私と玉彦の六隠廻り

清水 律

文字の大きさ
10 / 51
第一章 さいかい

しおりを挟む
 嵐が過ぎ去り。

 私と玉彦は、石段に腰かけていた。
 色んな意味で、疲れた。
 吹き抜ける風が髪を煽る。

「玉彦、あのさ……」

「竹婆の言葉を気にすることはない」

「うん……」

「竹婆の時と、時代が違うのだ」

 いや、そうじゃなくて。
 私が話したいのはそこではなくて。
 子ども云々以前に、もっと大切なお互いの意思表示について。
 座り直して身体を玉彦に向ければ、何かを察して彼もこちらへ向く。

「玉彦は私のこと、どう思ってるの?」

「真っ直ぐな性根で、嘘がつけない。暴走するきらいがある」

 当たっているけど、そうじゃなくて!

「女の子として、どう思う?」

「綺麗になった」

 ニコリと微笑んで褒めてくれるのは嬉しいんだけど、やはりあの頃のまま感情に鈍感な玉彦なんだろうかと心配になってきた。

「あ、ありがと。いや、でもそういうんじゃなくてさ」

 私が口ごもれば、玉彦の右手が頬に添う。
 額に頬に彼の唇が触れて、コツリと額を合わせた。

「愛おしく想う。側にいたいとこいねがう」

「うん……」

 私は恥ずかしくて、きっと今、耳まで真っ赤に染め上げている。
 額を離して、真っ直ぐな想いで見つめ合えば。
 玉彦が私の手を握り、待ち焦がれた言葉を紡いでくれた。

「好きだ」

「私も、大好き」

 それから、吸い寄せられるように唇を合わせる。
 長かった。
 ほんとここまで長かったよー。
 思い起こせば、あれは中二の時。
 今も上手くいっている小町と守くんは早々にこれを経験していたというのに。
 離れていくのが寂しくて、玉彦の左手を握れば再び先ほどよりも長く。
 はしたないかもしれないけれど、もうずっとこうしていたいと思ってしまう。
 玉彦が私の腰に手を回して身体を引き寄せたので、きっと彼も同じ気持ちだと思……。

「何やってんだよ。こんな往来で……」

 石段を登って来た袴姿の男子二人が、呆れたように私たちを見上げる。
 背中には大弓と思われる長細い物を入れた袋を背負っていた。

「聖人君子の玉様も、上守を前にしたらただの男だな、須藤」

「だな」

 男子二人は、豹馬くんと須藤くんだった。
 二人とも背が伸びて、袴姿のせいか精悍に見える。
 豹馬くんは相変わらずの眼鏡男子で、須藤くんは長い髪をポニーテールにしていた。

 ってそんなことよりも。
 私は恥ずかしくて合わせる顔が無くて、四年ぶりに二人に会ったのにこんな場面で最悪だ。
 すると玉彦が私の髪を撫でて、自分の胸に顔を埋めさせた。

「何の用だ」

「上守さんに会いに来たんだよ。弓場さんがすごく興奮して教えてくれたから」

「弓場が興奮するくらいだから、玉様もそれどころじゃなかったろ?」

 玉彦は二人のからかいに大きく溜息をつく。

「先に行け。すぐ追いつく」

 その言葉を受けて、二人は一段飛ばしで石段を駆け上がる。
 後から聞けば、豹馬くんは稀人になり、そして御門森の血を受け継ぐ須藤くんもまた稀人になったそうだ。
 これで玉彦には、惚稀人が一人、稀人が二人現れたことになる。
 昔に玉彦が言っていた、自分の代で何かが起こると言っていたのが現実味を帯びる。
 二人が門を抜けたのを確認すると、玉彦は腕の中で固まっていた私にもう一度キスをする。

「次は邪魔者が入らぬところでだな」

「う、うん……」

 邪魔者が入らないところだとさ、キスの先まで進んじゃってもおかしくない訳で。
 玉彦とそういうことするって、想像が追い付かないというか。
 妄想をして挙動不審な私に、立ち上がった玉彦が手を差し伸べる。

「行くぞ」

「うん。あっ……いたっ!」

 手を取った拍子にチクリと踝に痛みが走った。
 鋭い針を一本刺されたような感覚。
 右足首を覗き込めば、血は出ていないものの、赤く赤く牡丹のような痣が浮かび上がる。

「玉彦……」

「どうした。虫にでも刺されたか」

 浮かび上がった痣を見た玉彦は眉間に皺を寄せて、すぐに竹婆のところへと言って私を歩かせずに抱きかかえた。

 こうして私の長い長い夏休みが再び幕を開けたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...