

「解く方法は」

「調べねば何とも言えぬ」

 澄彦さんはすぐに竹婆と部屋を出て行き、冷やす役目は玉彦に引き継がれる。
 心配そうに触れようとするから、私はその手を止めた。
 万が一、玉彦にこの牡丹の痣が移ってしまっては困る。

「酷く痛むか?」

「我慢できないほどじゃないけど、チクチクとしつこい」

「冷やせば楽になっているのか」

「感覚が鈍くなるから」

「そうか……」

 玉彦とあんなことがあった矢先にこれだなんて、タイミングが悪い。
 でもこれがいつもの私たちのパターンの様にも感じる。
 しばらくして廊下を誰かが歩く音が聞こえたかと思えば、襖が少しだけ開く。
 その隙間の上下に豹馬くんと須藤くんの半顔がある。

 何をやってんのよ、いい年して……。

「入っても?」

 玉彦が返事をしなかったので私がどうぞと返答する。

「お久しぶり、上守さん。また何かあったんだって?」

 二人は横になる私の足元に座り、氷嚢の下を見た。
 すると豹馬くんがしばらく考え込んで、思いついたように手を打った。

「これに似たようなのを見たことがある。しかもさっきも見た」

「どこでだ」

「通学路の脇にある、岩。色は付いてないけど、同じ形のが彫られてた、と思う」

「豹馬、父上に報告を」

 言われて豹馬くんは澄彦さんのところへ向かうかと思いきや、荷物袋の中からスマホを取り出し、メールを打っている。
 ピロリンと鳴ってすぐに返事は来たようだ。

「これからそこへ行くって。須藤どうする?」

「僕も一緒に行くよ。ここに居ても上守さんが気を遣うだろうしさ。お大事にね。今度は僕が上守さんを助ける番だから、役に立つように頑張るよ」

 二人は挨拶もそこそこに立ち去る。
 擦れ違いで今度は南天さんが登場した。

「お役目代わりましょうか、玉彦様」

「大丈夫だ」

「南天さん、私、バケツプリン……」

「お前……」

「だって腹が減っては……」

「すぐにお持ちします」

 クスリと笑って南天さんはすぐにバケツプリンを運んできてくれた。
 玉彦用に小さなコーヒーカップサイズのもある。
 生クリームをたっぷり乗せて、私はとりあえず写メを撮って小町に送った。

 スプーンで掬って一口。
 んんーうまー!

 通山に帰ってから何度もプリン作りに挑戦したけど、南天さんの様にはいかなかった。
 一緒に作ってレシピは覚えているのになー。
 何でこうも違うかなー。

 黙々と食べ続ける私を横目に、氷嚢係を一時代わった南天さんが踝を観察する。

「どう思う?」

 玉彦はコーヒーカップを手にしているが、中身はプリンだ。

「竹様の仰る通りなんでしょうが、呪を掛けられる者は今は限られているのではないかと思います。それになぜ比和子さんが標的になったのか、疑問ばかりです」

 一瞬さ、私に呪を掛けたのって後藤親子なんじゃないかと思った。
 でも不可思議な力を目の当たりにして、あの親子がとった行動は普通の人間の反応で、恐れていた。
 だから、人を呪わば穴二つっていうような呪を、わざわざ正武家に関係する私には掛けないんじゃないかなって。

 そもそもこの呪は、どんなものなんだろう。
 チクチク痛んで、痣は出来たけど、死ぬような感じはまだしない。
 操られたり、何かが中に入ってくる気配もない。
 スプーンが止まった私を心配して、玉彦が頭をポンポンしてくれる。

 なんてゆーかさ……。
 あれから四年しか経ってないのに、玉彦ってば私の扱い、いや、女の子の扱いに慣れてるような気がする……。

「お前にだけだ。大切にしようと思えば自然とこういう扱いになるだろう」

「え? いつから心の声が聴けるようになったのよ」

「比和子さん……。呟きが全部聞こえていました」

 空になったバケツとコーヒーカップを片付けてくれていた南天さんが苦笑している。
 再び足を冷やし始めてくれた彼は、下を向いて口元だけ笑っていた。

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