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第一章 さいかい
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嵐が過ぎ去り。
私と玉彦は、石段に腰かけていた。
色んな意味で、疲れた。
吹き抜ける風が髪を煽る。
「玉彦、あのさ……」
「竹婆の言葉を気にすることはない」
「うん……」
「竹婆の時と、時代が違うのだ」
いや、そうじゃなくて。
私が話したいのはそこではなくて。
子ども云々以前に、もっと大切なお互いの意思表示について。
座り直して身体を玉彦に向ければ、何かを察して彼もこちらへ向く。
「玉彦は私のこと、どう思ってるの?」
「真っ直ぐな性根で、嘘がつけない。暴走するきらいがある」
当たっているけど、そうじゃなくて!
「女の子として、どう思う?」
「綺麗になった」
ニコリと微笑んで褒めてくれるのは嬉しいんだけど、やはりあの頃のまま感情に鈍感な玉彦なんだろうかと心配になってきた。
「あ、ありがと。いや、でもそういうんじゃなくてさ」
私が口ごもれば、玉彦の右手が頬に添う。
額に頬に彼の唇が触れて、コツリと額を合わせた。
「愛おしく想う。側にいたいと希う」
「うん……」
私は恥ずかしくて、きっと今、耳まで真っ赤に染め上げている。
額を離して、真っ直ぐな想いで見つめ合えば。
玉彦が私の手を握り、待ち焦がれた言葉を紡いでくれた。
「好きだ」
「私も、大好き」
それから、吸い寄せられるように唇を合わせる。
長かった。
ほんとここまで長かったよー。
思い起こせば、あれは中二の時。
今も上手くいっている小町と守くんは早々にこれを経験していたというのに。
離れていくのが寂しくて、玉彦の左手を握れば再び先ほどよりも長く。
はしたないかもしれないけれど、もうずっとこうしていたいと思ってしまう。
玉彦が私の腰に手を回して身体を引き寄せたので、きっと彼も同じ気持ちだと思……。
「何やってんだよ。こんな往来で……」
石段を登って来た袴姿の男子二人が、呆れたように私たちを見上げる。
背中には大弓と思われる長細い物を入れた袋を背負っていた。
「聖人君子の玉様も、上守を前にしたらただの男だな、須藤」
「だな」
男子二人は、豹馬くんと須藤くんだった。
二人とも背が伸びて、袴姿のせいか精悍に見える。
豹馬くんは相変わらずの眼鏡男子で、須藤くんは長い髪をポニーテールにしていた。
ってそんなことよりも。
私は恥ずかしくて合わせる顔が無くて、四年ぶりに二人に会ったのにこんな場面で最悪だ。
すると玉彦が私の髪を撫でて、自分の胸に顔を埋めさせた。
「何の用だ」
「上守さんに会いに来たんだよ。弓場さんがすごく興奮して教えてくれたから」
「弓場が興奮するくらいだから、玉様もそれどころじゃなかったろ?」
玉彦は二人のからかいに大きく溜息をつく。
「先に行け。すぐ追いつく」
その言葉を受けて、二人は一段飛ばしで石段を駆け上がる。
後から聞けば、豹馬くんは稀人になり、そして御門森の血を受け継ぐ須藤くんもまた稀人になったそうだ。
これで玉彦には、惚稀人が一人、稀人が二人現れたことになる。
昔に玉彦が言っていた、自分の代で何かが起こると言っていたのが現実味を帯びる。
二人が門を抜けたのを確認すると、玉彦は腕の中で固まっていた私にもう一度キスをする。
「次は邪魔者が入らぬところでだな」
「う、うん……」
邪魔者が入らないところだとさ、キスの先まで進んじゃってもおかしくない訳で。
玉彦とそういうことするって、想像が追い付かないというか。
妄想をして挙動不審な私に、立ち上がった玉彦が手を差し伸べる。
「行くぞ」
「うん。あっ……いたっ!」
手を取った拍子にチクリと踝に痛みが走った。
鋭い針を一本刺されたような感覚。
右足首を覗き込めば、血は出ていないものの、赤く赤く牡丹のような痣が浮かび上がる。
「玉彦……」
「どうした。虫にでも刺されたか」
浮かび上がった痣を見た玉彦は眉間に皺を寄せて、すぐに竹婆のところへと言って私を歩かせずに抱きかかえた。
こうして私の長い長い夏休みが再び幕を開けたのだった。
私と玉彦は、石段に腰かけていた。
色んな意味で、疲れた。
吹き抜ける風が髪を煽る。
「玉彦、あのさ……」
「竹婆の言葉を気にすることはない」
「うん……」
「竹婆の時と、時代が違うのだ」
いや、そうじゃなくて。
私が話したいのはそこではなくて。
子ども云々以前に、もっと大切なお互いの意思表示について。
座り直して身体を玉彦に向ければ、何かを察して彼もこちらへ向く。
「玉彦は私のこと、どう思ってるの?」
「真っ直ぐな性根で、嘘がつけない。暴走するきらいがある」
当たっているけど、そうじゃなくて!
「女の子として、どう思う?」
「綺麗になった」
ニコリと微笑んで褒めてくれるのは嬉しいんだけど、やはりあの頃のまま感情に鈍感な玉彦なんだろうかと心配になってきた。
「あ、ありがと。いや、でもそういうんじゃなくてさ」
私が口ごもれば、玉彦の右手が頬に添う。
額に頬に彼の唇が触れて、コツリと額を合わせた。
「愛おしく想う。側にいたいと希う」
「うん……」
私は恥ずかしくて、きっと今、耳まで真っ赤に染め上げている。
額を離して、真っ直ぐな想いで見つめ合えば。
玉彦が私の手を握り、待ち焦がれた言葉を紡いでくれた。
「好きだ」
「私も、大好き」
それから、吸い寄せられるように唇を合わせる。
長かった。
ほんとここまで長かったよー。
思い起こせば、あれは中二の時。
今も上手くいっている小町と守くんは早々にこれを経験していたというのに。
離れていくのが寂しくて、玉彦の左手を握れば再び先ほどよりも長く。
はしたないかもしれないけれど、もうずっとこうしていたいと思ってしまう。
玉彦が私の腰に手を回して身体を引き寄せたので、きっと彼も同じ気持ちだと思……。
「何やってんだよ。こんな往来で……」
石段を登って来た袴姿の男子二人が、呆れたように私たちを見上げる。
背中には大弓と思われる長細い物を入れた袋を背負っていた。
「聖人君子の玉様も、上守を前にしたらただの男だな、須藤」
「だな」
男子二人は、豹馬くんと須藤くんだった。
二人とも背が伸びて、袴姿のせいか精悍に見える。
豹馬くんは相変わらずの眼鏡男子で、須藤くんは長い髪をポニーテールにしていた。
ってそんなことよりも。
私は恥ずかしくて合わせる顔が無くて、四年ぶりに二人に会ったのにこんな場面で最悪だ。
すると玉彦が私の髪を撫でて、自分の胸に顔を埋めさせた。
「何の用だ」
「上守さんに会いに来たんだよ。弓場さんがすごく興奮して教えてくれたから」
「弓場が興奮するくらいだから、玉様もそれどころじゃなかったろ?」
玉彦は二人のからかいに大きく溜息をつく。
「先に行け。すぐ追いつく」
その言葉を受けて、二人は一段飛ばしで石段を駆け上がる。
後から聞けば、豹馬くんは稀人になり、そして御門森の血を受け継ぐ須藤くんもまた稀人になったそうだ。
これで玉彦には、惚稀人が一人、稀人が二人現れたことになる。
昔に玉彦が言っていた、自分の代で何かが起こると言っていたのが現実味を帯びる。
二人が門を抜けたのを確認すると、玉彦は腕の中で固まっていた私にもう一度キスをする。
「次は邪魔者が入らぬところでだな」
「う、うん……」
邪魔者が入らないところだとさ、キスの先まで進んじゃってもおかしくない訳で。
玉彦とそういうことするって、想像が追い付かないというか。
妄想をして挙動不審な私に、立ち上がった玉彦が手を差し伸べる。
「行くぞ」
「うん。あっ……いたっ!」
手を取った拍子にチクリと踝に痛みが走った。
鋭い針を一本刺されたような感覚。
右足首を覗き込めば、血は出ていないものの、赤く赤く牡丹のような痣が浮かび上がる。
「玉彦……」
「どうした。虫にでも刺されたか」
浮かび上がった痣を見た玉彦は眉間に皺を寄せて、すぐに竹婆のところへと言って私を歩かせずに抱きかかえた。
こうして私の長い長い夏休みが再び幕を開けたのだった。
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